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標的を探せ!

 激戦深まるゾイド星の2大戦力、ヘリック共和国軍とゼネバス帝国軍。もはや両軍の武力は予想以上に高まり、故郷の星をも破壊しかねない程に、戦火が広がりつつあった。そうした激戦の中、共和国軍の開発した戦闘飛行ゾイド「サラマンダー」はその優れた破壊力と機動性により早くもその戦闘空域を拡大しつつあった。戦闘空域の拡大は、両軍の勝敗を大きく左右するもので、地上戦闘や海域戦闘にも大きく影響を与える勝利への大事なポイントなのである。


 こうして、共和国軍は今までの陸上戦闘ゾイドを防衛網用とし、「サラマンダー」を中心とする空域戦闘ゾイドを攻撃用へとその戦力を広げていった。そのため、共和国軍では「サラマンダー」の量産体制がとられ、各秘密工場での量産型「サラマンダー」の開発へと力を集中していた。


 一方、帝国軍では「サラマンダー」によって戦闘空域を縮小されたことを重大視し、打倒「サラマンダー」への作戦がたてられていた。しかし、今現在帝国軍には時間と物理的な問題から「サラマンダー」に対抗すべき空域戦闘ゾイドの開発は現実的なものではなく、時間は刻一刻と経過され、帝国軍最高司令部の参謀達の顔には焦りの色が見え始めていた頃、帝国軍の兵器開発部では新たなメカニックが今、完成の産声を上げようとしていた……。

新鋭サイカーチス偵察隊

 帝国軍の兵器開発部の第2ファクトリーから、今新たな偵察用メカニックの試作機がテストフライトに先駆け、専用カタパルトへと移動していく。その数は3機。まだ量産化へのラインは開発されておらず、ハンドメイドの部分が多いカスタムメイド機である。
 機体の前に長く伸びた角状の偵察用レーダーは、今まで帝国軍で開発されたレーダー類とは段違いの性能を持ち、そのレーダーの先端には、大型戦闘ゾイドの装甲をも粉砕できるほどの強力なレーザー砲を2門装備している。機体は、特殊合金により軽量化と耐久性を高められ、ボディ全体をレーダー波を吸収する特殊塗料で塗装されており、敵レーダー網を突破する機能を備えている。また、着陸脚は6本あり、陸上での活動に際し、あらゆる路面での歩行を可能にし、地上での作戦にも十分な仕様に作られており、帝国軍の次期偵察用の主力となるメカニックとされ、コードネームを「サイカーチス」と名付けられた。


 専用カタパルトにセットされた「サイカーチス」3機による新鋭偵察部隊は、各々のエンジンのアイドリングと各パイロットのレベル調整を済ませ、今離陸準備に入ろうとしていた。パイロットはリーダー機、空挺部隊第1師団所属の地球人マードック中尉。サポート機には同師団のガリム少尉とギル軍曹の猛者パイロットの3名である。
 各部の点検を終えた3機の「サイカーチス」はプロトタイプ機にも関わらず、癖の無い軽快で静かなエンジン音と共に脚をたたんだ特有の離陸形態で、第2ファクトリーの特設カタパルトを離れた。

標的

 第2ファクトリーを離陸して約30分後。早くも「サイカーチス」3機は共和国軍のバトルエリアへと侵入していた。通常であれば、このバトルエリアに侵入すると同時に迎撃ミサイルの雨が降るのだが、幸いにも新開発のレーダー波吸収塗料が予想以上の働きを果たしている。なおも偵察隊の3機は山影にカモフラージュするべく低空飛行の状態に入った。

 

 共和国軍のバトルエリアの中心部は奥深い山間部に集中しており、空陸問わず外部からの侵入を困難なものにしていたが、帝国軍の偵察用ゾイド「サイカーチス」は簡単にその盲点を見つけ出し、中心部へと接近していった。高度約127メートル上空でマードック中尉のリーダー機のレーダーパネルに移動する巨大物体を感知した。

「こちらマードック。敵の移動部隊を発見!!大物だ」

 

 この通信は特殊ビーコンによって暗号化され、司令部にリアルタイムで電送された。電送されたデータは戦略用のコンピュータで分析され、その結果、帝国軍の目の上のこぶである「サラマンダー」の輸送師団と判明したのであった。直ちにその情報は、同じく暗号化されて、偵察中のマードック中尉へと返信された。

「しめた。カラス野郎(サラマンダー)だ。こいつの腕ならしに攻撃をかけるぞ」
「中尉殿、大賛成であります!
 自分はカラス野郎のために多くの戦友を亡くしております。その戦友たちの弔いの為にもカラス野郎を叩かしてください」
「少尉、私情は禁物だ。しかし、今のカラス野郎は『グスタフ』の上でオネンネ中だ。叩くなら今だ。ギル軍曹、貴様はどうする?」
「ハイ。もちろん自分もお供させてください」

 そして3機は素早く攻撃態勢に入り、共和国軍の輸送師団へと奇襲をかけた。

 一方、共和国軍の輸送師団は「サラマンダー」の極秘である量産工場からの輸送のため、輸送用の牽引ゾイド「グスタフ」だけによる師団構成をとっており、たった3機の小型ゾイドの奇襲にも、成す術が無かった。

 

 こうして、偶然にも起きたこの戦闘により、新鋭ゾイド「サイカーチス」の能力が発揮されたのである。ただし、この戦闘により得た情報及び、戦果は帝国軍、共和国軍の戦記には記されていない。

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