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狙われた平和の灯

ギル・ベイダー、共和国首都空爆

ZAC2053年10月

『暗黒大陸の悪夢、敵超巨大ゾイド出現』
 共和国首都の新聞は、こぞって大きな見出しでギル・ベイダーの出現を報じた。
 クルーガは新聞を鷲掴みにして立ちあがると、共和国空軍基地へ電話を入れた。

「クルーガです。わたしを暗黒大陸に戻してください。敵超巨大ソイドとやらを叩き落としてみせます。ファイティング・ファルコンの力を試させてください」
 電話を受けた空軍司令は穏やかに答えた。
「我々には、まだ敵ゾイドの力が掴めていない。戦いは、まだまだ先だ」
 
 この時、冷静な空軍司令も、クルーガも、数時間後にその敵ゾイドの力を見せつけられようとは、思いもしなかったのである。
 夜半、交替時間を待ちわびていた首都防衛基地のレーダー員は、突然レーダースクリーンに現れた巨大な影に呆然とした。
 レーダーにキャッチされないよう、超低空で海を越えてきたギル・ベイダーが、首都上空で急上昇、攻撃態勢に入ったのだ。
 暗黒軍の共和国首都空爆が開始された。

「敵巨大ゾイド、首都上空に侵入!」
 
 警報が響き渡った頃には、幾筋ものミサイルの航跡が、平和な光が瞬く街路に音もなく吸い込まれていった。
 暗黒大陸に主力を投入していた共和国軍には、ギル・ベイダーに有効な反撃を加える力は無かった。
 暗黒軍は真っ先に対空砲撃陣地を叩き潰すと、対空砲火の無い首都上空を悠々と通過していった。

 共和国首都の平和な夜景は、一転して炎の海と化した。
 
「12時の方向、頭上に敵機」
 機影に気づいたレドラーのパイロットが、慌てて機首を引き起こした。暗黒軍空爆部隊の真上に現れた黄金の煌めきは、木の葉のように舞い降りると、瞬時に2機のレドラーを叩き落としていた。
 
「こちらサラマンダーF2"ファイティングファルコン"。テスト飛行の成果は上々だ」

 クルーガは、自機の身軽さに今更のように舌を巻いた。サラマンダーF2は地表すれすれで反転すると、レーダー撹乱のチャフを撒きながら、暗黒軍の間を駆けた。

恐怖!ビームスマッシャー

 速度計と出力計は、レッドゾーンの赤ランプを点滅させ続けていた。
「もう少しの辛抱だ、ファルコン。癇癪を起こさんでくれ」
 クルーガは操縦桿を握りしめ、自機に語りかけた。
 背後から、巨鳥ギル・ベイダーが、じりじりと距離を詰めてきていた。どうやら最高速度では、わずかにサラマンダーF2を上回るらしい。
 
 速度警報音に、ミサイル接近警報音が重なって鳴り響いた。
「チャフ射出!急速旋回!」
 黄金のファルコンウィングが風を叩き、機体を浮揚させた。追尾ミサイルが翼をかすめ通過していく。
 
「クルーガ、聞こえるか。こちらガンブラスター。位置、北北西16㎞。ギル・ベイダーをここへ誘導せよ。このままでは、やられる」
 スピーカーから流れる声を聞いて、クルーガは目を輝かせた。
「その声は…、グラハム大尉!暗黒大陸から戻られたのですね?」

「中央研究所に野暮用があってね。さあ、旱いとこ追っ払っちまおう。やりかけの仕事があってね」
 グラハムは、笑って言った。
「了解。2分後にお会いしましょう」
 
 クルーガは、北西に針路をとった。

 やがて、射程距離に入ったギル・ベイダーを目掛け、ガンブラスターの黄金砲の速射が空を覆った。

​ ギル・ベイダーは、突然の対空砲火に、巨体を左右に振り、回避行動に入った。
 
「今だ、行くぞ、ファルコン!」
 サラマンダーF2は、翼を煌めかせてターンすると、ギル・ベイダーに機首を向けた。
 だが、その背後に、ピタリと一台のレドラーが張り付き、対空ビームを放ってきた。
 
「クルーガ、いかん、離脱しろ!」
 グラハムは、思わず黄金砲のターゲットをギル・ベイダーからレドラーに変えた。
 砲火が途絶えた、その一瞬の隙を、ギル・ベイダーは見逃さなかった。ガンブラスター目掛け急降下すると、両翼から地獄の光輪"ビームスマッシャー"を浴びせかけたのだ。

 時間が凍りついたように思われた。冷たい光が、グラハムのガンブラスターを横切るように交差した。ガンブラスターは、二度と動くことのない、三つの鉄の塊となって積木のように崩れ落ちていった。
 
「……! グラハム……大尉!」

 クルーガは、瞬きもせずに、グラハムの最期を見つめていた。やがて、止めようのない熱い涙が、クルーガの視界を覆った。
 共和国首都に、抱えてきたありったけの弾薬をばら撒くと、ギル・ベイダーは悠然と暗黒大陸を目指し帰投していった。
 
 この日、失われた共和国人民の数は8万。その中に、空軍大尉グラハムの名前もあった。

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