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実りなき勝利の行進

共和国首都、帝国軍の手に

ZAC2044年

 デスザウラーに首都防御線を破られた共和国軍は、共和国首都に立て篭もった。共和国の都は、何十万人もの兵士と、その数十倍にものぼる避難民ではちきれんばかりだった。

 ZAC2044年、復讐に燃えるゼネバスは、兄ヘリックの都、共和国首都の攻撃を命令した。
 アイアンコング、レッドホーンの巨砲が、首都の城壁に、昼も夜も砲弾を浴びせ続けた。城壁にわずかな裂け目が開くと、サーベルタイガーとヘルキャットが突撃を繰り返した。第一の城壁が破られ、数週間後には第二の城壁が破られた。残る最後の城壁に、これまで以上に激しい砲撃が嵐のように降り注いだ。

「明日の朝より、共和国首都に突入する」
 ゼネバス皇帝は、包囲する全軍に命令を下した。

 ゼネバス皇帝は崩れかけた城壁の上から、朝霧の中に横たわる町を見続けていた。ようやく白くなり始めた空は、灰色の厚い雲に覆われていた。町はまだ眠りから醒めず、どこにも動くものの姿も音もなかった。
 ゼネバスは、もう何十年も会っていない兄、ヘリックのことを考えた。この大きな町のどこかにヘリックがいる。彼は今、何を思っているのだろう?迫り来る敵兵を恐れているだろうか?それとも戦いに敗れた自分に対して腹を立てているのだろうか?
 ゼネバスは、ゆっくりと首を振った。いやいや、あの優しい心を持つ兄は、共和国の国民と兵士の行く末を心配して胸を痛めているに違いない。あるいは、戦いの中で死んでいった者のために、祈りを捧げているかもしれん。


 ゼネバスは空を仰いだ。薄墨色の雲から無数の雪が舞い降りて、空と荒れ果てた大地の間を満たしていた。
 数え切れぬほどの部下が死んでいった。それを上回る多くの人々が、心に癒すことのできない傷を負ってしまった。あのトビー・ダンカン少尉のように。
 今日、これから始められる戦いで、また多くの兵士が倒れていくことだろう、与えられた小さな務めを果たすために。それで戦いの炎は消えるのだろうか?
「今日一日が終わるまで、それは誰にもわからない」
 ゼネバスは城壁を降りていった。彼自身の務めを果たすために。共和国首都への突入命令を下すために。

 砲弾が最後の城壁に撃ち込まれた。崩れ落ちた瓦礫の山をこえて、帝国軍兵士が共和国首都に突入した。敵の反撃を避けて、通りから通りへ、建物の陰から陰へ、兵士たちは駆け続けた。

 だが、彼らを狙うはずの銃弾は、一発も飛んでこなった。広場にも陣地にも建物の中にも、共和国軍兵士はおろか、町の住民たちさえ、誰一人として残ってはいなかった。
 無人の首都にいるのは、銃の引き金に指をかけた数万人の帝国軍兵士だけであった。主を失くした町に、季節外れの雪が静かに降り積もり始めていた。

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