エナジーライガー
ZAC2107年。へリック共和国軍が発動した「ネオゼネバス帝国・キマイラ要塞都市攻略作戦」は、ライガーゼロフェニックス隊の決死の奇襲攻撃により、成功しつつあった。ゼロフェニックス隊は、敵キメラブロックス隊のコントロールシステムを破壊。要塞都市の防衛機能を麻痺させた。残る障害は、セイスモサウルス。ただ1機で、2つに分けたゼロフェニックス隊の一方を全滅させた怪物だ。
そのセイスモに、要塞突入に成功した凱龍輝がおどりかかった。超集束荷電粒子砲で迎撃するセイスモ。至近距離。直撃だ。眩い閃光が凱龍輝を包みこむ。だが、凱龍輝はゼロフェニックスを蒸発させ、ゴジュラスギガの装甲さえ貫いた超エネルギーに耐えきった。11枚の集光パネルが、エネルギーの大半を吸収したのだ。
だが無傷ではない。吸収しきれなかった粒子エネルギーが凱龍輝の装甲を溶かし、負荷のかかった内部回路の一部を焼き切った。そのため、集光荷電粒子砲を撃ち返せない。
それでも共和国兵士たちからは、歓声があがった。完全ではないにせよ、ついに彼らはセイスモに対抗する力を手にしたのだ。
後続の凱龍輝2番機、3番機が、そしてゴジュラスギガが次々に要塞に侵入してくる。もはや孤立したセイスモに勝ち目はない。
「セイスモサウルスを捕獲せよ!」
前線司令部から共和国兵士たちに命令が下った。無傷のセイスモを手にすることは、要塞都市攻略と同等の価値がある戦果だ。そして、今ならそれが可能なのだ。
勝機のないことを知ったセイスモが、機首を返した。後続の凱龍輝と、生き残りのゼロフェニックスがそれを追う。機動性に関しては、お世辞にも機敏とは言えないセイスモだ。逃すはずがない。共和国パイロットたちはそう思ったはずだ。だが、彼らは知らなかった。この要塞にもう1機、恐るべきゾイドが配備されていることを…。
先頭のゼロフェニックスが突然、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。何かの影が、突風のようにゼロフェニックスに襲いかかったのだ。後続のパイロットにも視認できないスピードで。
「気をつけろ!何かい…」
言い終わる前にまた影が横切り、ゼロフェニックス2番機も動かなくなった。
「よけろ! 上だ!」
後方からの味方の叫びで、辛うじて影をかわすゼロ3番機。だが影は、信じられない速さで反転、追撃し、必死で態勢を立て直そうとする3番機をいともたやすく葬った。
ようやく動きを止めた影。それは、共和国兵士が見たことのないライオン型ゾイドだった。だが、あのスピードは何だ? モニターの表示が正しいとすれば、最高速は時速600キロ以上。旋回スピードも、ゼロの倍は速い。格闘戦で、この速度差は決定的だ。ゼロなど止まっているように見えるだろう。
その新型ゾイド、エナジーライガーが、ゼロの群れを威嚇するように咆哮した。
エナジーライガーは、タキオン粒子を動力システムに応用することに成功した、帝国の次世代高速実験機だ。従来の高速ゾイドとは、レシプロ機とジェット機ほどのレベル差がある。加えて、ゼロを一撃で葬る打撃力。こと格闘戦においては、別次元の強さをもつゾイドであった。
凍りついたように動けないゼロと凱龍輝を見据えながら、ゆっくりとエナジーライガーが後退していく。この日、夜明け前にキマイラ要塞都市は共和国軍の手に落ちた。だが、共和国兵士の心をしめたのは、喜びよりも帝国の底知れぬ技術に対する恐怖だった。