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新たなる自由を信じて

 トンネルを出た広場に、大勢の人たちが集まっていた。人の輪の中心に一人の共和国兵士が立っていた。兵士の肩には、立派な肩紐をつけた一本のシャベルが提げられていた。


「お前さん、兵隊のくせに、銃じゃなくてスコップで戦うつもりかい?」
 兵士を取り囲む男たちがどっと笑い声をあげた。からかわれた兵士は、肩からスコップを外すと、大切そうに握りしめながら大声を上げた。
「俺はもう、一年以上、銃なんか持ったことがない。このスコップで、毎日毎日トンネル掘りさ」
「それじゃあ、まるでモグラじゃないか」
 すかさず、別の男が声をかけた。
「その通りさ。でもな、俺がこうやって生きて首都から脱出できたのは、このスコップのおかげだ。スコップは俺の命の恩人だ」
 兵士は胸を張って答えた。


 共和国首都から脱出用に掘られた数多くのトンネルの一つ、この南へ向けて20km近く掘られたトンネルの外には、明るい太陽が降り注いでいた。
 兵士はそばで道案内をしているひとりの将校に声をかけた。


「上官殿、集合場所はどちらですか?」
 将校は南へ向かう道を指さした。
「そこにはヘリック大統領もいらっしゃるのですか?一言お礼を申し上げたいんです。この『トンネル作戦』のおかげで、俺たち兵隊は死なずに済んだのですから」
 
 将校は黙って頷いた。
「そうですか!無事に脱出なさったのですね。よかった!」
 
 嬉しそうに立ち去る兵士を見送りながら、将校に姿を変えているヘリック大統領は、静かに微笑んだ。共和国首都から掘られた数多くの脱出用トンネルの出口には、それぞれ一人ずつヘリック大統領の姿をした男が、共和国の人々を迎えているはずであった。何人もの替え玉ヘリックが、明日からの戦いを指揮していくのだ。

 


 ヘリックの目は、遥か遠くへ注がれた。南へ向かう人々の長い列へ。その上に広がる青い空へ。

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