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奪われた超極秘ゾイド

ウルトラザウルス奪回作戦

ZAC2037年

 新型ゾイドの開発が勝敗の行く手を決めるゾイド戦役では、その極秘情報の入手に両軍とも全力を上げる必要にせまられた。「スパイ・コマンド」の誕生である。

 敵地に忍びこんで情報を盗み出し、必要となればたった一人でも戦える特殊戦闘員、それが「スパイ・コマンド」だ。優れた頭脳と人並み外れた戦闘技能を誇る彼らの中でも、両軍を通じてその名を知られた優秀な戦士が帝国軍の中にいた。 暗号名は「エコー(山びこ)」。その素顔を知る者は帝国軍の中でも数名しかいなかった。

 

 ZAC二〇三七年、帝国空軍飛行場から一機のシンカーが離陸した。翼の上には小型ゾイド、ハンマーロックが搭載されていた。 飛行の目的地しか知らされていないシンカーのパイロットが、もしハンマーロックのコックピットに座る男の正体を知ったなら、驚きで我を忘れてしまっただろう。その男こそ、伝説中のコマンド"エコー"だったのだ。

 

 シンカーの行き先は、レッドリバー上流の共和国基地。そこでエコーは、彼自身が考えた出した作戦をただ一人で実行しようとしていた。ゾイド戦役中、最も大胆で気違いじみた作戦、共和国が総力を上げて完成した超巨大ゾイド「ウルトラザウルス」の乗っ取り作戦である。

 "エコー"の乗るハンマーロックを搭載したシンカーは、暴風雨をついて共和国基地に潜入した。守備隊がだれひとり気づかぬうちに、ハンマーロックはウルトラザウルスのカタパルトに飛びおりた。


 ハンマーロックからふき出した催涙ガスが兵士たちを襲う間に、"エコー"はコックピットを占領した。うなりを上げて動き出したウルトラは、わずか数分のうちに基地を破壊し、その巨大な主砲を共和国首都の方角に向けた。
 首都への砲撃こそ"エコー"の目的だった。
 だがその時、がれきの山の中に奇跡的に生き残った一台のカノントータスが、至近距離から突撃砲を発射。砲弾は幸運にもウルトラのレーダーに命中した。

 予想外の出来事にあわてる"エコー"の隙を突いて、カノントータスは無事脱出に成功した。

 

 レーダーによる長距離砲撃をあきらめた"エコー"は、ウルトラを首都に向けて前進させた。首都への直接攻撃に変更したのである。

 

 共和国司令部はハチの巣をつついたような騒ぎになった。陸軍にとってウルトラは待ちに待った新型ゾイドである。できれば無傷でとりもどしたかった。 また、ウルトラを破壊するとしても、それを実行できるゾイドがあるのか、自信はなかった。

 一方、空軍の意見は異なっていた。両軍を通じてただ一つの重爆撃機、サラマンダーの攻撃力に信頼を置く空軍司令は、ウルトラといえどサラマンダーの猛爆にたえられるとは思えなかった。

 

 陸軍、空軍の対立で会議がもめ続けている間も、ウルトラは首都に接近していた。 ついに空軍司令が立ち上がり大声を上げた。

「首都間近の谷にウルトラが入れば、爆撃は不可能になる。 そうなった後、陸軍にウルトラを破壊する自信はおありか!」

 

 攻撃が決定された。サラマンダーによる空爆である。

 サラマンダーがウルトラを破壊すれば、空軍の強さを陸軍に見せつけることができる、空軍司令のねらいはそこにあった。共和国全軍が見守る中で、サラマンダーのミサイルがウルトラを直撃した。巨大な炎の中にウルトラが沈んでいった。

ゾイドゴジュラスにも止められない驚異のパワー!

 薄れていく煙のなかからウルトラザウルスの巨大な姿が現れた。

「サラマンダーのミサイルもきかない!」

 

 共和国軍は自ら開発した兵器の恐ろしさに言葉を失った。 もう、だれにもこの怪物を止めることはできないのだろうか。

 

 共和国軍の司令官たちが頭をかかえていた頃、ウルトラを開発した研究所で、一人の若い軍人がウルトラの設計図の山にとりくんでいた。

 ウルトラ基地からただ一台生きて帰ったカノントータスのパイロット、トーマス中尉であった。

 至近距離からウルトラのレーダーを破壊した彼は、ウルトラにも弱点があると信じていた。調査に協力した研究所の科学者と彼は、同じ結論に達した。弱点はコックピットのキャノピー(風防ガラス)であった。

 キャノピーのみが脱出のために戦闘中も動くように作られている。そこを直撃すれば、ショックで開くかもしれない。そうすれば、あの帝国軍コマンドを捕らえることができる……。

 

 トーマス中尉のこの作戦は司令部に報告され、直ちに採用された。 共和国、帝国の運命をかけた戦いは、今や二人の男の知恵と勇気の争いに変わっていた。 凄腕のコマンド"エコー"と、若き砲撃の名手、トーマス中尉の戦いである。

 

 ウルトラザウルスは首都直前にせまっていた。せまい谷間を通過すれば、首都は目の前である。ウルトラのコックピットで"エコー"は決戦に備えていた。

「共和国軍が戦いを挑むとすれば谷の出口だ。そこには共和国の大軍が待ち構えているにちがいない」

 

 しかし、予想に反して谷の出口のどこにも共和国軍の姿は見えなかった。谷をふさぐように、破壊されたらしい二台のゾイドゴジュラスが赤錆びた体を横たえているだけだった。

拍子抜けした"エコー"がウルトラをさらに前進させようとした時、突然ゾイドゴジュラスがむくりと起き上がり、ウルトラを左右からおしもどし始めた。 "エコー"の裏をかく、トーマス中尉発案の奇襲作戦である。さしものウルトラも一瞬動きが止まった。

「今だ!」

 岩かげに隠れていたトーマス中尉操縦のカノントータスが突撃砲を発射した。吹き飛ぶウルトラのキャノピー。トーマス中尉が第二弾を発射しようとした瞬間、むき出しのウルトラの頭部から"エコー"の乗る小型ビークルが大空のかなたへ飛び出していった。

 作戦は終了した。コマンド"エコー"はとり逃したが、ウルトラザウルスは無事共和国軍の手に戻ったのだ。

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