勝利への大きな賭け
ウルトラザウルス上陸作戦
ZAC2038年
皇帝ゼネバスの「巨大な右腕」が偏西風にのって共和国の上に覆いかぶさっていた。
アイアンコング、サーベルタイガー、レッドホーンを中心とする五つの精鋭師団が五本の鋭い爪のように、ヘリック大統領の治める豊かな大地を引き裂いた。
だが、帝国軍の損害も大きかった。前線で傷つくゾイドの数は増え続け、各師団とも交代の部隊の到着を待ちこがれていた。中央山脈を越えての補給は困難をきわめ、その上、補給ルートに対するサラマンダーの爆撃は日々激しさを増していた。
帝国軍の進撃はレッドリバーの西岸で停止し、川をはさんで両軍がにらみ合う形になった。
帝国軍には川を越えるだけの力がなく、共和国軍も敵を中央山脈のかなたに叩き出す決め手を欠いていた。
季節が移り、中央大陸の東岸を洗うマルガリータ暖流を越えて、湿った東風の吹く時期がきた。風は中央山脈につき当って多量の雨を降らし、共和国の平原を泥沼に変えた。
ヘリック大統領の待ち続けた雨期が来たのだ。
帝国軍が泥沼の平原で行動の自由を奪われている時、共和国軍は、秘かに前線のウルトラザウルスを共和国南岸のクーパー港に集結させた。
帝国軍の背後をつく危険な大作戦、帝国領土への上陸作戦が開始されたのだ。
帝国南部、ミーバーロス湾。午前5時2分前。朝の漁に出かける漁船が岬をまわると、突然そこに巨大な島が立ちふさがっていた。フロレシオ海を渡って帝国の海に現れたウルトラザウルスの巨体であった。
驚く漁師たちの耳に雷のような砲声がとどろいた。
午前5時、上陸作戦の火蓋が切られた。
帝国海岸におしよせる共和国小型ゾイド。スネークス部隊がまっ先に帝国海岸陣地に襲いかかった。砂浜はたちまち、炸裂する砲弾の煙で覆われた。
帝国守備隊がスネークスと必死の戦いを続ける隙に、共和国大型ゾイドが防御線を突破した。
海岸線は共和国軍の手に落ちた。休む間もなく奥地へ向けて前進したゴジュラスの前に、サーベルタイガーが現れた。
うなりをあげて襲いかかるゴジュラス。ウルトラが無事に奥地へ攻め込むまで、帝国軍をくいとめるのが彼らの任務なのだ。
唸るウルトラキャノン砲
北に向かって前進を続けるウルトラ部隊の前に、目に見えぬ細い道が伸びていた。共和国上陸部隊のすべてのゾイドが命をかけて守る一本の道。それは、帝国軍の残留部隊が全力をあげて遮断しようとする道でもあった。
その道の先には、共和国へ侵入した帝国派遣軍に作戦を発する重要基地、皇帝ゼネバスが自ら指揮に立つ司令本部があるのだ。
司令本部を攻撃し、これを帝国の奥深くへ撤退させる。そして、中央山脈の西側に、山脈にそって共和国軍の陣地を築けば、共和国に侵入した帝国の大軍は、いっさいの補給と、帝国へ帰る道を失うのだ。
全力で走るウルトラの頭上を偵察型プテラスが追いこしていった。司令本部の正確な位置を探しに行くのだ。ウルトラに乗るすべての兵士が祈るような気持ちでプテラスを見上げるのだった。
共和国軍の防御線を突破したアイアンコングがウルトラ部隊に襲いかかった。
1台のウルトラが身を盾にしてコングの前に立ちふさがった。次々と減っていくウルトラ部隊。だが最後の1台が司令本部を砲撃できれば、作戦は成功するのだ。
霧の上をプテラスは飛び続けた。妨害電波でレーダーは役に立たない。プテラスが危険を覚悟で高度を下げようとした時、霧の切れ目から司令本部の建物がちらりと現れた。
「シレイホンブ ハッケン…」
通信が霧の海を飛んだ。
ウルトラのキャノン砲がゆっくりと空に向けられた。砲手以外の乗組員全員が飛行甲板にとび出して、かたずをのんで前方を見つめた。
「撃て!」
轟音と共に2発の砲弾が発射された。
砲弾が空気を切り裂いて目標に向かう。吸い込まれるような静けさの後、はるか遠い前方に白い煙が立ちあがり、一瞬遅れて炸裂音と砂塵がウルトラを包んだ。
命中か?それとも失敗か?
通信士が甲板にとび出してきた。
「命中だ、司令本部はふっ飛んだぞ」
歓声を上げる乗組員。共和国の命運をかけた作戦は成功したのだ。