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駆け下りた超巨大ゾイド

帝国軍山岳基地陥落

ZAC2046年3月

 ゼネバス皇帝がゾイド星中央大陸の上をゆっくりと歩いていた。大陸の中心を南北に走る中央山脈の山襞の一つを、丹念に見続けた。
 
「明かりを頼む」

 ゼネバスの声を合図に部屋がぱっと明るくなった。巨大な部屋の床いっぱいに、中央大陸の地図が描かれ、その周りを帝国軍の司令官たちが取り巻いていた。
 
「諸君、共和国軍は中央山脈の南から北へ前進を続けている。9月には、我が国のイリューション市と共和国エツミ港を結ぶ南部山岳道路を抑え、10月には大陸の中央を横切るミドル・ハイウェイの分断にも成功した。ヘリックの次の目標はここだ」
 ゼネバスは、帝国トビチョフ市と共和国ウィルソン市を結ぶ北国街道が、中央山脈と交わる地点に立った。
「ここには、我が軍最大の山岳基地がある。共和国軍はここを攻め落とし、共和国に駐屯する帝国軍を袋のネズミにしようとしているのだ。ところで諸君、共和国軍とは別に、北から強大な軍団が攻め降りていることをご存知か?」
 
 司令官たちは互いの顔を見合わせた。
「それは冬将軍だ。中央山脈の冬は厳しく、また長い。しっかりとした基地を持つ我が軍と、吹きさらしの山肌にへばり付いて戦う共和国軍と、どちらが寒さに耐えられるか、考えてみるまでもないだろう」
 ゼネバスは自信に満ちた声を響かせた。
「山岳地帯に共和国軍をおびき寄せ、ここで決戦を挑む。春の訪れを見ることができるのは、我々だけだろう」

 帝国軍山岳基地を、共和国軍の陣地が二重三重に取り囲んだ。ゼネバスの予測とは違って、共和国軍は雪が降り積もる時期になっても本格的な攻撃を開始しようとはしなかった。

 

 戦闘といえば、ベアファイターとスネークスが、トンネルを掘って侵入し、基地の中を掻き回してはさっと引き上げるくらいであった。共和国軍は、冬にも関わらず長期戦を狙っているのだった。

​ 戦いが長引くにつれて、逆に帝国軍基地の食料や燃料が底をつき始めた。共和国の包囲陣のために、あらゆる補給がストップしているのだ。
 雪の晴れ間を狙って、帝国空軍のサイカーチスが空から物資を基地に投下しようと試みた。だが、重い荷物のためにスピードが上がらぬサイカーチスは、高射砲装備のカノントータスにすべて撃ち落とされてしまった。

「もはや、デスザウラーの救援を仰ぐしかない」
 
 山岳基地の危機を司令部に報告するために、サーベルタイガーを中心とする特別部隊が決死の覚悟で基地を脱出した。

 だが、救援に向かったデスザウラーも、雪のために前進を阻まれた。吹雪の中で立ち往生したデスザウラーを待ち受けていたのは、寒冷地戦用マンモスの冷凍ガス砲の攻撃であった。


 たちまち行動の自由を奪われるデスザウラー。ついに帝国山岳基地は、一切の救援を断たれたのだった。

 どんなことがあっても、デスザウラーの救援を失敗させること、それが共和国軍の勝利の条件であった。寒さの厳しい山岳地帯で、あえて真冬に攻撃時期を定めた理由もここにあった。 

 

 共和国包囲部隊には、ゼネバスの気付かぬもう一つの秘密があった。フロレシオ海をこえてゲルマンジー半島に陸揚げされた補給物資は、「ヘリック・ルート」と呼ばれる秘密の山道を通って少しずつ、しかし耐える事なく、最前線の包囲部隊に運び続けられていたのだ。共和国軍が長期に渡る包囲戦を戦い抜けたのは、「ヘリック・ルート」を支えた何万人もの兵士の活躍によるものだった。


 デスザウラーが、寒冷地戦用マンモスに前進を阻まれていた頃、「ヘリック・ルート」を通って、包囲戦に決着をつける兵器が共和国部隊に届けられた。分解されて運び込まれた5台のウルトラザウルスである。ウルトラは、帝国山岳基地を見下ろす山頂に運ばれ密かに組み立てられた。


 吹雪の止んだある朝、帝国山岳基地に激しい物音が鳴り響いた。慌てて兵舎を飛び出した帝国軍兵士が見たのは、雪の急斜面を雪崩と共に駆け降りて来るウルトラザウルスの一群であった。反撃する暇もなく、あっという間に基地はウルトラの巨大な足に踏み躙られ、何万トンという雪に飲み尽くされてしまった。


 ゼネバス皇帝が勝利の切り札と頼んだ冬将軍は、逆に帝国軍を雪と氷の下に閉じ込めてしまったのである。

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