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ライガーゼロフェニックス

 共和国崩壊に伴い、それまでゾイド開発を指揮していた「武器開発局」は消滅。現在、技術者たちはいくつかのチームに分かれ、それぞれが競合しあう形で開発が進められている。たとえば、ゴジュラスギガを開発した技術者たちのチーム「戦略技術部」では、凱龍輝を造り上げた。この機体で特筆すべきは、体をバラバラにしても生体機能を維持し、他のゾイドに合体できるブロックスを装甲として採用したこと。B-CASと呼ばれる技術だ。
 
 だが、似たようなアイデアが、別のチーム「武器開発局」でも企画・開発されていた。彼らが目指したのは、共和国最強の量産機ライガーゼロのための、ブロックス技術を利用した新しいCASだ。ただ着想は同じでも、開発者が違えば完成形は大きく変わる。フェニックスシステムと名付けられたライガーゼロのB-CASは、凱龍輝とはまったく異なるものになっていた。
 
 凱龍輝は、そのゾイド核を装着するブロックスのコアブロックとリンクし、戦局によってさまざまに姿を変える。汎用性に特化した、いわば足し算の機体だ。それに対しゼロフェニックスは、ブロックスを追加ジェネレーターとして利用することで、ゼロ本来の能力を倍増させるかけ算の機体。フェニックスのコアブロックがゼロの核に共振することで、ゾイド核から発生するエネルギー量を増幅し、飛躍的に運動性を高めるのだ。
 中でも、旋回性能と敏捷な格闘能力は素体状態の凱龍輝に匹敵し、ジャンプ力と滞空時間は強襲型空戦ゾイドとほぼ同等にまで強化されている。また、エネルギーCAP技術の導入により、フェニックスシステムで増幅された余剰エネルギーを背中のチャージミサイルに蓄積。360秒のフルチャージで、ゴジュラスギガのゾイド核砲1門分に匹敵する威力を得た。
 
 フェニックスシステムの有効性は、共和国上層部にも高く評価された。だが国力の限られた共和国は、凱龍輝配備を優先。キマイラ要塞都市戦において、ゼロフェニックス隊はわずか29機で出撃することになる。

 中央大陸脱出から1年あまり。凱龍輝の増産に成功したヘリック共和国軍は、機動陸軍各部隊の中からエースを集め、凱龍輝部隊を組織。中央大陸再上陸作戦を発動した。強大なネオゼネバス帝国をもってしても、大陸の広大な海岸線すべてに満足できる防御陣を築くことは不可能だ。激戦の末、共和国軍は大陸東海岸に橋頭堡を確保。再上陸を成功させた。各地に潜伏していた反帝国勢力も次々に合流し、作戦発動から2カ月をすぎる頃には崩壊以前に匹敵する共和国の大軍団が再編されていた。
 
 だがその中に、かつて最強と謳われた「閃光師団」の名前はない。その生き残りたちはかつての鉄竜騎兵団との戦いで、帝国皇帝ヴォルフ・ムーロアを逃した責任を問われ、懲罰部隊として最も過酷な任務を強制され続けていた。
 
 そして今、彼らはさらに過酷な戦場に投入されようとしていた。キマイラ要塞都市。旧共和国首都へと続く進路上に立ち塞がる、天然の巨大カルデラ内に築かれた大要塞であり、同時にキメラブロックスの一大生産工場でもある。共和国軍にとって、絶対に落とさなければならない目標だった。
 だが崖と無数の砲台に守られたこの要塞を、陸上から攻撃することは自殺行為だ。上空には、ロードゲイルが指揮する無人飛行キメラの群れ。再編途上の共和国航空師団にも、突破する決定力はない。そして、懲罰部隊に夜間の奇襲攻撃が命じられたのである。

 懲罰部隊の青いライガーゼロ29機が、要塞都市に突貫する。時速300キロ近い疾走。たちまち要塞から激しい砲撃がくる。迎撃用陸戦キメラも出撃してくる。それでもゼロはスピードを緩めない。
 自爆攻撃? 帝国軍兵士が、そう疑いたくなるほどの無謀な突撃だった。だが、彼らはまだ気づいていなかった。闇にまぎれ、ゼロを追って低く飛ぶ29機のフェニックスの機影には…

 共和国新型飛行ブロックス、フェニックス。これこそゼロのために開発されたB-CASだった。上空にいたロードゲイル、フライシザーズの群れがゼロを狙って急降下した瞬間、フェニックスがバラバラになった。そのパーツが、ゼロに合体していく。ゼロが、地面を蹴って一気に上空に飛び立った。ゼロが飛んだ…?
 ロードゲイルのパイロットは目を疑った。そこに時速340キロでゼロが滑空、突撃してくる。虚をつかれた軽量の帝国キメラはその加重量に勝てず、次々にはじかれていく。陸戦キメラを飛び越え、空戦キメラを突破したゼロ部隊は、要塞都市の外壁に到達。再びフェニックスと分離し、要塞内へと躍りこんだ。

 テレストリアルモードで砲撃を加えるゼロを、上空からフェニックスが援護する。あまりにも簡単に侵入を許した帝国司令部は、一瞬パニックに陥っている。

 この一瞬を、最大限に利用する。それが、わずか29機のゼロフェニックスで突入した懲罰部隊の生命線だ。部隊の半分が城門を押さえ、後続のゴジュラスギガ、凱龍輝部隊のための道を守る。残りの半分は、無人キメラの管制システムの破壊を狙う。

 ロードゲイルを、ディアントラーを、シュトルヒを1機破壊するたび、その数倍の帝国戦力が沈黙する。明らかに、基地防衛を無人キメラに頼りすぎた帝国軍の戦略ミスだった。

 やがて、後続部隊の先頭をきるゴジュラスギガが城門に到達した。勝った…。懲罰部隊の誰もがそう思った。だがその時だった。一筋の閃光が、彼らの眼前を走り抜けたのだ。

 閃光は、たっぷり6秒間は続いた。高出力荷電粒子砲の横薙ぎ放射。その一撃で、ゴジュラスギガの首から上が消失した。振り返った懲罰部隊から、悲鳴にも似たうめき声があがった。そこに、彼らを見下ろす巨大ゾイドがいた。


「セ、セイスモサウルス!」
 誰かが叫んだ。1年あまり前、共和国軍をまるごと中央大陸から叩き出した怪物ゾイド。その口が光り輝き、再び城門に向けられた。閃光。侵入しようとしていた2機目のギガが崩れ落ちた。その背後では、突入しようとする味方部隊が大渋滞を起こしている。今度は、共和国軍がパニックに陥る番だった。

 

 三たび、セイスモの口が城門を向く。その瞬間、ゼロフェニックス隊が四方からセイスモに躍りかかった。ゼロの武器が、セイスモに歯が立たないことは1年前の戦いで分かっている。それでも、味方が立ち直る時間を稼がねばならない。
 閃光師団だった時、彼らは鉄竜騎兵団を止められなかった。
 だから、今度こそ仲間を守る。たとえ、命をかけても!

 高速ゾイドがスピードを捨て、身を盾にしてセイスモに挑むことは、無謀以外の何物でもない。踏み潰され、叩きつけられ、撃ち抜かれ、1機また1機とゼロが倒れていく。

 

 やがて最後のゼロが静かに崩れ落ちた時、城門で咆哮が轟いた。凱龍輝だ。11枚の集光パネルの輝きが、怒りの炎のように闇の中に立ち上がる。ゆっくりと機首を凱龍輝に向けるセイスモ。

 

 今、中央大陸の戦いの行方を占う、決戦ゾイド同士の直接対決が始まろうとしていた。

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