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明日への脱出

『オルディオス五百機実戦配備完了』
 
 共和国のあらゆる都市へ、そしてエントランス湾へ、偽りのHZ暗号が飛び交っていた。共和国の運命をかけた、ヘリック一世一代の大博打であった。
 暗黒皇帝ガイロスのもとへ、『ギル・ベイダー撃墜さる』の報が届いた。事故ではなかった。残骸が発見された砂漠の砂の上に、大きく『HERlC』の文字が描かれていたという。ガイロスの手は怒りに震えた。
 さらにその怒りの炎に、傍受された共和国最高機密、HZ暗号の驚くべき内容が油を注いだ。ギルを落としたと目される共和国新鋭ソイドが五百機!
 
「中央大陸に向かったギル大隊を引き返させろ!」
 鉄の意志の皇帝ガイロスが、生まれて初めて予定を変更した。この時、ヘリックは大博打に勝ったのだ。
「甘く見すぎていたようだ。貴様の兄弟をな…」
 ガイロスは、となりで目を閉じている男に言った。
 
 元帝国皇帝ゼネバスは、ゆっくりと目を開けた。彼には全てがわかっていた。ガイロスがヘリックに一杯食わされたと知る頃には、今度は本当に五百機のオルディオスが配備されているだろう。
「しばらく、様子を見るしかないでしょうな」
 ゼネバスは短く言った。ガイロスは答えなかった。
 
 
 七日後――。一台のレイノスが波の飛沫をかぶりながら、超低空で東へ、中央大陸へと飛行していた。
 コックピット内には、懐かしい曲が鳴り響いている。
 
 "運がよければ、彼女はおまえを待っている"
 
「まったくだ。このレイノスが飛行可能だったとは」
 暗黒大陸の砂漠から、クルーガが海岸線に辿り着いた時、第一次上陸作戦の際に置き去りにした愛機レイノスが、当時のままの姿で彼を待っていたのである。
 
 東へ、東へ――。クルーガは明日がやって来る方角へ、全速力で駆けていった。

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