ヘリック王の手紙
ZAC1975年
ヘリック王は、78歳でこの世を去った。
ヘリック二世18歳、ゼネバス16歳の時であった。王は、二人の子供に一通の手紙を遺した。
我が息子ヘリックとゼネバスに記す
父、ヘリックは次のことをお前たち二人に伝えておく。ここで知り得たことは、生涯二人だけの秘密とし、いかなることがあろうとも、他人に話してはならない。たとえ、最愛の母であろうとも。
お前たちが生まれるはるか昔、この大陸は部族同士がみにくい争いをくりかえしていた。私は、そのような争いに疲れ、トリ型のゾイドで旅に出た。しかし、私は決して星人を見捨てたわけではない。ある計画を実行するためであった。それは、自分たちの利益ばかりを考える身勝手な部族をひとつにまとめるための危険な賭けだった。
私は、その昔冒険の旅に出たことのある曽祖父の家臣の話を頼りに、北をめざした。「熱の海」「燃える空」「鉄砂の原」いくつもの危険をくぐりぬけて、たどりついたのは、この星のもうひとつの大陸、暗黒大陸であった。
すべてが、厚い鉄の氷にとざされた大陸には、憎しみと戦うことにのみ炎を燃やす軍団がいた。私はその軍の団長とひそかにコンタクトし、豊かな大陸が南にあり、そこでは今、長い間争いが続いている。いま攻撃すれば赤子の手を捻るようなものだとけしかけたのだ。奴らは私の策略に乗った。
あとは、お前たちが歴史で学んだ通りだ。もちろん、奴らが夏の暑さに脆いことを知ったうえでの策略であったことは言うまでもない。
結果、この大陸はひとつにまとまり、平和が訪れた。しかし、その為に罪もない星人の命がたくさん失われた。平和のための犠牲というよりは、その死は私の悪魔の策略による犠牲であるとずっと心を痛めてきた。私の行為は卑怯であり、私は決して星人に尊敬される資格のある人間ではないと。
わが息子たちよ、この大陸の平和はお前たちふたりの心ひとつにかかっている。
父が犯した過ちを二度と繰り返してはならない。
ヘリックよ、策略のみをもって世を治めようとしてはならない。
ゼネバスよ、武力のみをもって世を治めようとしてはならない。
父より
最愛の息子、ヘリック、ゼネバスへ