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凱龍輝

 ZAC2106年、秋。セイスモサウルスを主力とするネオゼネバス帝国強襲部隊に敗れたヘリック共和国残存部隊は、中央大陸南端の港、クーパー港に追いつめられていた。
 すでに勝機はなく、この上はネオゼネバスの力の及ばない他の大陸に逃れるしか道はない。だが北の同盟国、暗黒大陸のガイロス帝国はあまりに遠く、西方大陸に至る西の海にはネオゼネバス主力艦隊が待ち受けていた。
 滅亡の淵に立たされた共和国軍。それを救ったのは、東よりの使者だった。ブロックスシステムを生み出した民間軍需企業・ZOITECの本拠、東方大陸である。
 
 約80年前、宇宙船の事故によって、惑星Ziに地球人が漂着した。彼らの多くは、その技術力でヘリックやゼネバスに取り入った。だが一部には、この星の戦乱の拡大を恐れ、安易な技術提供に反対した者もいた。ZOITECは、その反対派の中心となった一民族が作り上げた企業である。彼らは、ネオゼネバスに対して強い不満と不安を抱いていた。
 
「ブロックスは本来、民間の作業用の人工ゾイドであり、この大戦後の復興のために生かすべきである」
 それがZOITECの理念であった。
 だが、ZOITECがネオゼネバスに提出した復興用ブロックス開発プランは拒否された。それどころか(多分に恫喝的に)さらに戦闘用に特化したブロックスの供給を求めてきたのである。 
 
「もし、ヘリック共和国が中央大陸を統治すれば…」
 
 ZOITECの理念と共和国軍の思惑が一致し、東方大陸の地で共和国軍の再編と、対セイスモサウルス用新型ゾイドの開発が始まった(莫大な軍事費のすべてをZOITECが負担し、代わりに彼らは、共和国の大型ゾイド開発ノウハウのすべてを得た)。
 
 そして数ヶ月後。ブロックス技術を本格的に取り入れた初めての大型ゾイドがロールアウトした。そのゾイドは、共和国が再び祖国に「勝利して還る」という願いと全身の集光パネルが光り輝く様子から、「凱龍輝」と名づけられた。ZOITECに対する感謝の意を込めて、東方大陸の文字が使われたのである。

ガイリュウキ

 中央大陸南岸を守るネオゼネバス沿岸守備隊は困惑していた。寄港してくる外洋大型母艦ドラグーンネストから、往信がないのだ。


「通信機の故障か?」
 戸惑いながら近づいた検閲部隊は、母艦のハッチの内側から起こった爆発に吹き飛ばされた。

「敵襲ー!」
 
 港に非常警報が鳴り響く。爆炎と混乱の中、破壊されたハッチの奥から、帝国兵が見たことのないゾイドの一群が悠然と現れた。凱龍輝、エヴォフライヤー、ディスペロウからなる共和国部隊だ。その数わずか1個小隊。あまりにも大胆な奇襲であった。

 すぐに帝国の迎撃部隊が出る。陸にディアントラー、空にシュトルヒ、海にディプロガンズ。四方からの猛烈な砲撃に、凱龍輝の機体は3つに砕けた。

 いや違う、自ら装甲を脱いだのだ。装甲のひとつは飛燕となり、空中のシュトルヒを引き裂いた。もう一方は月甲となり、そのブ厚い装甲を叩きつけるような体当たりで海上のディプロガンズを葬った。そして身軽になった凱龍輝もまた、凄まじい速さでディアントラーを蹴散らしていく。

▲ディスペロウ、エヴォフライヤーに加え、月甲と飛燕が凱龍輝を強力に護衛する。

 凱龍輝の前に、ネオゼネバスのバーサークフューラーが立ちふさがった。凱龍輝とまったく同じティラノ型の野生体から造られたゾイド。しかも、シールドとブースターを装着した強化型フューラーだ。
 素体が剥き出しの凱龍輝に向けてエクスブレイカーが来る。イオンブースター全開でかわす。やはり機動力は凱龍輝が上だ。かわしながら、再び飛燕、月甲と合体。強固な鎧を身に纏う。

 フューラーの姿勢が低くなった。荷電粒子砲の発射体勢だ。至近距離。ブースターでもかわしきれない。閃光。直撃。

 

 フューラーのパイロットは、勝利を確信したはずだ。だが彼は一瞬後、信じられないものを見た。粒子砲のエネルギー波のほとんどが、凱龍輝のオレンジ色のパネルに吸収されていく。

 今度は、凱龍輝が姿勢を低くした。同時にエヴォフライヤーとディスペロウと合体。

 お互いのゾイド核がリンクしあい、相乗効果で出力ゲージが跳ね上がっていく。

 危険を感じたフューラーは反転をしようとした瞬間、猛烈な光の渦に飲み込まれ消し飛んでいた。

 

 

 凱龍輝の放った一撃。それは、集光パネルで吸収した光線を体内で生成して発射する集光荷電粒子砲。セイスモサウルスの超集束荷電粒子砲に対抗するために、共和国とZOITEC技術陣が出した回答であった。

 実戦テストを終え、奪い取ったドラグーンネストに乗って悠々と引き上げていく凱龍輝部隊。彼らは誓う。この部隊が量産された時、再びこの地に戻ってくると。今度は本当に凱旋するために。

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