ゼネバスを捕らえよ!
帝国首都包囲作戦
ZAC2039年
ヘリック大統領は、小高い丘の上から、足元に広がる「白い小石の山」を見守っていた。
朝日が「小石」をきらきらと輝かせて、手を伸ばせばそのひとつをひろい上げることさえできそうだった。
だが、それは、何日にも渡る砲撃と爆撃でがれきの山となったゼネバス帝国最大の町、かつては白い町とよばれた大理石の都、帝国首都であった。
黒い影が轟音をたてながら、ヘリックの頭上を飛び越えて行った。
「新聞配達」をあだ名される朝の爆撃を終えて基地へ戻るサラマンダーの編隊である。
「エリクソン大佐!」
ヘリック大統領の背後にひかえる共和国の大部隊の中から、ひとりの男が歩み寄って来た。
「エリクソン、帝国皇帝ゼネバスを、君の手で必ず生きて捕らえよ。この戦争の終わったあと、平和な国を建設するためには、どうしても、弟ゼネバスの力が必要なのだ」
エリクソン大佐は力強く敬礼すると、彼が指揮する「王宮突入部隊」へとかけもどった。
帝国首都を包囲する共和国全軍が、ヘリックの攻撃命令を今やおそしと待ちかまえていた。
ヘリックは自ら率いる大軍を見わたしながら声をはり上げた。
「兵士諸君、長く辛い戦いだった。だがそれも今日が最後だ。
我々は今から帝国首都を包囲する。今日が戦いの最後の日だ」
「まかせてください、大統領」
ひとりの兵士が大声で答えた。
「明日は、うちの子どもたちとキャンプに行く約束をしているんですから」
ゆかいな兵士の言葉にさそわれて、大笑いの波が部隊の上を行き来した。
笑いながらヘリック大統領は、右手を高く突き上げた。
何万人もの兵士が待ち望んだ「最後の戦い」、帝国首都への攻撃が開始された。
帝国首都の道は、崩れ落ちた建物の瓦礫にうずもれていた。
共和国軍を迎え撃つ帝国軍大型ゾイド、レッドホーンは自由に動くことさえできなかった。これに対して小型ゾイドで編成された共和国突撃チームは、瓦礫の山をのりこえて、つぎつぎに敵の陣地を落としていった。
ゴドスが敵を発見し、カノントータスが突撃砲を浴びせ、ガイサックが逃げる敵兵をなぎたおした。
「目標は、ゼネバス皇帝のたてこもる王宮だぞ」
部隊の先頭を行くエリクソン大佐は、声をからして部下をはげました。
ついに共和国軍は王宮にたどりついた。エリクソンの部隊が帝国守備隊の反撃を掻い潜るようにして、王宮内へ突入した。
続いて、第二、第三の突撃チームが守備隊を突破する。その時、王宮の前に置かれていたアイアンコングの巨大な銅像が唸りを立てて動き出すと、共和国部隊に襲いかかった。
王宮の戦い
「ブロンズコング」とよばれていたコングの銅像は、王宮が危機に陥った時、自動的に動き出す強力な戦闘ロボットであった。
ブロンズコングは、むらがる共和国部隊を蹴散らしてぐんぐんと前進を続けた。そしてついに司令本部のおかれたウルトラザウルスに襲いかかった。太いコングの腕が万力のようにウルトラの首をしめつける。
「司令官が危ない!」
大あわてでかけつけたゴジュラスMK-Ⅱが至近距離から2連キャノン砲を発射。さしものブロンズコングも胸を貫かれて、どっと大地にたおれた。
辛くも生き残った司令本部に、各部隊から連絡が入った。
「町の中の敵はすべて撃破しました」
ヘリックは無言で頷いた。残る敵部隊は、王宮に立てこもる親衛隊だけであった。
ブロンズコングの出現で共和国司令部が危機に陥っていたころ、王宮内のエリクソン大佐も苦しい戦いを強いられていた。
迷路のように複雑な王宮のひとつひとつの部屋に、手強い帝国親衛隊が待ちかまえていた。その上、厚い壁に阻まれて無線通信が役に立たず、味方部隊との連絡はほとんどとれなかった。
となりの部屋で動いているのが、強力な敵の親衛隊なのか、それともすでに部屋を占領した味方部隊なのかさえわからないのだ。
「これじゃあまるで、おれたちは郵便屋か電報配達だ」
エリクソンの部下が敵の攻撃を避けながら、大声で軽口をたたいた。
「一部屋ずつドアをノックして、『ゼネバスさんはいらっしゃいませんか?』って聞いて歩いてるんだ」
エリクソンの心に焦りが芽生えた。――ゼネバスはどこにいるんだろうか。本当に、今日戦いを終えられるのだろうか?もし皇帝をとり逃がすようなことが起きてしまったら……!
だが、エリクソン大佐の目標、ゼネバス皇帝は、ほんの数十m先の部屋で、年若い飛行パイロットに命令を下していた。
「ダンカン少尉、君の兄上が今も守り続けている北部海岸の基地へ、シュトルヒで荷物を届けてくれ」
「わかりました、皇帝。荷物はどこでしょうか?」
危機に陥っても、ユーモアを忘れぬゼネバスは、不敵な笑いをうかべて片目をつぶった。
「君の目の前に立っている。つまり、この私さ」
エリクソン大佐は、ついに王宮の奥深くにある中庭にたどりついた。
「ゼネバスはどこに消えた?」
不思議がる共和国兵士たち。その時、中庭の地面が轟音と共に持ち上がると、真っ赤な飛行ゾイドが飛び出した。
皇帝ゼネバスの乗るシュトルヒである。
「覚えておくのだ、ダンカン少尉」
ゼネバスはコックピットで静かにつぶやいた。
「今日が、新たな戦いの最初の日になるのだ」