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祈り

 流砂に埋もれてゆく両軍のゾイド。砂漠の戦いは、ヘリックの計算どおりにはゆかず、長期戦になった。帝国軍はよくふんばり押されてはかえす一進一退の膠着状態であった。長い補給路を確保しなければならない共和国軍も長期化する戦いにあせりの色を隠せない。

 

 血なまぐさい戦場にも静かな夕暮れが訪れる。両軍の砲火がやみしばし休息の時がきた。神族の祈り師たちのもとに兵士がひざまずき、今日一日の無事を感謝する。彼らがひとしく祈るのは、朝まで元気に語り合っていた戦友の冥福であり、遠い故郷にいる家族のことであった。

 戦いに疲れ果てた兵士は戦闘ゾイドの陰で眠りについている。夕日をたよりに故郷への手紙を書いているものも少なくない。

 

 ヘリック大統領は危険を犯して最前線に司令本部を設営して全軍の指揮にあたっていた。時には、先頭に立ち突撃することすらあった。

 共和国軍の戦意は依然として高かったが、消耗は目に見えて深刻になっていった。大統領の信任厚いアイザック戦闘大隊のアイザック大尉も、愛機ゴドスのコクピットで敵陣をにらみながら長引く砂漠戦に疲れを隠せなかった。

 

 砂漠に適している軽量で強力なゾイドの開発が必要だ… 

 

 大尉はどうしても攻め切れない砂漠という自然の要塞に恐れすら抱き始めていたのだ。

 

 

 激戦に明け暮れるこの大陸に向かって、はるか未知の宇宙空間から一隻の宇宙船が音もなく接近しつつあることを、まだ誰も知らなかった。

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