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大空を舞う祈り

 西へ向かう共和国軍ヘリコプターの下に、緑の大地が流れ続けた。春の風を切って回転するローターが、鋭い音をたてた。
 
「高射砲のお出迎えもなく、帝国領土の上を飛べるとは思わなかったな」
「俺たちは、プレゼントを持って来たんだぜ。サンタクロースを撃つ馬鹿はいないよ」
 年若い乗組員たちは、これから始まる自分たちの任務を思うと興奮を抑えることができなかった。
 
「目的地上空に到着した。後部ハッチを開け」
 パイロットの声を合図に、ヘリコプターのすべての乗員――4名の兵士、看護婦、そして私、元共和国軍大尉、ロイ・ジー・トーマス――が、後部出入口から荷物を投下した。
 ヘリコプターの後ろの空に、パラシュートの列が並んだ。そのひとつひとつのパラシュートの箱には、共和国の捕虜、マイケル・ホバート少佐の完成した一組の義手と義足が入っているのだった。
 ヘリック大統領はマイケル少佐の努力を認め、この素晴らしい発明品の一部を、マイケルの祖国に贈ることを許可したのだ。
 百個のパラシュートが帝国の空に舞っていた。ヘリコプターに乗る我々と、地上で待ち受ける大勢の帝国の人々の目が、それを追い続けた。
「これで帝国の負傷兵たちも、また恋人と散歩したり、子どもを抱きあげたりできるってもんだ」
 
「だけどさ…」
 一人の兵士が、恐る恐る口を開いた。
「……ということは、もう一度、銃の引き金を引いたり、ゾイドを操縦したりできるってことだぜ」
 
 兵士たちが顔を見合わせた。全員が首を振って何かを言おうとしたが、恐ろしい想像が彼らの口をこわばらせた。
 その時、看護婦の声が機内に響いた。
「そんなこと、ありません! 絶対に、ありません!」
 兵士たちの八つの目が看護婦に注がれた。
「だって……だって……」
 看護婦は、怯えたように拳を口に当てながら後ずさった。
 
「だって私たち……、人間ですもの!」
 
 張りつめていた空気が和らぎ、兵士たちの口から、安堵の息がもれた。
「そうだよな、帝国のやつらだって、俺たちと同じ人間だよな」
 
 私は、ズボンの上から私の左足にそっと触れた。指先に、マイケル少佐が私に贈ってくれた義足が当たった。看護婦の言葉は正しかった。10年前、私の左足を奪った砲弾も、今私をしっかりと立たせている第二の左足も、同じ人間の作ったものなのだ。
 
 我々6人は、ヘリコプターの窓に寄り添って帝国の空を眺めた。赤いパラシュートは空に咲いた花のように見え、白いパラシュートは種を運ぶ綿毛のように思えた。その種からどんな花が芽生えるのか、私はいつまでも考え続けていた。

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