top of page

地獄の光輪を見た

ヘリックの巨大な贈り物

ZAC2052年11月

 暗黒大陸に上陸を果たした共和国軍は、エントランス湾にタートルシップを中心とした司令部を設営した。
 洋上の補給線は、日夜百機以上のサラマンダー、レイノスによって確保され、そこをタートルシップが行き交い、ゾイドや物資を大量に暗黒大陸に送り込んでいた。

 不思議に暗黒軍は、さしたる反撃に出て来なかった。「やつらは怖気づいたのさ」と言う者も多かったが、ヘリックは敵の沈黙の理由に思い当たると身震いした。
「待っているのだ。"最終兵器"の完成を待っているのだ」
 ヘリックは、偵察ゾイドの数を三倍に増やすように命じた。
 
 大陸の奥地に潜入した偵察ソイドは、困難な地形や敵との交戦のために、帰らぬ者が続出した。また誤報も多かったが、ある日、エントランス湾から800kmの山中で、赤外線センサーを持つプテラスが兵器工場の存在を確認した。
 
「これだけの大規模なものなら、"最終兵器"開発の可能性もある。とにかく、叩いてみよう。だが、どうやって…」
「わたしにマッドサンダーを一台預けて下さい」
 作戦会議に参加していたグラハム大尉が、一歩進み出た。
 
「敵にマッドをプレゼントしましょう。クリスマスには、ちょっと早いですがね」

「迷子の子羊が消えた」
 工場から10km地点に潜伏していた小編成の共和国軍に通信が入った。夜の間に工場近くに停止させておいた、自動操縦のマッドが運び去られたのだ。
 
「よし、クルーガ、黄金砲で正画扉を派手にノックしろ!」

 ガンブラスターの突然の攻撃に、工場内の暗黒ゾイドは慌てて正面門に急行した。その混乱に隠れるように、青い影が工場側面から、壁を一気に飛び越えた。グラハム大尉が乗ったハウンドソルジャーである。


「いたぞ。迷子の小羊だ」

 無人のはずのマッドサンダーが、突然鎖をゆすって動き出した。警備にあたっていた暗黒兵士たちは、面食らってその化け物を見上げた。
 驚異的なジャンプカでハウンドンルジャーが鎖を断ち切ると、マッドサンダーは解き放たれた猛牛のように、工場の建て物に突進した。

「2台のゾイドを同時に操るのは、結構しんどいもんだぜ!」
 グラハムは左手でマッドサンダーのリモコンを操作しながら、右手で発射ボタンを叩き、敵ゾイドを蹴散らしていた。トロイの木馬のように、グラハムは楽々とマッドサンダーを工場内に送り込んだのだ。
 だが残念ながら"最終兵器"は発見できなかった。ただ、暗黒仕様のコングが1台、工場内から現れ、共和国軍を驚かせたほかは……。

ブラックコング出現!

「クルーガ少尉、ブラックコングが一台そっちへ向かった。注意せよ」
「了解、グラハム大尉。でも、相手がコングなら、ご心配には及びません」
 
 クルーガは、ようやく視野に入って来たコングの方へガンブラスターの機首を回し、攻撃態勢に入った。
 その横を風のように一台のシールドライガーが駆け抜けていった。"青い稲妻"と、敵に恐れられたミッチャム中尉である。
「ガンブラスターが出るまでもないさ。まあ、ゆっくり見物してなって」

 その時だった。ブラックコングが長い両腕を大きく広げた。両腕のあいだに、巨大な光輪が出現した。
「何をしているんだ、あいつは。ゴリラの大道芸なら拍手のひとつも――


 ミッチャム中尉のジョークは、そこまででお終いであった。

 コングの手を放れた光輪は、おそるべきスピードでシールドライガーに接近すると、その体を真っ二つに切断していた。一瞬の出来事であった。共和国軍の誰もが言葉を失った。

 ブラックコングは、今度はガンブラスターに照準を合わせてきた。再び、コングの両腕に光輪が出現した。
「いかん。超電磁シールド、オン」
 
 ガンブラスターの全身がバリアに覆われると同時に、激しいショックがクルーガを襲った。バリア装置はその一撃で使い物にならなくなっていたが、なんとか地獄の光輪をかわしたのだ。

「くらえ! コング」
 間髪を入れず、クルーガは黄金砲を叩き込んだ。ブラックコングは文字通りハチの巣となって崩れ落ちていた。
 
「この武器は、いったい…」
 クルーガは額の冷たい汗を拭った。この工揚に"最終兵器"ありと睨んだのは、見当違いではなかったのだ。少なくともその一部が、ここで研究されていたのである。

bottom of page