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かわされた必殺の一撃

デスザウラー捕獲作戦、失敗

ZAC2045年3月

 幾人ものヘリックが、共和国の海岸地帯を駆け巡っていた。


 ある時は、シールドライガーとコマンドウルフを率いて帝国軍の輸送部隊を襲い、またある時は、ウルトラザウルスに乗って海上から帝国海岸基地にキャノン砲を浴びせた。

 何百kmも離れた二つの帝国基地を、同じ日の同じ時刻に攻撃することも珍しくなかった。

 

 「ヘリックが部隊を率いて救援に現れたぞ」
 このニュースが伝わるだけで、戦闘中の共和国軍は勢いを盛り返し、逆に帝国軍は浮き足立った。
「ヘリック大統領の弟はゼネバス皇帝一人だが、ゼネバス皇帝には100人のヘリック兄さんがいる」
 共和国の兵士たちは、そう言っては笑い合った。


 本物のヘリック大統領を捕らえるために、何十万人もの帝国兵士が帝国本土から派遣されてきた。しかしこの新たな援軍も、各地に現れるヘリックの部隊と戦うために分散されて、結局は共和国軍の動きを止めることはできなかった。

 それどころか援軍の半数以上は共和国軍に撃破され、援軍の持つ銃、弾薬、燃料、食料、そして戦闘ゾイドまでもが、共和国軍の物となった。怖いもの知らずの共和国兵士は、帝国軍の援軍を「我が軍の補給部隊」と呼び、彼らとの戦闘を「お買いもの」と言い出す始末だった。
 
 替え玉ヘリックたちが華々しく活躍している頃、本物のヘリック大統領は、数人の将軍と共にフロレシオ海の小島の洞窟に潜んで全軍の指揮をとっていた。電気も水道もない生活であったが、ヘリックには何の不満もなかった。ただ一つ、彼が欲しがっていたもの、それは敵の主力ゾイド、デスザウラーであった。デスザウラーを撃ち倒す強力な新型ゾイドを開発する時に、デスザウラーが一台あれば、どれほど研究の助けになることだろう。


 ヘリック大統領のこの願いを知った部下の将軍たちは、大統領に黙って、密かにデスザウラー捕獲作戦を決定した。無敵のゾイド、デスザウラーに挑む危険な作戦が発令された。

 共和国ゾイドの中で最速のスピードを誇るシールドライガー部隊が、デスザウラー発見のために敵占領地の奥深くへ散った。

 デスザウラーを捕獲するためには、単独で行動している時を狙うしかない。共和国内に駐屯する何台かのデスザウラーに、シールドライガーが1台ずつはりついて、攻撃のチャンスを狙った。

 ついに、1台のシールドライガーから暗号無線が届いた。
「迷子の"竜"が海水浴に出かけた」

 直ちにサラマンダーとウルトラザウルスに出撃が命じられた。

「ウルトラが砲撃地点に到着したと同時にミサイル攻撃だ」
 サラマンダーのパイロットは相棒の砲手に念を押した。
「任せて下さい。デスザウラーの注意を我々の方にバッチリ引いて見せますよ」
 
 だが、第一の悲劇が幕を開けようとしていた。ウルトラザウルスが予定していた攻撃開始時刻よりも早く、サラマンダーとデスザウラーが出会い、戦闘が始まってしまったのだ。

その時、足の遅いウルトラザウルスは、まだデスザウラーをキャノン砲の射程内に捉えてはいなかった。


「砲撃を開始しろ」
 ウルトラのパイロットがキャノン砲の砲手に命令した。
「この距離ではデスザウラーの弱点に砲弾を命中させるのは無理です」
 砲手が悲鳴を上げた。
「ぐずぐずするな、サラマンダーがやられてしまうぞ」

 4門のキャノン砲が立て続けに火を吹いた。だが、それはめくら撃ちとも言える、無茶な砲撃であった。

 ウルトラの発射した砲弾が唸りを立ててデスザウラーの周囲に落下した。射程外からの砲撃としては、奇跡といっても良い命中精度であった。

 しかし、この作戦で要求されていたのはデスザウラーのただ一つの弱点、背中のインテークファンを撃ち抜くことだった。ウルトラの接近に気づいたデスザウラーは、ウルトラの潜む方角に脅しの荷電粒子砲を発射。ウルトラは退却するしかなかった。

 悲劇の第二幕がサラマンダーに訪れた。ウルトラの退却を知らぬサラマンダーが、もう一度デスザウラーの注意を空に引きつけようと、接近して攻撃を開始したのだ。だが、サラマンダーを待ち構えていたのは狙い澄ました荷電粒子砲の一撃であった。
 
 小島に潜むヘリック大統領のもとに、このちぐはぐな戦闘の結果が報告された。ヘリックは厳しい顔つきで部下の将軍たちを見渡した。

「諸君の気持ちには感謝する。だが今後は、私の許可無くデスザウラーを攻撃してはならん」 
 ヘリックはペンを取り上げた。
「サラマンダーの乗組員の家族への戦死報告は、私が自分で書くことにしよう」
 ヘリックの目がわずかに潤んだ。
 
「兵士の命は、どんなゾイドよりも重いのだ」

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