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地球からの移民船

銀河系大開拓団を組織

AD????年

 銀河開拓船グローバリーⅢ世号は、新しい星への夢をのせて、まもなく第3宇宙ステーションを飛び立とうとしていた。

 

 世はまさに宇宙時代。人類はすでに太陽系のすみずみまで進出し、全惑星を生活に役立てていた。当然、科学者の目は銀河系全体に向けられており、無人探査船による調査は進んでいた。

 人間が生存できそうな惑星が確認されると、地球連邦では銀河系大開拓団を組織した。科学者、冒険家をはじめ、移民を決意した人など、宇宙にそれぞれの夢を実現しようと、多くの人達が集まってきた。

 

 新しい星を目指して、数隻の宇宙船がすでに出発している。グローバリーⅢ世号も旅立ちを前に、準備が急ピッチで進められていた。乗客はすでに宇宙ステーションの出発ロビーで待っている。

 その中にジョーがいた。生物学者を父に持つ彼は、子供のころから自然の生き物が大好きだった。これまでに昆虫や豚、羊など、約70種類の生き物を育てているほどだ。父親似のジョーを、母親は苦笑しながらも温かく見守ってきた。ジョーは16歳。新しい星の生物反応に、まっさきに開拓団参加を決意したのはジョーだった。

 

「地球以外にも生物がいるなんて、ぼくはついているよ。ぜひ、この目で見たいんだ」

 

 ジョーの熱意に、両親は家族全員で移民することにしたのだった。

6万光年の旅

「グローバリーⅢ世号、発進!」

 すでに冷凍睡眠に入った乗客、乗員を乗せて、グローバリーⅢ世号は、ゆっくりと宇宙ステーションを離れていく。すべての運行は、コンピューター制御だ。やがて巨大な船体は、未知の宇宙空間へとすいこまれていった。

 宇宙移民計画の第一弾は、グローバリーⅠ世号計画で、無人の巨大深宇宙船が建造され、核融合パルス推進で光速の15%の速度で航行し、銀河系中心を探査するものだった。

 段階を踏んで最終的には反物質対消滅推進による有人探査船、グローバリーⅢ世号が銀河の対象領域を目指して出発した。 グローバリーⅠ世号出発から30年後の事であったが、科学の進歩は加速度的であり、Ⅲ世号は先に出発したⅠ、Ⅱ世号を遥かに超える加速度でこの2つの宇宙船を追い抜き、Ⅰ世号が銀河中心領域に達する遥か以前に、銀河対象領域へとたどり着いた。

 

 やがて減速が終了し、冷凍冬眠中の200名の乗員たちが目覚める時がやって来た。

 

 

 どのくらいの歳月が流れただろうか。耳もとでかすかに響く音楽に、ジョーは深い眠りから覚めた。冷凍カプセルの扉がひらくと、両親は船室でお茶を飲んでいた。

 

「おはようジョー。ここはどこだと思う。地球から約6万光年。銀河系の中心をはさんで、正反対の位置なんだ。冷凍睡眠と超光速航行の旅、いかがですか」

 おどけてみせる父親に、快適な船内生活であることがわかった。 この宇宙旅行では、目的の星へ近づくまでに、何度か船内生活がおこなわれるのだ。1回の期間が約1ヶ月。それ以外の期間は全乗り組み員が冷凍睡眠というわけだ。

「6万光年か。なんだか信じられないな……。でも、どうして冷凍睡眠のままで、目的地まで行かないの」

 不思議そうにたずねるジョーに父親は、

「この船は開拓船だけど、調査船でもあるんだ。すべてのデータが、今後の宇宙航行の参考になるんだ。船内生活の状況も分析され、データとして地球に送られている。船内生活が重要なのは、ジョーにもわかるだろう。

 もしもだ、目的の星に着いて住めなければ、地球にもどるにしても、ほかの星にいくにしても、しばらくは船内生活をしなければならないからな。それにもうひとつ、この船には仕事があるんだ」

 そのとき、船内放送を告げるメロディーが流れてきた。

 

「みなさんおはよう。わたしはこの船のキャプテンです。

 現在、地球から約6万光年の位置を航行中ですが、われわれは不思議な星を発見しました。右前方の青い星がそれです。太陽系の太陽に似た星を中心とした惑星のようですが、生物反応があります。しかも、地球とたいへんよく似た大気をもち、かなり大型の生物もいるようです。

 詳しく調査するかどうか、緊急会議を開き、検討したのですが、非常に金属反応が強い星なのです。多数の金属層が表面にも露出しているようです。どうも我々が目的とする星に比べて、生活するには適しているとの結論は得られませんでした。

 よって、調査は地球に任せるとして、我々は旅を続けることにします。なお、これまでの調査結果を知りたいかたは、データバンクで引き出せます」

 

 人類にとって銀河対象領域は長い間未知の世界だった。3つの小さな衛星を持ち、青い海が広がる第2惑星は確かに母なる地球によく似た星だった。

 乗員たちはこの星の探査を実行し、可能であれば人類の新しい拠点とすべくこの惑星に接近しようとした。航行コンピュータはこれに異論を唱え、さらに200パーセク先の別の太陽系への探査を主張した。キャプテンを始め航路決定員らは協議の末、コンピュータの意見を尊重したのだった。

 

「こりゃすごい!地球じゃ発見されていない星だ。さっそくデータを取り出してみよう。ジョー、もうひとつの仕事とは、これなんだよ。もし、目的の星よりも生活に適した星が発見されたら、目的地を変えられるんだ。より快適な星であったほうが、いいに決まっているからな。

 さて、金属反応の強い星とは、どんな星なんだろう」

反乱と不時着

 しかし、乗客の中には、結果に不満の者もいた。かつて太陽系政府の設立時に、その指導者たちのリストから外された実業家たちの一団である。

 彼らは19~21世紀の長きにわたり、世界を裏で牛耳ってきた超巨大企業家の集団で、前時代の亡霊とか、冒険商人などと揶揄されてきた者たちだ。彼らは宇宙開発すら商売にしてしまう貪欲な連中だ。リストから外された際に逃した利権を別の太陽系で再び掌握し、自分たちの王国を造る事を夢見る、正しく、古い時代の亡霊だった。

 その青い星に、海と大気、そして生命反応があると知るや彼らはその星への強行着陸を画策した。その暴動には長旅に不満を抱くクルーも加勢し、彼ら60名は脱出用シャトルを奪おうとした。

 

「緊急事態発生!乗客数十名が強行脱出をはかり、暴動を起こした模様。乗客のみなさんは船室内で、次の指示を待ってください。なお、ドアはロックしてください!」

 スピーカーからは爆発音や銃声の音に混じって、急を告げるアナウンスが流れてきた。と、強い衝撃が船内にはしった。火災を知らせる警報が鳴り響いている。

 ジョーたちは、快適なはずの船旅から、一瞬にして不安な状態へと放り出されてしまった。次の放送が入るまで、そんなに時間はかからなかった。しかし、ジョーたちには1時間にも、2時間にも感じられた……。

 「乗客のみなさん、キャプテンです。冒険商人ら数十名が、会議の決定に反して、暴力で小型船を奪い脱出しました。その際、この船の主要機関が破壊され、これ以上の航行は不能となりました。

 我々も、先ほど報告した星へ不時着するしかありません。ただちに着陸準備にかかってください」

 冷静な声が響く。船内での銃撃戦の結果、母船であるグローバリーⅢ世号の対消滅エンジンが損傷、磁場によって制御していた反物質が放出され、致命的ダメージを受けてしまったのだ。

 船内システム統括コンピュータがエマージェンシー(緊急事態発生)を叫び続け、乗客全員の脱出を命じた。外を見ると、小型船がどんどん遠のいていくのが見える。

 グローバリーⅢ世号はガクンと船首をさげると、冒険商人を追うかのように、右へ大きく旋回し始めた。 航行コンピュータは、最後の力を振り絞り、制御不可能となったエンジンを宇宙に放棄、船体を大気圏突入用の樹脂バリュートで包むと、真っ赤な火の玉となって惑星に落下してゆく船の船体バランスを必死で制御し続けた。 

 大地がぐんぐん近づいてくる。グローバリーⅢ世号は、必死にバランスを保っている。

「船首をあげろ!船首をあげるんだ!!」

 

 グワァーン、ガガガガー!
 

 船体の大半が大気圏突入時に焼失し、乗員をのせた耐熱区画だけがかろうじて、巨大な山脈の中、赤茶けた大地へとたどりついた。
 暴動勃発時の銃撃戦で何名かの死傷者は出たものの、クルーの大半は無事に惑星の大地に降り立つ事ができた。

 しかし、船は大破し、エンジンは宇宙の彼方。もはや、彼らは母なる地球への帰還は不可能であると悟り、この惑星の大気を吸った。
 未知の惑星、Zi。ここを第2のふるさととして、生き延びるしか方法は無い。

 こうして、冒険商人をはじめとする反乱者と、グローバリーⅢ世、そしてそのクルーたちは、この未知の大地へと降り立ったのだ。彼らが最初に見たものは、何処までも続く険しい岩の尾根だった。
 

 

 その風景は遥か昔、恐竜たちが闊歩していた、原始の地球のそれによく似ていた……。

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