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舞い降りた赤いイグアン

国境の橋争奪戦

ZAC2042年

 共和国と帝国の国境線上を流れるバーナム川。この川を巡って両軍が何度戦火を交えたことだろうか。
 進撃するためにも、退くためにも、どうしても確保しなければならぬ重要拠点。それがバーナム川にかかるいくつかの橋だった。

 帝国領土を奪い返したゼネバス皇帝は、勢いに乗る全軍に対して、共和国進攻作戦を命令した。集められた司令官たちの前で、ゼネバスの指が、国境の一点を指した。


「アルメーヘン」共和国首都に最も近い町が国境突破地点に選ばれた。

 

 ZAC2042年。第二次中央大陸戦役の中で最も激しい戦いの一つといわれる「アルメーヘンの橋争奪戦」が開始された。

 共和国軍、アルメーヘン守備隊のサーチライトが、夜空から舞い降りる飛行ゾイドの一団をとらえた。敵か味方か?
「撃つな。あの翼の形は、味方のプテラス飛行隊だ」

 守備隊がほっとした瞬間、猛烈な攻撃が橋を襲った。翼を装備してプテラスに化けた、イグアン空挺部隊による奇襲攻撃である。

 奇襲は成功し、橋はイグアン部隊の手に落ちた。赤いイグアンに乗る空挺部隊隊長フロスト中佐は、橋の両側に部下を配置した。
 
「主力のコングMK-Ⅱ部隊の到着まで、橋を確保するのだ」
 
 だが、夜明けと共に共和国軍は、ゴドスの大軍を橋の北側に送り猛攻撃を開始した。昼を過ぎても戦火は止まず、フロスト中佐たちは食事をとる暇もなく二日目の夜をむかえた。

 ゴドス部隊がフロストたちの注意を引きつけている間に帝国領土へ上陸し、橋を渡り直して、フロスト部隊を橋の上で挟み撃ちにする作戦であった。
 
 だが、フロストの方が一枚上手であった。彼は帝国領土側の川岸に何人かの部下を配置して、共和国軍が川を渡り始めたら、ただちに報告するよう、あらかじめ手はずを整えていたのだ。部下の報告を受けたフロストは無線機に呼びかけた。
 
「チョッパー(肉切り包丁)、チョッパー、こちらカージナル(赤い鳥)。ワニが川を渡り始めた。花火をプレゼントしてやってくれ」

 橋の上空をパトロールするサイカーチスのコックピットに座っていたのは、あのトビー・ダンカン少尉だった。彼はフロスト中佐の命令を受けると、バーナム川へ向かって急降下した。サーチライトの中にバリゲーターをとらえると、ビーム砲を発射。たった二度の攻撃で、全てのバリゲーターをバーナム川の川底へ沈めてしまった。

 夜の闇がバーナム川を隠す頃になっても、フロストたちは橋の北側に釘付けにされていた。そのころ、橋の南側、1kmの地点でバリゲーター部隊が密かに川を渡り始めていた。

援軍はまだか!?

 共和国軍の猛攻撃は、すでに20時間以上休みなく続いていた。フロスト中佐が手塩にかけて訓練した勇敢な部下が次々に倒されていく。負傷者が続出し、今では傷ついていない者はひとりもいなかった。

「がんばれ、夜が明ければ、味方のコング部隊が到着するぞ」 
 フロストは、地べたを這いながら部下を励ましてまわった。


 夜明け前、何の前触れもなくゴドス部隊が姿を消し、共和国の攻撃がやんだ。だが、油断なく前方を見つめるフロストの前に現れたのは、カノントータスの大部隊であった。
 フロストと生き残った部下たちは覚悟を固めた。
 カノントータスの突撃砲が火を噴いた。つぎつぎに吹き飛ぶイグアンたち。ついに最後まで踏みとどまっていたフロストの赤いイグアンも、砲弾を浴びて倒れていった 

「帝国の大軍が到着する前に、橋を爆破するのだ」

 あわただしく爆薬をしかける共和国の工兵隊。しかしそれよりも早く、小山のようなコングMK-Ⅱが橋のたもとに姿を現した。さしものカノントータス部隊も、コングMK-Ⅱには敵うわけもなかった。

 戦いの夜が明け、朝日がバーナム川の上に昇った。国境の橋はついに帝国軍のものとなった。

 2台のコングが、フロスト中佐の愛機、赤いイグアンをそっと河原に横たえた。橋を渡っていた帝国軍の全ゾイドが行進を停止し、パイロットはコックピットで立ち上がった。
 
「頭、右。フロスト中佐に敬礼」
 
 号令が川面に響き渡った。だが、その声は、もはやフロスト中佐に届くことはなかった。

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