ふるさとをわが手に
ゼネバスの逆襲
ZAC2041年
ZAC2041年、バレシア湾に面した共和国海軍基地は、おだやかな朝を迎えていた。
港に停泊していたウルトラザウルスの飛行甲板で新兵の訓練が行われていた。海を背にして立つ髭面の下士官が号令をかけた。
「気をつけっ、休めっ、気をつけっ」
ひとりの新兵が、姿勢を崩すと、口をあんぐりと開けて海面を指さした。
「は、班長殿っ、ぎょっ、ぎょっ、魚…」
「ばか者、列を乱すな!」
規則破りの新兵をどやしつけようと、下士官の拳が振り上げられた時、突然、爆発音とともに甲板が波のように揺れ、下士官の体は空中に放り投げられた。
大きく傾いたウルトラのすぐそばに、見たこともないゾイドが浮上して来た。ウルトラに魚雷を浴びせた、帝国軍新型ゾイド、ウオディックである。
ヘリック大統領が恐れていた日が、とうとうやって来た。ゼネバス皇帝が帝国軍を率いて暗黒大陸から攻めて来たのだ。
バレシア基地の撤退からわずか一年と数ヶ月。この短期間のうちに、ゼネバスは兵士たちの訓練を終え、新型ゾイドを開発し反撃作戦の準備を整えたのだ。ヘリックは、弟ゼネバスの指導者としての能力の素晴らしさに尊敬と恐れをいだいた。
同じ頃、エリクソン大佐は、共和国首都近くの新型ゾイド開発研究所で、帝国軍出現のニュースを聞いた。彼は、バレシア基地で捕獲したサーベルタイガーをもとに、さらに強力な高速移動ゾイドを開発しようとしていたのだ。
「私がゼネバス皇帝を捕らえていれば、あの時戦いは終わっていたのに……」
エリクソンは、研究員の白いガウンを脱いだ。平和な一年間だった。だが、もう一度野戦司令官の軍服を着る日が来たのだ。
「やり残した仕事を片付けに行くんだ」
エリクソンは、そう言って自分自身を励ました。
ウオディックの活躍で共和国海軍を撃破した帝国軍は、中央大陸への上陸作戦用に開発されたクジラ型ゾイド、ホエールカイザーを連ねて上陸を開始した。
浅瀬に着水した巨大飛行船、ホエールカイザーの胴体から、新型ゾイド、ディメトロドンが次々に吐き出される。不意をつかれた共和国陣地は、瞬く間に突破されてしまった。
背びれ型の高性能アンテナを持つディメトロドンは、強力な妨害電波を出して共和国の無線連絡を断ち切った。さらに、通信、偵察用ゾイドのゴルドス部隊を撃破。共和国の通信網をズタズタにした。
このため共和国司令部は、帝国軍の上陸地点を正確に知ることさえできなかった。
司令部とも連絡がつかず、援軍を求めることもできぬまま、海岸線の共和国守備隊が次々に降伏した。ついに北部海岸地帯は、強力な帝国軍上陸部隊のものとなった。
歓声を上げながら続々と上陸する帝国軍兵士たち。暗黒大陸での辛い生活は終わり、一年数ヶ月ぶりにふるさとの大地に帰ってきたのだ。