たった1台の"上陸部隊"
ウルトラザウルス陽動作戦
ZAC2045年7月
ZAC2045年7月、共和国南岸の港という港は、大小様々な船と完全武装した兵士ではちきれんばかりであった。17万人の上陸部隊と5千隻の大艦隊が、中央山脈南端のゲルマンジー半島への上陸作戦を今や遅しと待ち構えていた。
上陸部隊の主力が集結したクーパー港だけでも、フロレシオ海海戦で帝国海軍を打ち破ったウルトラザウルス艦隊を中心に、輸送船、上陸用舟艇から小型ヨットまで千隻をこえる船が港をうずめていた。すべての船を海上に並べれば、クーパー港から上陸地点のゲルマンジー半島まで一本の橋が架けられると兵士たちはもっともらしい顔で話し合った。
だが、ゾイド戦役史上最大の兵力を結集した上陸部隊にも、ただ一つ気がかりな問題が残っていた。上陸予定地点の近くに、恐るべき敵ゾイド、デスザウラーの存在が確認されていたのだ。
「上陸中をデスザウラーに襲われたら、ゲルマンジーの浜辺が我が軍の墓場になる。絶対にデスザウラーを上陸地点に近付けるな」
ヘリック大統領の命令で、デスザウラーをおびき寄せる陽動作戦が発令された。
ゲルマンジー上陸部隊の出撃、12時間前。1台のウルトラザウルスが、輸送船に乗せられた2台のゴジュラスMK-Ⅱと数隻のバリゲーターを従えて、夜明けのフロレシオ海を渡っていた。
目指すは、ゲルマンジー半島の対岸、ディエップの浜辺。ここにデスザウラーを引き寄せて、上陸部隊がゲルマンジーに上陸を完了するまでの12時間デスザウラーと戦い続けなければならないのだ。
上陸した共和国部隊は、帝国軍海岸陣地に襲いかかった。
次々に撃ち込まれるキャノン砲弾。デスザウラーをおびき寄せるために、できるだけ派手に暴れ回らなければならないのだ。矢継ぎ早に撃ち出される砲弾の熱で、キャノン砲の砲身は赤く焼け付くほどであった。
「しめた!デスザウラーが現れたぞ!」
ゴジュラスMK-Ⅱが接近するデスザウラーにキャノン砲を叩き込んだ。しかし、デスザウラーは砲弾に怯む様子も見せず、MK-Ⅱを捉えると巨大な前足の爪でキャノン砲を毟り取った。
ゴジュラスMK-Ⅱ部隊を撃破したデスザウラーは、ディエップの浜辺へ向かった。
「共和国上陸部隊の本隊が浜辺にいるはずだ。一撃で海へ叩き出してやる」
デスザウラーの背中に装備されたオーロラインテークファンが回転を始めた。
「荷電粒子、吸入開始。主力エンジン、フルパワー!」
空気中の荷電粒子が、デスザウラーの体内に吸い込まれ加速され始めた。
「加速スピード70パーセント、80…90…95パーセント」
デスザウラーの頭部が不気味に光りだし、いくつもの放電が小さな稲妻のように首や頭の表面を走った。
「荷電粒子砲、発射!」
その瞬間、目も眩むような光の塊がデスザウラーの口から一直線に突き進んだ。
勇者は帰らず
荷電粒子砲の光が、ディエップの浜辺を切り裂いた。
数千個の太陽が共和国軍部隊の目の前で砕け散った。そのあまりの明るさに、粒子砲の光が通過した所以外は一瞬にして暗闇に覆われた。光が掠めただけでウルトラザウルスの巨体が飴細工のように舞い上がり、浜辺に叩きつけられた。光の通過した真下の海水は、熱湯になりあっという間に蒸発して、海もまた真っ二つに切り裂かれた。荷電粒子砲の一撃が通り過ぎた後、ディエップの浜辺に、動くものの姿はどこにもなかった。
だが、浜辺の有り様を見て、最も驚いたのは、荷電粒子砲を発射したデスザウラーのパイロットであった。
「ウルトラザウルスが1台しかいないぞ!?上陸部隊はどこだ?敵の大軍はどこにいるんだ?」
その時、遥か彼方の沖合に、西へ向かって進むウルトラザウルスの大艦隊が現れた。ゲルマンジー半島を目指す上陸部隊の第一陣であった。
「しまった!上陸拠点はここではない。対岸のゲルマンジーだ。囮作戦にひっかかったぞ!」
デスザウラーは海に向かって前進した。
「陸地を戻っていては間に合わん。海を渡って、ゲルマンジーへ辿り着いてみせる!」
その時、死にかけていたウルトラザウルスがむくりと起き上がると、最後の力を振り絞ってキャノン砲を発射した。砲弾は油断していたデスザウラーの背中に見事に命中。デスザウラーのただ一つの弱点、インテークファンを破壊した。
インテークファンを破壊されて、デスザウラーのエネルギーはみるみる少なくなっていった。だが、パイロットは前進を止めなかった。
「俺の任務は共和国上陸部隊を撃破することだ。デスザウラーが動く限り、任務を捨てないぞ」
ついにデスザウラーはウルトラ艦隊に追いついた。しかし、荷電粒子砲の使えぬデスザウラーはウルトラの敵ではなかった。キャノン砲の一斉砲撃を浴びてデスザウラーは海底に沈んだ。
「たった1台で、ウルトラ艦隊に挑んでくるとは、敵ながら勇敢な兵士だ」
ウルトラのパイロットたちは海に消えた敵の勇姿を心に刻みながら、ゲルマンジーを目指すのだった。