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裏切られた密約

ゼネバス親衛隊の最期

ZAC2051年3月

「要塞占領軍は、正体不明のソイドと交戦中!」
 
 中央大陸の司令基地で、ヘリックは異変の第一報を受けとっていた。
「ゴジュラス小隊全滅。ウルトラザウルス大破」

 次々に打電される戦況報告は、悲惨を極めたものであった。
 
「いったい何が起きたのか…。まさか、やつらが…、暗黒軍が……」
 帝国軍とのどんな激戦の最中にも感じることのなかった寒気が、ヘリックの背筋を走った。 
「ニカイドス島の全軍を退却させよ。このままでは、我が軍は間違いなく全滅する」

 ヘリックの直接の指令を受け、共和国軍はわけもわからないまま、ニカイドス島を放棄した。島の各所に避難していた帝国軍兵士は、歓喜の声をあげ再び要塞に戻って来た。
 だが、喜びは束の間であった。帝国軍を救いに来たはずの暗黒軍の銃口が、突然今度は帝国軍の兵士たちに向けられたのだった。

 共和国に対抗するため、ゼネバスが北の果ての大陸の暗黒軍と結んだ密約が、もろくも破られたのだ。暗黒軍は、残った帝国兵士を捕虜にし、帝国ゾイドを奪い去ろうとしていた。
 
「裏切ったな! 暗黒軍め」
 ゼネバスは、最後の戦いを決意した。

 それは、まさに死ぬための戦いであった。
 ゼネバスに残されていたのは、皇帝直属の親衛隊のみで、兵員は百に満たなかった。対する暗黒ゾイドは、デッド・ボーダーただ一台。
 常識的には負けるはずのない戦いであったが、暗黒ゾイドの恐るべき破壊力については、ゼネバス自身が誰よりも良く知っていた。
 ゼネバスは、側近の将校を呼ぶと、一通の暗号文書を手渡した。
「おまえは生きて、この手紙をヘリックに届けるのだ。中央大陸を救う道は、それ以外にない」
 
 デッド・ボーダーとゼネバス軍の戦いは、あまりにもあっけなく終わった。
 デッド・ボーダーのGカノンは、一瞬にして、デスザウラーの生命体を貫くと、空高くゼネバス諸共舞い上がらせ、地表に叩きつけていた。

コ ア

連れ去られた暗黒ゾイド

 今やすべての帝国ゾイドが、暗黒軍のものとなった。
 巨大な飛行船、ホエールカイザーがはるか暗黒大陸から飛来し、残存する帝国ゾイドや帝国兵士を積み込み、水平線の彼方へ消えていった。
 帝国と手を組むかにみせて、暗黒軍は労せずして中央大陸征服の足がかりを築いたのだった。

「暗黒軍だかなんだか知らないが、ずいぶんと、勝手なことをしてくれるじゃないか」

 レイノスの編隊が超高空から、ニカイドス島上空に侵入していた。暗黒軍の行動を偵察するのが、その任務であった。
 クルーガ少尉は、レーダースクリーンに映るホエールカイザーの馬鹿でかい影を見ながら呟いた。
「こいつは、ちょっと落としがいのある奴だぜ…」
 
 すかさず、グラハム大尉の声が割れんばかりに響き渡った。
「クルーガ。我々の任務は、偵察だ。それを忘れるな。それから、クルーガ。繰り返すようだが、作戦中に音楽を聴くのはやめるんだ。これは命令だ」

ニカイドス島から、最後のホエールカイザーが飛び立とうとしていた。
 その時だった。上空から青い機体が急降下し、海面すれすれで反転すると、ホエールカイザーの腹の下にもぐり込んだ。


「これは偵察だ。そう、おまえの腹の中を調べさせてくれ」

 クルーガは、コックピット内に鳴り響くロックのリズムに合わせるように、発射ボタンを連打した。
 三連装ビーム砲が正確に、ホエールカイザーのメインエンジンを破壊する。
「クルーガ、いかん。急速反転だ」
 
 クルーガを追って来たグラハム機が、クルーガを狙うホエールカイザーの下部銃座を沈黙させた。
 次の数秒のうちに、二機のレイノスは、はるか高度に離脱していた。

 エンジンを破壊されたホエールカイザーは、方向を失って中央大陸沿岸に漂流。そこを、警戒中のウルトラザウルスに撃沈された。このホエールカイザーから、共和国にとって極めて重要な意味を持つ文書が発見されたのだ。

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