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大氷原の戦い

新型コングの恐るべき罠

ZAC2037年

 中央大陸の最北端、ザブリスキーポイント。中央山脈がゴルゴダス海峡になだれこむ半島の先は、雪と氷でおおわれた氷河地帯だ。両国の国境が、とけることのない氷の海に消えるこの地域を確保すれば、北からの侵入作戦が可能になる重要地域。
 しかし、極寒の厳しい自然があらゆるゾイドの進入を阻んでいた。

 "エコー"が選んだ決戦の場はここであった。作戦は、SOS無線信号から始められた。共和国の暗号を使った救援信号が、氷河地帯の奥深くから発せられた。いくつもの共和国部隊が救援に向かったが、一台のゾイドも帰ってはこなかった。
 ついに共和国軍は、氷河地帯へのすべての部隊の立ち入りを禁止し、補給を受けずに長期単独行動の可能なウルトラザウルスに調査を命じた。

 手抜かりなく練り上げられた"エコー"の罠に向けて、ウルトラザウルスは歩み始めたのである。

 猛烈な吹雪とマイナス50度まで下がる気温。調査は困難をきわめた。
 救援部隊の消滅の理由が吹雪による遭難説にかたむきかけた頃、凍りついた共和国ゾイドの残骸が発見された。
 そこには、攻撃の跡が明らかに残っていた。
 何者かがこの氷原に潜んでいる。兵士たちは不安気に吹雪の奥をうかがった。


 さらに前進を続けるウルトラの前に、ひときわ巨大な残骸の山が現れた。
 なぞのSOS信号は、そこから発せられていた。
 
「メインエンジン、スローダウン」
 ウルトラは前進を止めた。

 その時、残骸の山が大きく崩れ、舞い上がる氷の中から、真赤に塗られたコングが躍り出た。

 

 この一瞬のために極寒の中に耐え続けてきた、"エコー"自らが操縦するアイアンコングMK-Ⅱである。

 "エコー"は、あわてるウルトラの背後をつくと、背中にむき出して装着されていた寒冷地用エネルギータンクを撃ち抜いた。
 ぐんぐんと低下していくウルトラの出力ゲージ。数分のうちに体全体が凍りついてしまうだろう。あわただしく救援信号が打電された。

「コチラ ウルトラ、ゾイド ゴジュラスノ キュウエンヲ コウ……」

激突!MKⅡ

ゾイドゴジュラス対アイアンコング

 ウルトラザウルスを単独でおびき出し、これを殲滅する。そのためには、ウルトラしか進攻できない場所を戦場に選ぶ。"エコー"が、寒冷地用コングを開発し、極北の氷原に潜み続けた理由はそこにあった。
 
 極秘のうちに彼がウルトラを撃ちたおせば、第二のウルトラザウルス調査隊が派遣されるだろう。それを待ちかまえて再度打ちたおす。
 こうして、共和国軍司令部が彼の恐るべき罠に気づくまで、たった一人でウルトラに戦いを挑み続ける。"エコー"の超人的な決意の前には、北極の寒さも何ほどのものでもなかった。そして彼の自信を支えていたのは、自ら開発したアイアンコングMK-Ⅱの抜群の戦闘能力であった。
 
 しかし、さしもの"エコー"も予測できぬ事実があった。
 かつて、共和国のオギータ研究所が開発した改造メカ、ゾイドゴジュラスMK-Ⅱが、ウルトラを守るために四機のサラマンダーに抱きかかえられて、交代で常に上空をパトロールしていたのだ。
 
 共和国軍司令部がこの作戦にかける熱意は、"エコー"の計画に劣らず常識の域を越えていたのである。

 ブリザードを突き破って、ゾイドゴジュラスMK-Ⅱが氷原に跳びおりてきた。背中に装備した二門の高速キャノン砲がうなりを上げてコングをならう。

 炸裂する砲弾が白夜の氷原を赤く照らし出す。

 しかし、コングは、横すべりだけでこれをかわしていく。驚異的な運動性能。次の瞬間にはゾイドゴジュラスの背後にまわり込んで、右腕のミサイルランチャーを突きつけていた。

 だがその時、"エコー"は、自ら操縦するコングが、ウルトラの砲門の延長線上に身を晒していることに気づかなかった。
 
「撃て!!」
 
 ウルトラの小型ミサイルがコング目がけて発射された。

 99%勝利をにぎった"エコー"の心に、わずかな隙があったのだろうか。不意をつかれたコングは、ウルトラのミサイルを浴びて大きくはじけ飛んだ。
と同時に、ゾイドゴジュラスのキャノン砲が高速で旋回して背後のコングに向けて火をふいた。
 装甲を撃ち破られて氷の上にたたきつけられたコングのコックピットは、見るも無残に破壊されていた。
 
 天才コマンド"エコー"は、ついにその素顔を共和国軍にさらすことなく倒れていったのである。

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