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二人だけの暗号

暗黒大陸上陸作戦開始

ZAC2051年10月

 撃墜した暗黒軍輸送船ホエールカイザーから、共和国軍は、暗黒軍に関するさまざまな情報を得た。暗黒軍の恐るべき技術力と、共和国には無い巨大輸送船の可能性。それらは、対暗黒軍との戦いに備え、早速優秀な科学者たちの手に委ねられた。

 そして、何よりも、その後の共和国の運命を決定したのは、一通の暗号文書であった。ホエールカイザーの残骸の中から発見された帝国将校の死体の手に、それはしっかりと握りしめられていた。
 解読不能のまま、その暗号文書は、ともかくもヘリック大統領のもとへ届けられた。ヘリックは、暗号文を手にし、しばらくそれを眺めていたが、やがて喉の奥から、押し殺したような声を漏らすと、崩れ落ちるように椅子に腰を下ろした。
 
「この暗号文は……」
 長い沈黙の後、ヘリックは言った。
「弟、ゼネバスから、私に送られたものだ」
 
 部屋中の特校たちの間に、どよめきが起こった。
 ヘリックとゼネバスの兄弟が、子供時代に戦争ごっこのために作成した暗号。どんなコード表も存在しない二人だけの暗号に、ゼネバスは、兄ヘリックへの最後のメッセージを託したのだった。
 それには、帝国軍と暗黒軍の密約、そして暗黒軍の裏切りなどの経緯などとともに、暗黒軍が現在開発中の"最終兵器"について記されていた。
「この最終兵器が完成すれば、中央大陸は暗黒軍の手に落ちるだろう。願わくば、兄上のカで、完成前にこの兵器を破壊されんことを」
 暗号文は、このように結ばれていた。

「安らかに眠れ、弟よ。おまえの死は無駄にはせん」
 ヘリックは決然と立ち上がると、将校たちを前に宣言した。
「我が軍は、たった今、暗黒軍と交戦状態に入った」

 荒波にもまれながら、一隻の輸送船が、暗黒大陸の険しい海岸線に迫りつつあった。マッドサンダーの改造輸送船シーマッドである。
 共和国の第一次暗黒大陸上陸作戦はシーマッドと、同じくマッドサンダーの改造飛行ゾイドであるマッドフライによる、海と空からの両面作戦が採用された。共和国軍は、ついに未知の戦いに突入したのである。

 荒天のおかげで発見される事もなく、シーマッドは暗黒大陸にその第一歩を印した。シーマッドからは、新型のカノンフォートを中心としたゾイド群が上陸。
 だが上陸成功の打電をする間もなく、その喜びは悲鳴に変わった。旧帝国軍のレッドホーンが暗黒軍の手で改良され、猛然と襲いかかって来たのだった。

 ダーク・ホーンのハイブリットバルカン砲の威力は、カノンフォートを2台一緒に貫き通すほどのものであった。ダーク・ホーンは次々にカノンフォートを蹴散らすと、シーマッドに突進して来た。その角は、シーマッドの厚い装甲を突き破る。
 海上からの上陸軍は、上陸後1時間にして壊滅の危機を迎えた。

暗黒大陸の厚い壁

 マッドフライの艇長、シャイダー大佐は、レシーバーを通信員から奪い取り、どんな雑音も逃すまいと聞き耳を立てていた。"バーナム川に初雪"海上上陸部隊のシーマッドから打電されるはずの上陸成功の暗号は、予定時刻を一〇分経過しても受信されなかった。
 
 シーマッドが上陸を果たすと同時に、マッドフライ部隊が沿岸の暗黒軍空軍基地を叩く。これが上陸作戦の基本構想であった。二十分、二十五分。暗黒大陸上空に入ってからマッドフライが、敵に発見されずに飛行できる限界が虚しく過ぎていった。
 突然、今まで黙りこくっていたレシーバーがたて続けに叫び出した。
「こちら、レイノス隊、一番機クルーガ。敵飛行揚にホエールカイザー集結中。くり返す、ホエールカイザー集結中」
「こちらシーマッド。上陸部隊は敵ソイドと交戦中。救援たのむ」
 
「なんてこった」
 シャイダー大佐は、レシーバーを放り出して言った。

「本隊はこれより、敵空軍基地のホエールカイザーを叩く。シーマッドに打電。三十分持ちこたえよ。それ以上は待たせん」

 勇猛さで知られるシャイダー大佐は、低空から侵入すると敵基地のど真中に強行着陸。警戒中のデッド・ボーダーを次々になぎ倒した。
「時間が無いもんでね。お前達が死ぬための時間は、5分だけだ」

 基地中に警報が鳴り響いた。着陸しかけたホエールカイザーが、あわてて機首を上に向ける。その横腹に、容赦なくマッドフライの大型キャノンビームが叩き込まれた。
 海岸に上陸した共和国軍を壊滅させるための暗黒ゾイドを、ぎっしり積んだホエールカイザーが炎の海に沈んでいった。

「攻撃終了。直ちに上陸部隊救援に向かう。急げ、シーマッドの艦長殿は遅刻には手厳しい」
 シャイダーの陽気な命令が、レイノス隊にも送信された。

 クルーガがシャイダー大佐の声を聞いたのは、この陽気な命令が最後であった。
 マッドフライが上陸部隊救援に向け飛行場を離陸しようとした瞬間、マッドフライの翼は、巨大な斧によって叩き落されていた。改造デスザウラー"デスエイリアン"の巨体が、共和国軍の前に壁のように立ちはだかっていた。
 二時間後、上陸地点を死守していた海上部隊もついに全滅した。救援にやって来るはずのマッドフライは、ついにその勇姿を現さなかった…。

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