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戦争の二つの顔

R・S・トーマス

「ゾイドバトルストーリー」を書き始めた頃、私は、この記録がこれほど長いものになろうとは、夢にも考えていなかった。その理由は、第一に戦争が帝国首都包囲戦(ZAC2039年)で終結すると思えたこと、第二の理由は、コマンド"エコー"と私との戦いを書き残すことだけが、最初の目的だったからだ。
 しかし、書き進むうちに、私はこの戦争を記録することに、身も心もとらえられてしまった。
 戦争には二つの顔がある。無意昧な破壊、嘘にまみれた謀、残酷な暴力、そして殺人。これらは人間の最も醜い部分だ。それと同時に、超人的な勇気と我慢強さ、友人への信頼、そして自分の命をも捨てて誰かを救おうとする愛の心、こういった奇跡のような物語もまた、戦場で生まれることがある。我々ゾイド星人の心にすむ悪魔と天使が戦場で同時に姿を現すのだ。
 私はその両方を書くことができればと願っている。
 
 ZAC2044年、私は、トンネルを抜けて共和国首都を脱出する人々の中にいた。いつ襲ってくるかも知れぬ帝国軍の影に怯えながら、数十キロにわたる辛い行進を続けていた。肩に重い荷物を背負い、食料も水もなく、感覚のなくなった足を引きずるように歩き統けた。私のそばに、病気の妹を抱きかかえて歩く若い女兵士がいた。健康な男でさえつらい行進に二人の姉妹が耐えられるわけがなかった。ついに二人は道端に倒れこんでしまった。人々は二人を哀れんだが、自分を守ることで精一杯で、誰も助けようとはしなかった。 (恥ずかしいことに、私もその一人だった)
 
 そこへ、一人の将校が歩み寄って来た。将校は二人に水筒の水を飲ませ、わずかながら食料を与えてから、病気の妹を背負って立ち上がった。感謝のあまり涙ぐむ姉に、励ましの言葉をかけながら、将校は二人を連れて歩き始めた。
 私の胸の中は、ばつの悪い気持でいっぱいになった。その時、誰かが低い声でこういうのが聞こえた。
「大統領だ。間違いない。あの将校はヘリック大統領だ」


 無事脱出に成功し、我が軍の支配地域に落ちついてから、私はあの将校が本当にヘリック大統領だったのか調べ歩いた。その結果、うれしいことに、あの将校は大統領本人に間違いなかった。それと共に、妹を救ってもらった女兵士が親衛隊に志願して、大統領を守る軍務に就いていることも知った。
 私は、3冊目の「ゾイドバトルストーリー」を、このローザという女性を中心に書き進めようと思う。ゾイド戦役と、ゾイド星の未来に大きな役割を果たすこの女性は、二人の軍人の生き方に消すことのできぬ影響を与えることになる。一人は、共和国総司令官、ヘリック大統領。もう一人は、帝国軍人、フランツ大尉。自ら望むことなく歴史の舞台に立たされた、3人の物語を始めたいと思う。
 
―ZAC2047年、中央山脈の山村にて―

▲帝国陸軍大尉 フランツ=ハルトマン

▲共和国陸軍親衛隊大尉 ローザ=ラウリ

▲共和国軍総司令官 ヘリック大統領

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