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フランツの挑戦

帝国コマンド、共和国軍に潜入

ZAC2045年6月

 クック基地への攻撃とフロレシオ海海戦の勝利によって、ヘリック大統領は広大な「領土」を我が手におさめた。北はシート海から南はフロレシオ海に至る「海の王国」である。ウルトラザウルスに守られた船団が、共和国の港から港へ自由に行き来して、兵士や物を運び続けた。やろうと思えば、中央大陸の西側、ゼネバス帝国の海へ乗り込むことさえできるのだった。 

 これほどの大勝利を手に入れながら、ヘリック大統領は、隠れ住む小島から出ようとはしなかった。小島の地下に巨大な研究所と工場を完成させ、対デスザウラー用の超巨大ゾイドの開発を続けていたのだ。ヘリックの頭の中には、デスザウラーを倒すことしかないかのようであった。
 
 同じ頃、帝国軍の中にも、ヘリックに負けぬ熱意で作戦計画を練り上げている男がいた。ウルトラザウルスに教え子の命を奪われたフランツ大尉である。

「戦争が続く限りシュミットやルドルフのような若者の命が奪われていく。1日も早くこの戦争を終わらせなければならない。そのためには…、そのために俺ができることは…」

 フランツが考えついた計画とは、敵の総司令官、ヘリック大統領の誘拐作戦であった。帝国と共和国のどちらかが勝利を収めぬ限り戦いは終わらないだろう。だがフランツ一人で共和国軍を打ち破ることなどできるわけがない。しかし、ヘリックを捕らえることができれば、戦争を終わらせることができる…。
 今まで誰も考えたことさえない、危険で難しい作戦であった。生きて帰れる可能性はほとんどなかった。
 
「だが、俺の力で戦争を終わらせるためにはこの作戦しかない。そうだ、シュミットとルドルフを見殺しにした時、俺の人生も終わったんだ」
 フランツ大尉は、たった一人で戦いを挑もうとしていた。

 フランツ大尉は、ゼネバス皇帝に「ヘリック大統領誘拐作戦」の許可を求めた。
 
「だがフランツ、ヘリックには多数の替え玉がいる。どうやって本物のヘリックに近づくのだ」

「ヘリックの一番欲しい物を目の前にぶら下げれば、必ず本物のヘリックが現れます」

「それはいったいなんだ?」
 フランツはニヤリと笑って答えた。
 
「デスザウラーです、皇帝」
 ゼネバスはフランツが提出した作戦書を何度も読み返した。
 
「よし、作戦を許可する。だが、忘れるな。どんな事があっても、ヘリックを殺してはならんぞ」

 数日後、前線の共和国陣地に敵に追われる共和国兵士が逃げて来た。人並み外れて長身のその兵士の後ろには、帝国ゾイド、レッドホーンが地響きを立てて迫っていた。
 
「早くここまで来い!塹壕に飛び込むんだ!」
 共和国陣地の守備隊全員が声援を上げる中を、兵士は共和国陣地に転がり込んだ。その瞬間を待っていたかのようにレッドホーンのビーム砲が火を噴いて、守備隊の隊員をなぎ倒した。

「くそっ、味方の敵討ちだ」
 
 大男の兵士は、守備隊員の止めるのも聞かず、陣地の外へ飛び出した。そして、巨大な手持ちミサイル一発で、レッドホーンのコックピットを見事に撃ち抜いた。

「すごい男だ。たった一人で敵の大型ゾイドを撃ち倒したぞ」

 歓声を上げて迎える守備隊員に、逃げてきた兵士は驚くべき情報を伝えた。
「デスザウラーの作戦指令書を奪って来たんだ。司令部に連絡してくれ」
 
 だが、この大男の兵士こそ、実は共和国兵士になりすましたフランツ大尉であり、彼が撃ち倒したレッドホーンは、自動操縦の無人ロボットゾイドであった。

謎の生存者

 フランツが奪ってきた帝国軍の作戦指令書は、直ちにヘリック大統領の手に届けられた。作戦指令書には、デスザウラーの行動予定が詳しく記されていた。
 
「大統領、これさえあればデスザウラーの撃破はもちろん、無傷で捕獲することさえ夢ではありません」
 ヘリックの副官たちは目を輝かせた。
「この作戦指令書を奪った兵士は何者だね?」
「8ヶ月前、デスザウラーによって全滅させられたゴジュラス駐屯地の生き残りと申しております。敵の占領地にたった一人でとり残され、命がけで脱出して来た模様です」
「デスザウラーとの戦闘を体験した兵士か。一度会うことにしよう」
 
 ヘリックは副官たちに命令を下した。
「速やかにデスザウラー捕獲作戦を実施せよ。この機会を逃したら、二度とデスザウラーは手に入らんぞ」

 前回の捕獲作戦で2種類のゾイドを使う共同攻撃の難しさを知った共和国軍司令部は、サラマンダーによる単独攻撃を採用した。小型ミサイルを多数装備したサラマンダーがデスザウラーの行動地域に向かった。​

 荷電粒子砲も届かぬ高い上空から赤外線ホーミングミサイルを発射。デスザウラーのエンジンから出る熱を感じる高性能センサーを備えたミサイルは、針の穴を通すほどの命中精度でデスザウラーを直撃するはずであった。

「ミサイル発射!」
 サラマンダーの小型ミサイルが雨のようにデスザウラーに降り注いだ。不意を突かれたデスザウラーは大あわて。その中の1発はデスザウラーのただ一つの弱点、背中に剥き出しになっているインテークファン(回転する羽根)に見事に命中。弱点を突かれたデスザウラーは、たちまち動けなくなった。

「今だ、パイロットを眠らせてしまえ!」
 山陰に隠れていたコマンドウルフが、デスザウラーのコックピットに飛び乗った。次の瞬間、特殊装備のノズルが風防ガラスを突き破って、催眠ガスをパイロットに浴びせかけた。

「やったぞ、デスザウラーを無傷で手に入れたぞ」

 直ちに、デスザウラーを運ぶ大型グライダーが飛んで来た。

「ヘリック大統領の秘密基地へ運ぶんだ」
 
 この作戦を指揮した司令官は、共和国兵士になりすましたフランツにも声をかけた。
「君も大型グライダーに乗って秘密基地へ向かえ。大統領直々に、お褒めの言葉を頂けるぞ」
 
 フランツはニヤリと笑いながら敬礼を返した。ヘリック大統領に重大な危険が訪れようとしているとも知らず、大型グライダーは、フランツを乗せてヘリック大統領のもとへ飛び続けるのだった。

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