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小さな戦士たち

共和国軍、中央山脈へ進出

ZAC2045年8月

 ゾイド星中央大陸の「巨大な背骨」、中央山脈。2千mをこえる険しい山々の連なるこの山脈こそ、一つの大陸を、西と東の二つの国に分断し、いつ終わるとも知れぬこの戦いを産み出した最大の原因かもしれなかった。ヘリック大統領は今、この広大な山脈に闘いを挑もうとしていた。共和国軍の勝利と、中央大陸の平和を手に入れるために。

 ウルトラザウルスの陽動作戦によって、共和国の大部隊は無事ゲルマンジー半島の海岸線を占領した。兵士とゾイドを運んだウルトラ艦隊は、クーパー港とゲルマンジーの間を何度も行き来して、17万人の兵士と膨大な物資をピストン輸送した。
 
 波に揺られ船酔いに苦しんだ共和国兵士たちを待ち構えていたのは、中央山脈の山道を這い登るきつい行軍であった。だが、この険しい山岳地帯こそ、強敵、デスザウラーの前進を阻み、共和国兵士の命を守る砦になるはずであった。
 
 戦いの舞台が、これまでの平原地帯から山岳地帯に移ると共に、戦いの主役も大きく変わっていった。デスザウラーを頂点とする帝国軍武装、重装甲軍団は、小回りの効かぬ巨体故に姿を消し、軽快な動きを誇る共和国中型ゾイド部隊が、戦いの中心に踊り出た。
 帝国軍が、サーベル、ハンマーロック、ヘルキャット、イグアンの4種類しか山岳戦用ゾイドを持たぬのに対して、共和国軍はシールド、べア、ウルフ、ゴドス、カノン、ゴルヘックス、スネークス、ガイサックと9種類ものゾイドを戦線に投入した。
 とりわけ活躍したのが、「山岳戦の狼」コマンドウルフであった。深い森の中を自由に駆け回り、敵の位置を探り出しては、味方を勝利に導いた。そして、危険な偵察任務につくコマンドウルフをしばしば助けたのが、味方の進攻を待ち望んでいた、山岳に住む共和国の人々であった。

 中央山脈の山奥に、戦火のために親を失ったみなし子たちだけが住む小さな村があった。子どもたちは、捨てられた旧式ゾイドを修理して、彼らの村を作り上げたのだった。
 ある日、敵に追われ傷ついた1台のコマンドウルフが村に逃げてきた。少年たちは、自分たちの力だけでパイロットを帝国軍の追跡部隊から守ろうと決意した。

「コマンドウルフを囮にして、帝国軍を待ち伏せるんだ」
 リーダーの少年は、旧式ゾイドに乗って、コマンドウルフのそばの茂みに潜んだ。やがて、追跡部隊のツインホーンが現れた。

「逃げたウルフを発見したぞ。パイロットを捕まえろ」
 帝国兵がツインホーンから降りた瞬間、隠れていた少年たちのゾイドが躍り出た。


「やったぞ、ツインホーンを乗っ取ったぞ」

 谷間の道を敵の本隊が登って来た。

「よし、砲撃で倒してやれ」
 リーダーが声を上げた

「でも、どうやって?」
「なあに、全部のスイッチを押せば、弾がとび出すさ」

 リーダーの言葉通り、ツインホーンの砲が火を噴いた。弾は敵の頭を飛び越えて崖に命中。 
「しまった、大外れ!」
 
 ところが崖が敵ゾイドの上に崩れ落ち、一瞬にして帝国部隊を埋めてしまった。

 ついに帝国軍は、強力なブラックライモスを繰り出してきた。

「これはいかん。『秘密兵器』」の所まで後退しろ」
 リーダーは全員を丘の上に避難させた。その後を追ってブラックライモスが少年たちの前に躍り出た。しかしそこには、夕日を背にしたゴジュラスMK-Ⅱの勇姿が!


「しまった。共和国の主力部隊だ」
 ライモスは大慌てで逃げ出した。

 山道を退却するブラックライモス。突然、崖の上から水が滝のようになだれ落ちて来た。なだれ作戦に味をしめた少年たちが、山頂の湖の土手をツインホーンで砲撃したのだ。ライモスは真っ逆さまに谷底へ落ちていった。

​ 次の日、コマンドウルフを救助に来た共和国部隊は目を丸くして驚いた。土と木でできた偽物のゴジュラスMK-Ⅱが森の上に突っ立っていたのだ。
 
「これで敵を追い払ったんです」

 リーダーの少年が誇らしげに説明した。少年たちは、自分たちの知恵と勇気だけで傷ついたパイロットを守り通したのだ。

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