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アルダンヌ会戦(後編)

ZAC2032年

「グランチュラが2頭、音信不通?どういうことだ!」

 

 司令室で副官が叫んだ。 共和国軍は油断していたようだ。とつぜん、森の奥からパルスビームが飛んできた。雨に拡散されてはいるが、数が多い。いくつかはスパイカーやガイサックを直撃した。

 あわてて後退するスパイカーとガイサック。それを追うようにあらわれたのは、帝国軍のゲーターだった。その数、10頭。地を低く這う姿は無気味だ。うしろからゲルダー5頭、いずれの背中にも数名の武装兵士を乗せている。

 爆発音にバラン大尉は、あわててテントから飛び出してきた。

▲森からゲーターが現れた。背中のアンテナから出る妨害電波に、共和国軍は状況がつかめないでいる

「大尉、敵の反撃です」

「なにっ、もう来たか。状況はどうなっている」

「それが、妨害電波が強くて、さっぱりつかめません!」

「だとすると、ゲーターだな。背中のアンテナから電波を出しているにちがいない。話には聞いていたが、クソッ、油断した!武装ゴルゴドスは使えるか。ゴジュラスはどうした!」

「ゴルゴドスは1頭がロケット弾をこめているところ。もう1頭は武装をつけかえているところです」

「あの腰ぬけか」

「そのあと弾をこめますから、あと30分は必要です。ゴジュラスはまだ到着しません!」

「とにかく歩兵は歩いて丘を下らせろ」

「了解!」

 

 ガイサック隊は、とりあえず窪地に体をうずめた。尾を少し立て、ロングレンジガンはつき出したまま。相手が見えるようにコクピットも一部はつき出し、攻撃の姿勢をととのえた。
 雨で霞んでいるが、前方を2頭のゲーターと1頭のゲルダーが進んでいく。狙いを定め、ロングレンジガンのボタンをすばやく押す。
 共和国側ゾイドに装備された自動照点ビームは、コンピュータによって2本のエネルギービームの弾道交差点を、必ず敵ゾイドの装甲上の一点で結ぶ。さらに雨でビームが拡散することを計算に入れて、3回左右に振りながら撃った。1頭につき、ビームを3回ずつ浴びせたわけだ。
 さすがに装甲の厚い帝国側メカ生体も、これではたまらない。ゲーターはふき飛び、ゲルダーは機能を停止した。
 

 窪地を出て移動をはじめたガイサックは、一瞬ビクッと歩みを止めた。見えない敵から身を守ろうとする。次の瞬間、体中から青白い火花をちらして、ガイサックは大爆発をおこした。勝ち誇ったように、あらわれたゲーター。
 だがそのとき、草むらから数本の白い煙が、ゲーター目がけて伸びていった。そのうちの1発が、ゲーターの腹に命中、機能を停止した。歩兵隊の反撃がはじまったのだ。

 メカ生体にとって、対メカ生体ミサイルやバズーカ砲をもった歩兵というのは、意外と厄介な敵だった。ゲルダーからも、帝国軍の武装兵士がおりてきて、歩兵どうしの撃ち合いもはじまった。
 バラン大尉は、兵員輸送用ハイドッカーも戦線に投入した。歩兵相手にはなんとか戦えたが、ゲーターのガトリングビーム砲のまえには、なすすべもなかった。

 戦力はあきらかに共和国側の不利だった。しかし、なんとかもちこたえていた。
 歩兵が対メカ生体ミサイルやビーム銃で、ゲーターやゲルダーを足止めする。そこをうしろからゴドスが仕留めているのだ。

▲ガトリングビーム砲は悪徳商人によってもたらされた強力な武器だった。小回りの効くゲーターには正にぴったりの武器で、さんざん共和国軍を痛めつけていた。

後退する共和国軍

 どうだろう。とつぜん、地面が盛り上がり、土の中から巨大な影がおどり出た。あわてて逃げる兵士たちの上に、その影はのしかかるようにして動き出した。敵も味方もない。押し潰される兵士の悲鳴。そいつは、長い体をくねらせながら、前進をはじめた。

 モルガだ!うしろの地面も次々と盛り上がり、モルガが飛び出してくる。その数5頭。 かなり前から、この5頭のモルガは、地下をもぐって忍び寄っていたにちがいない。

▲ガイサックはロングレンジガンでビームを放つが雨で拡散、モルガの体当たりをくらってしまう。

 状況がつかめると、帝国軍は勢いづいて、ふたたび攻撃をしてきた。
 一方、共和国側は、妨害電波で指揮が徹底していないこともあり、応戦するが効果がない。
 ガイサックが、ロングレンジガンでビームを放っても、雨で拡散されて、破壊力は半減している。装甲のとくに厚いモルガには通用しないのだ。逆にモルガの体当たりをくらって、押し潰されてしまった。
 じりじりと後退する共和国軍。

「大尉、モルガです!モルガ5頭が接近中!」
 悲鳴に近い声で副官がさけぶ。丘の中腹にさしかかったモルガは、稲光の中、くっきりと、その巨大な姿をあらわした。
 地面を這い、ゴルドスの体を伝わって、バラン大尉にもはっきりとその振動は伝わってきていた。まさかと思っていた、大尉の心配が的中してしまった。
「近すぎてゴルゴドスのロケット弾もつかえないな。仕方がない、体当たりだ。モルガの2,3頭は潰せるかもしれん。副官、きみたちは残った兵士をつれて後退だ。援軍との連絡はとりつけろ。妨害電波は、そう広い範囲ではないはずだ。決して援軍をまきぞえにするな」

 そのとき、数本のビームがモルガをつらぬいた。

 爆発するモルガ。一瞬閃く稲光が、巨大な影をくっきりと浮かびあがらせた。

 じょうぶな尾で、一番近くにいたゲルダーをふっとばす。木をなぎたおし、おしのけ、力強く歩きはじめたゴジュラス。そのうしろにも、2頭のゴジュラスがいる。

 

「オオッ」

 バラン大尉は、おもわず声をあげていた。ゴジュラスがこんなにも頼もしく見えたことはなかった。

 

 逃げようと、あわてて動きはじめたモルガをガシッとふみつけ、そのままグッとおさえつける。動こうにも動けない。不意に全身のあちこちから黄色い火花が散って、機能を停止した。

▲稲光の中、巨大なゴジュラスがあらわれた。

 「さあ反撃だ!」

▲逃げ出すモルガを踏みつけたゴジュラス。そのまま押さえつけ、たちまちモルガを機能停止に追い込んだ。

 残る3頭のモルガは、このあいだに体勢をたてなおすと多弾頭ミサイルを発射してきた。


 帝国軍の図形認識AIを搭載した誘導ミサイルは、敵、味方の混戦の中に発射しても必ず敵に命中する。AIが敵ゾイドと味方ゾイドの形をはっきりと記憶しているからだ。

 ズガァーンとまばゆい光がきらめいた。ミサイルが、後続のゴジュラス1頭に集中、腹部を直撃した。さすがのゴジュラスも生命体をやられたらしく、小山がくずれるように大地にぶったおれてしまった。

コ ア

 先頭の1頭と残る1頭は、一瞬おくれて30ミリビームをモルガに撃ちこんだ。2頭がふき飛ぶ。残る1頭のモルガも、先頭のゴジュラスが76ミリ砲の連打で粉砕してしまった。
 今度は帝国側が総崩れだ。逃げようとするゲーターを後ろのゴジュラスが76ミリ砲で仕留めた。妨害電波が消えた。すべてのゲーターがやられたようだ。

 

「ジョー、よくやった」
 ゴジュラスのパイロット同士の交信がとつぜん、バラン大尉の耳に飛びこんできた。
(ジョー!?)と思う間もなく、ゴジュラス隊からの連絡がつづく。
「大尉、申しわけありません。ゴジュラスが落雷で興奮して、1頭が勝手に動きだしたものですから。おとなしくさせるのに時間がかかって…」
「わかった。とにかく、次の攻撃に備えろ。やられた1頭は、こちらから救護隊を出して調べさせる」

 バラン大尉は、ゴジュラス指揮官のことばをさえぎると、手短に指示をあたえた。
 森林のあちこちで炎があがっていたが、ふりしきる雨で、やがて下火となっていった。あちらこちらに、メカ生体の死体がころがっている。

「我々ゴジュラス隊がはじめから戦線に加わっていれば、こんなにやられることもなかったろうに」
 ジョーはつぶやくと、自分の未熟な操縦技術に唇を噛みしめるのだった。


(ゴジュラスにはじめて出会ったのは、1年くらい前だった。両親と生き別れ、その生死さえ知ることができないわたしは、毎日、地球人居住地の相談所へ行っていた。両親を探させてくれと頼んでも、相談員は冷たかった。『戦争中で、どうすることもできません』と、同じ答えを繰り返すばかり。わたしは、よく泣き叫んだものだった……)

ゴジュラスとの出会い

(そんなある日、わたしはターナー少佐に呼び出されたのだった。後でわかったんだが、少佐が地球人を見舞いに来られたとき、わたしの相談所での様子を見ていたという。
『きみにあげたいものがある。生き物好きなそうだから、きっと喜んでもらえると思うよ』
 ニコッと子供っぽく笑った顔からは、帝国軍兵士を震え上がらせている英雄だなんて、まったく想像できなかった。わたしが連れて行かれたのは、第2師団のメカ生体操縦訓練所だった。わたしは立ったまま、しばらく動けなかった。わたしの見たものは、金属でつくられた、動物型の戦車。そうしか見えなかった。

『あれがゴジュラス。きみにプレゼントしよう』
 わたしは驚いた。
『エッ、でも‥、あのー、生き物…』)

(それから数日後、わたしはゴジュラスの乗務訓練生になった。
 わたしはそこでゾイド星の歴史も知った。そして、わたしが両親と巡り会うためには、この戦いを終わらせなければならないことも……。

 わたしは、ゴジュラスという生き物に対する興味から、乗務訓練を受けたのだが、親を探すには、戦いに参加して、1日も早く終わらせるしかないと思うようになったのだ。わたしだって戦争は大嫌いだ。殺しあうなんて最低だ。でも、今はそんなことをいっていられない。憎しみに燃えたゼネバス皇帝は、もう誰の言葉にも耳を貸さなくなり、日ましに軍備増強ばかりを叫んでいるらしい。
 それに、あの冒険商人たちが、悪どく皇帝に取り入っているとなると、これはたいへんなことになる。なんとしても帝国の中枢を叩き、皇帝の目を覚まさせなければ……)

▲帝国側は領内の至る所に要塞を築いていた。

 ジョーはターナー少佐から聞いた、ヘリック大統領、ゼネバス皇帝兄弟の話、その父ヘリック王の話などを思い出していた。

 

(心底憎むなんてことが、本当にあるのだろうか)

 

 ゴジュラスを配置につかせながら、ジョーは、遠くゼネバス帝国にいるはずの、両親のことを思っていた。

赤い巨体あらわれる

 ゴジュラスの出現で、さすがに敵は警戒したのか、なかなか攻撃をかけてこない。偵察隊のグランチュラからは連絡も、応答もなかった。
 敵はどう出てくるのだろう。偵察隊を出すしかなかった。バラン大尉が、指令を出そうとしたとき、
「大尉、援軍からの連絡です。まもなく到着です」
 副官がうれしそうにさけんだ。兵士のあいだから歓声があがる。
 巨大なゾイドマンモスがあらわれた。鼻を高だかとさしあげて、応えるマンモス。つづいてビガザウロ2頭。これは輸送用だ。1頭は背中のラックに、バリゲーターを2頭。もう1頭はバリゲーターとアクアドンを1頭ずつ積んでいる。さらに重装備したゴルドス2頭がいる。
 バラン大尉と短い打ち合わせをすると、支援隊は展開をはじめた。

 アクアドンが川に飛びこんだ。そのまま川をもぐって峡谷をくだり、帝国軍の戦力を偵察するのだ。雨は小やみになっている。空がしらじらと明けはじめた。

 夜明けの空に、アルダンヌの森からジョラタン峡谷にむけ、あざやかなオレンジ色のラインがひかれた。共和国軍の一斉ロケット攻撃だ。峡谷の入り口のむこう側で次々に起こる大爆発!

 数分後、こんどはもう少し峡谷に入ったあたりに、オレンジのラインがひかれた。勇猛な帝国軍を怒らせるには十分だった。地響きと、森の木が次々と倒れる音がする。

「いよいよ来るぞ、準備はいいな」

▲共和国軍の司令部目がけて、突進するレッドホーン。帝国軍が総攻撃をかけてきた。

 バラン大尉が注意をうながす。やがて数本の強烈なビームが飛んできた。
 そして、森の中から小山のような赤い巨体があらわれた。巨大な角が小山からつき出ている。帝国軍の強力戦闘メカ生体、レッドホーンだ。敵の主力がついに姿をあらわした。ビームを四方に放ちながら、一気に共和国軍の中央に突進しようとする。その前に、ゴジュラスが立ちはだかった。共和国、帝国の最強メカ生体同士の、宿命の対決だ!

▲共和国のゴジュラス、帝国のレッドホーン。両国最強メカ生体同士の宿命の対決だ。ジョーが乗ったゴジュラスは、レッドホーンの角をつかもうとするが、かわされてうまくいかない。

 様子をうかがうレッドホーン、ゴジュラスのまわりをゆっくりとまわりはじめた。
 近すぎて飛び道具はつかえない。レッドホーンの動きにあわせて、体の向きを少しずつ変えるゴジュラス。
 レッドホーンにつづいて、マーダーやゲーターも出てきた。ゾイドマンモス、バリゲーターなどが応戦する。

 ゴジュラスのわずかなスキをついて、レッドホーンがぐっと近づく。巨大な角で、2度、3度、ゴジュラスの腹部を突き上げる。たまらず後退するゴジュラス。両手でレッドホーンの角をつかもうとするが、うまくいかない。

 こんどはレッドホーン、勢いをつけてゴジュラスに体当たりをかけた。
 ガガーン!コクピットに鋭い衝撃がつたわってくる。
「ジョー、大丈夫か」
 もう1頭のゴジュラスは、残る2頭のレッドホーンを相手にしていて、応援どころではない。
「大丈夫です。それにしても強烈な体当たりだ。さあどうした!この暴れんぼう」

 

 不意にゴジュラスの片足が地面に沈みこむ。モルガが掘った穴の天井をふみぬいたらしい。バランスを崩して、倒れるゴジュラス。ここぞとばかり、レッドホーンが突進してくる。
 ガッ、ガガガガーン!鋭い角がゴジュラスの胸に突き立てられてしまった。一瞬、ゴジュラスもレッドホーンも動きを止めた。そしてレッドホーンがゆっくりと、後ずさりする。
 グァオーン!苦しそうに呻くゴジュラス。少し体をひいたレッドホーンのあごのあたりから、霧状の液が発射され、ゴジュラスの胸にかかった。たちまち白い泡と蒸気がたちのぼる。レッドホーンの必殺兵器、高圧濃硫酸だ。
 目まぐるしく動く計器、光る警報ランプ。
「まずい!」
 思わず赤いレバーに目をやるジョー。しかし、ここでそれをつかっても意味がない。ゴジュラスの目がギラリと光った。怒りが全身に満ちている。レッドホーンは、硫酸で痛めつけたゴジュラスの傷口をさらに広げようと、もう1度、角を突き出した。
 こんどはゴジュラスが角をうまく受けとめた。もう一方の手をレッドホーンのしたあごにかけ、そのまま両腕をひねった。ゴジュラスはグウーッとレッドホーンの頭をおさえつけながら、上半身をゆっくりとおこす。苦しまぎれに、レッドホーンはふたたび濃硫酸を発射するが、これは効果がなかった。レッドホーンの背にのしかかるゴジュラス。対空ビーム砲や3連電磁砲がちぎれ飛ぶ。
「よーし、いまだ。エネルギーブースト!!」
 ジョーの手が、赤いレバーをおしさげた。凄まじいパワーで、ゴジュラスが両手をひろげる。
 バキイッと音をたてて、レッドホーンの頭の上半分がそっくりはがされた。スパークの火花が散り、がくっと前足をおるレッドホーン。もはや戦闘能力はない。
 ゆっくりと立ちあがったゴジュラスは勝ち誇ったように、手に持ったレッドホーンの頭を高だかとあげると、ポーンと放り投げた。
 
「ジョー、バラン大尉だ。きみの戦いぶり、見せてもらったよ。2年くらいで、よくそこまでウデをあげたな。その調子でたのむぞ」
「ハイッ」

 

(どうして名前を知っているんだ)
 ジョーは不思議に思ったが、いまは考えている暇はない。敵を後退させて進む仲間のところへと、ジョーは急いだ。

 戦場は峡谷の入り口へ移っていた。ゾイドマンモスが、マーダやゲータをふみつぶす。
 1頭のマーダが両足のマグネッサーシステムでジャンプ。マンモスのコクピットをおそった。しかし、マンモスは長い鼻で楽々と叩き落としてしまった。
 川岸では、湿地に強いバリゲーターが活躍していた。

帝国軍が退却

▲援軍で到着したゾイドマンモスは、マーダやゲーターなどを迎え撃つ。明らかに帝国側が不利であった。

▲帝国軍を後退させながら進むゴジュラス。勇ましい姿に、共和国兵士は勢いたった。

 ついに帝国軍が退却をはじめた。陽は西空にかたむいていた。

 2日間におよぶ、アルダンヌの戦いも、ようやく終わろうとしていた。共和国、帝国とも、多大の犠牲を出し、兵士、メカ生体とも、あちこちに死体をよこたえている。

 

 バラン大尉は、戦うたびに、こんな光景は2度と見たくない、と思うのだが……。しかし、今回ほど嫌な思いをしたことはなかった。

 昔とは違うのだ。
 まったく新しい戦いの時代がやってきたことを、改めて実感したからだった。

▲帝国軍が退却したあとには、多数の死骸がころがっていた。陽が沈むころ、最前線を視察するバラン大尉の気は重かった。

――ここに、バラン大尉の手記が残されている。
「戦いが終わると、私は恐ろしい時代の到来に立ち会ってしまったのだという感を強くした。
 もはや戦いには勇気や誇り、名誉どころか、人間の判断すら入り込む余地は残されていない。パイロットは、火器管制システムにその生命を委ね、誘導ミサイルの白い航跡と、雷光よりも眩しいレーザーやビームの雨の中で、じっと戦いが終わるのを待つしかないのだ。この戦場では0.1秒が命取りとなる。
 激しい戦いが終わった時、私の乗るゴルドスが動かなくなっている事に気がついた。コクピットを降り、ゴルドスの傍らに佇んでみて初めて気がついた。その横腹には熱ビームが貫いた大きな穴が二つあいていたのだ。おそらくゴルドスは悲鳴もあげる間も無かったのだろう…。
 
 疲れきった私を待っていたのは、地球人技術者たちが作った分厚い新兵器のマニュアルだ。大気中におけるレーザーの散光率、光学兵器対応装甲の理論、知性地雷への対処、野生体本能の統制バイオリズムの数値化等々、次の戦いに備え、指揮官たるものは多くを学ばなくてはならない。昔は戦いが終わったら、戦友と酒を飲み、そして眠ったものだ。
 私が古いのか? いや、おそらく敵の指揮官も同じ事を思ってるに違いない。唯一の希望は、地球人の放った言葉。
『優れた兵器があれば、戦いは早く終わるだろう。』
 という言葉を信じるしかないのだろうか。
 
 私は、歳をとりすぎたゆえに感傷的になっているのか? 少なくとも私がゾイドのパイロットに憧れた時代は、もう遥か昔の事であることは間違いない…」

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