黄金の翼は帰らず
激闘!サラマンダーF2
ZAC2054年2月
"最終兵器"ギル・ベイダーの登揚によって、暗黒大陸に上陸した共和国軍はたちまち劣勢に陥った。ひとつ、またひとつ、前線の拠点を失い、作戦行動のほとんどは撤退作戦であった。
そんな中で、戦況とはまったく無関係に、ギル・ベイダー撃墜に執念を燃やす一人の男がいた。サラマンダー洋上部隊所属のクルーガ少尉である。
何人もの戦友たちが、ギル・ベイダーの"地獄の光輪"を浴びて大空に散っていった。だが、それらの貫重な死を通じ、クルーガは、ようやくギル・ベイダー基地の位置の割り出しに成功していた。
チャンスは、思いの外早く訪れた。
エントランス湾空爆後、ギル・ベイダーの姿が、山中の共和国軍見張り所から確認された。明らかにギル・ベイダーは、基地を目指して飛行中であった。
「ファルコン、いよいよだ。今日は帰りの燃料はいらんからな」
サラマンダーF2は、その言葉にうなずくかのように首を下げると、クルーガをコックピットへといざなった。
「目標、距離800、ロックオン」
ギル・ベイダーの背中に回り込んだサラマンダーF2が、対空レーザーを叩き込む。
「なんてやつだ。命中しているはずだが…」
黒い巨鳥は、被弾しながらも、悠々と高度を下げてゆく。追尾するサラマンダーF2も、そのまま基地の白い迷路に舞い降りていった。
「ファルコン、深追いするな。現在位置は!」
上空に待機中の潜入部隊が、がなり立てた。
「ギル・ベイダーの格納庫を確認した。降下目標、管制塔の右翼」
激しい対空砲火に晒されながら、クルーガはマイクに叫んだ。
「了解! 60秒後に格納庫の扉を破壊せよ」
上空のウルトラザウルス飛行艇から、白い影が降下した。ホワイト大佐が率いる、基地潜入部隊のキングライガーである。
ぴったり60秒後、サラマンダーF2は格納庫の扉に風穴を開けた。硝煙の中を基地内に突入するキングライガー。慌てふためく暗黒軍の守備隊を蹴散らし、奥へ奥へと進むホワイト大佐の前に、ギル・ベイダーの黒い巨体が姿を現した。
「しめた、奴は補給中だ」
ホワイト大佐は思わず叫んでいた。
蘇る不死鳥
「工作班、急げ。5分以内に脱出し、基地外に待機中のマッドサンダーに乗り移る」
高性能爆薬がセットされ、時限装置が時を刻みはじめた。疾走するホワイト大佐は、後方に低く重い爆発音を聞いた。
「やった、奴も終わりだ。最終兵器を叩き潰したぞ」
基地潜入部隊に作戦成功の喜びが広がった。
その時だった。キングライガーの足元が砕け散り、ホワイト大佐は恐るべきカで宙に投げ出された。呆然と見上げるホワイトの眼前を、ギル・ベイダーの巨体がゆっくりと上昇していった。
傷ついた体を引きずり、ホワイトは無線マイクにしがみついた。
「マッドサンダー、聞こえるか。もう、我々を待つ必要はなくなった。脱出せよ。奴は……ギル・ベイダーは化け物だ」
その時すでに、マッドサンダーのレーダースクリーンは、急速接近しているギル・ベイダーの機影を映し出していた。
「ホワイト、残念だが……もう間に合わん」
獲物を狙う鷹のように、上空を旋回するギル・ベイダーめがけ、マッドサンダーは心殺のマグネバスターを射出した。
辛うじてマグネバスターをかわすと、ギル・ベイダーは、大きく反転した。両翼が怪しい光を発した。
「いかん、ビームスマッシャーだ!」
ギル・ベイダーを追尾してきたクルーガは、思わず操縦桿を倒し込んでいた。
ビームスマッシャーがマッドサンダーに迫ったとき、黄金の翼が盾のように、マッドサンダーを覆い隠した。
我に返ったクルーガは、自分がパラシュート降下中であることを知った。後方を愛機ファルコンがきりもみ状態で落下していく。ファルコンは、自分が犠牲になる寸前、クルーガを脱出させたのであった。