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別れ

ゼネバス帝国と大国戦争の始まり

ZAC1975年~ZAC1978年

 大激動の時代を生き、大陸をひとつにまとめるという偉業を成し遂げたヘリック王は78歳で他界した。が、本来の王位継承者である第一王子、ヘリックⅡ世は王位を継がず、王位を空位にしたまま大統領となる事を望み、弟ゼネバスを共和国軍最高司令官に任命し、これを最高議会も認めた。

 

 ヘリックⅡ世は父の遺志を継ぎ、兄弟で分権し共和国の治政にあたろうと考えたのだ。しかし、この意志は弟ゼネバスには伝わらなかった。

 父の時代からそうであったが、議会は武力よりも文を、すなわち軍事力よりも政治力を重んじた。共和国内に平和が続く限り、軍部の最高司令官であるゼネバスには退屈と不満がつのるばかりであった。「強力な軍隊は、存在するだけで紛争や戦争の抑止になる」という事が若いゼネバスには理解できなかったのだ。

 

 ゼネバスは大規模な軍事演習を幾度も行い兵士を鍛え、よく統率した。しかし、このゼネバスのいらだちは次第に軍の重臣や兵士たちにまで広がっていった。

 ありあまる力をもてあまし、戦いの演習をしたり狩りをしては憂さを晴らしていた。ときに、星人を巻き込み傷を負わせたり、狩猟を禁じられている動物を殺したり、大切な作物を踏み荒らしたりと、その乱暴ぶりが目立ちはじめた。議会は、思い余ってヘリック大統領に進言、大統領は幾度となく弟ゼネバスを窘めたものだった。

 

「兄ヘリック。ならば我が軍に外の国を攻撃させてくれ。ありあまる力を有益に使えるのだから一石二鳥であろう」

「愚かな。お前の手慰みに、大切な星人を理由もなく危険にさらすことができるはずもなかろう」

 

 兄弟の意見はいつも正反対であった。しだいに、兄は弟に不信を抱き、弟は兄に不満の炎を燃やし始めた。 そして、兄弟にとって、さらに共和国民にとって、不幸で最悪の時が来た。

 ゼネバスが議会と大統領の許可を得ずに勝手に大陸の外へと軍の侵攻を図ろうとしたのだ。幸いにもこの事は事前に漏れ、大統領親衛隊によってかろうじて阻止された。

 兄弟は議会で対立した。

 

「兄ヘリック。私はなんのために生きているのだ。この燃えたぎる戦いの血をだれにも消すことはできない」

「弟ゼネバス、平和の尊さは、失ってはじめてわかるものだ。平和な今こそ耐えることが最も勇気ある戦いなのだ」

「私は政治は苦手だ。心優しき議員のみなさま、自分たちの国をなぜもっと大きく豊かにすることが悪なのだ。星人たちも、それを望んでいるのではないのか。私はゆく、すばらしい土産を持って帰ってきてやろうではないか」

「まて、弟ゼネバス。キミの軍はキミのものではない。この星人のものだ」

「ほう、しかしこの議会は兄ヘリックの思うままではないか。私はゆく」

「ならば、その前に私を倒してからゆけ」

「望むところだ。決闘の申し出を確かに受けたぞ」

 兄弟による1対1の決闘は、ヘリック王メモリアルコロシアムで行われた。戦いのプロであるゼネバスにとってヘリックは相手ではなかった。

 勝負は一瞬であった。しかし勝ったのはヘリックだった。立ち会った議員と親衛隊員が大統領につき、コロシアムからゼネバスとその一派を追放したのである。

 議員たちの行為は大統領の全く関知しないことであった。が…

 

「兄ヘリック。戦わずして策略で勝つか? やはり父の血は争えないな」

 ゼネバスの無念の叫びはコロシアム全体にこだました。

 …弟ゼネバス。これは私の望んだことではない。私は今日、お前に倒されるつもりできたのだ。兄弟の醜い争いで、この平和な星を危険にさらしたくはないのだ。私が倒れればお前もきっと悪夢から目覚めることだろう。私は逃げも隠れもしない。いつでもお前との決闘をうけて立とう。

 ヘリックの心の叫びはゼネバスに届くはずもなかった。

 

 血気にはやるゼネバスを止められる者はいなかった。彼の親衛隊を中心とするエリート軍人とその部下たちは、若く力強い司令官ゼネバスに従った。彼らは大陸統一記念日のパレード最中に決起し、大陸西部に侵攻、旧部族間戦争時の城跡にたてこもり次々と周辺領域を制圧していった。この事実により、議会はゼネバスの共和国軍最高司令官からの解任と国外追放を議決するのである。

 ゼネバスの母は、自らの命を断ち息子と行動を共にしなかった。

 

 西側領内には、かつてのガイロスの家臣や、地底族ゆかりの民たちが少なくない。ゼネバスの向こう見ずな行動は、期せずしてそんな人々に支持される結果となった。その中のひとり、伯父ガイロスの重臣であり、常日頃から共和国に反感を感じていた策略家がゼネバスに進言した。

「ガイロスの子よ! 共和制に決別し、再び戦士が戦士として生きられる、栄光と名誉の国を建国されるがよかろう。我々も命を惜しまず従い申し上げる」

 

 こうしてゼネバスは短期間で大陸西側の1/2を制圧し、≪ゼネバス帝国≫を名乗り共和国からの独立を宣言した。ヘリック共和国の理想であった平和と平等はわずか3年で崩れ去り、再び戦乱の時代の到来を見るのである。

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