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罠に降りた勇者たち

デスバード基地奇襲作戦失敗

ZAC2048年1月

 デスバードの空襲が、ひとりの共和国将校の軍人魂に火をつけた。共和国コマンド部隊隊長、ロバーツ大佐である。

「奇襲作戦の教科書」と呼ばれるロバーツは、これまで数多くの奇襲作戦を指揮して、勝利の立役者となっていた。

 一年前、占領下の共和国首都に乗り込んで敵の手からチェスター教授を救い出したのも、彼と彼の部下たちであった。
 ステラスの活躍で発見されたデスバード基地を、共和国司令部がサラマンダーによって空爆しようとするのを知ったロバーツは、たった一人で司令部に乗り込んだ。
「何千mもの高さから爆弾を落としたところで、敵の飛行ゾイドに当たる保証はない。滑走路に穴を開けるぐらいが関の山だ。私が空挺部隊を指揮して、この手であの巨大ゾイドを破壊してくる」

<敵の攻撃を受けたら、2倍の力で反撃せよ>
 これが、ロバーツ大佐の信念であった。
 ロバーツ大佐は、ステラスが撮影したデスバード基地の航空写真を机の上に広げた。
 
「敵空軍基地の周囲には、わずかな守備隊しかいない。大型ゾイドが滑走路に舞い降りて夜間攻撃をかければ、一時間以内に勝利を手にすることができる」
 ロバーツ大佐の自信あふれる言葉に押されて、共和国司令部は空挺部隊による奇襲作戦を許可した。
 だが、高性能偵察機ステラスといえど、空軍基地の格納庫の中までは探ることはできなかった。そこには、まだ誰も見たことのない改造メカがデスバードの守りについていた。マイケル少佐が開発した、陸戦タイプ、改造デスザウラーである。

​ デスバードの研究所空襲からわずか二日後の夜、三機のサラマンダーが、東から西へ中央山脈の上空を越えようとしていた。
 先頭を飛ぶのは、パワーハンドを装備した陸戦タイプのサラマンダー、「ガブリエーレ」で、その手にはビームガンがしっかりと握られていた。後に続く二機のサラマンダーは、両脇に二台のアロザウラーを抱えた輸送タイプ、「ランフォリンクス」であった。
 ロバーツ大佐が手塩にかけて育て上げた優秀な部下たちは、作戦決定からわずか24時間で攻撃準備を整えたのであった。
「ガブリエーレ」のコックピットで指揮を執るロバーツ大佐は、これから始まる戦いの勝利を信じて疑わなかった。
 
「敵の考えもつかぬ改造ゾイドで奇襲攻撃すれば、どんな敵も倒すことができる」
 
 ロバーツ大佐は不敵な笑いを浮かべながら、改造サラマンダー編隊を目的地に向けて降下させていった。

 帝国空軍基地、午前3時。月光の下に広がる滑走路に、突如、黒い影が舞い降りた。
 
「な、何者だ!?」
 帝国軍守備隊の兵士が寝ぼけ眼をこすりあげた瞬間、猛烈なビーム砲の連射が守備隊陣地に叩きこまれた。ガブリエーレがランフォリンクスを従えて、デスバードの眠る帝国空軍基地に奇襲攻撃を開始したのだ。

「敵の守備隊に構うな。格納庫へ急げ!」
 
 ガブリエーレと4台のアロザウラーが、格納庫の扉にビーム砲の集中砲火を浴びせた。轟音と共に吹き飛ぶ鋼鉄の扉。だが、破壊された扉の奥から現れたのは、銀色に光る剣を振りかざした、改造デスザウラー、「デスシャドー」の巨体であった。

 驚きのあまり動きの止まった共和国ゾイドに向けて、デスシャドーは、強烈な黄色の光線を浴びせかけた。

必殺の影法師

「いかん、敵の待ち伏せ攻撃だ。引け、引け!」
 
 退きながらビームガンを発射しようとするガブリエーレ。しかしそれよりも早く、デスシャドーの剣が横一文字にガブリエーレの胴を払った。次の瞬間、ガブリエーレの巨体が真っ二つになって大地に崩れ落ちた。

 逃げ惑う4台のアロザウラーには目もくれず、デスシャドーは、巨体にもかかわらず流れるような動きで一直線にランフォリンクスに襲いかかった。打ち降ろされた剣の下で、2台のランフォリンクスの機体は無残に切り裂かれていった。
 脱出用の輸送機が破壊されるのを見たアロザウラーは、蜘蛛の子を散らすように、国境に向けて基地を脱出していった。
 戦闘終了を告げる信号弾がデスシャドーから撃ち上げられた。デスシャドーのコックピットが開かれ、パイロットが機体を離れた。
 残骸の散らばる滑走路に降り立ったのは、マイケル・ホバート少佐であった。
 
「お見事です、マイケル少佐!」
 駆け寄る守備隊隊長の声に答えず、マイケル少佐は、ガブリエーレのコックピットに横たわるロバーツ大佐の遺体を見守っていた。
「こいつは僕にそっくりだ」
 マイケル少佐は呟いた。
「自分の考え出した改造ゾイドに乗って、自信満々乗り込んで来たのだろう。だが、一台や二台の改造ゾイドで奇襲攻撃をかけたところで、この戦争の勝敗になんの影響があるんだ」
 
 マイケル少佐は、周りに集まって来た兵士たちを振り返ると、突然大声をあげた。
「戦争の行末を決めるのは、新型ゾイドなのだ!そのことが何故わからん!何故僕にそれを作らせてくれない!」
 
 マイケルの叫びが夜空に響いた。しかし、それを聞くべきゼネバス皇帝は、何百kmも離れた王宮にいるのだった。
「デスシャドーで、逃げた敵ゾイドを追跡せよ」
 マイケルは、寂しげに命令を下した。

 デスザウラーの改造がマイケル少佐の望む仕事ではないとしても、彼が開発したデスシャドーは、恐るべき性能を持つ迎撃用ゾイドであった。
 電磁剣、ビームガン、手持ちミサイルなど、数多くの武器を使いこなし、改造サラマンダーとの戦いで証明したように、その動きは巨体にもかかわらずネコのように機敏であった。

 そして、デスシャドーの最大の武器は、逃げる敵を追い続ける「イエロー・フラッシュ(黄色い光)」装置であった。デスシャドーの発する黄色い光を浴びた敵ゾイドの体からは、決して消えることのない電波が発生し、デスシャドーは電波を追ってどこまでも敵を追い続けることができるのだった。
 デスシャドーのこの恐ろしい光を浴びた4台のアロザウラーは、帝国軍の追跡を逃れようと、バラバラになって懸命に国境を目指していた。崖をよじ登り、川をさかのぼり、あらゆる手段を使って、追手の目を誤魔化そうとした。だが、彼らの機体からは、絶え間なく電波が発信され、まるで高い旗を背中に立てて逃げているようなものであたった。デスシャドーは獲物の臭いを追う猟犬のように、アロザウラーに忍び寄り、一台、また一台と息の根を止めていった。
 恐怖の夜が明ける頃、生き残った最後のアロザウラーが、命からがら国境地帯にたどり着いた。
「救援のサラマンダーが来たぞ。もう大丈夫だ」
 アロザウラーが喜びの声をあげたその時、傍らの密林が大きく揺れ動いた。

 ざっくりと割れたジャングルから姿を現したのは、「死の影法師」デスシャドーであった。 
「引き返すんだ、サラマンダー!敵がいるぞ!!」
 
 アロザウラーの声を掻き消すように、デスシャドーのビームガンが火を噴いた。たちまち炎に包まれて落下するサラマンダー。呆然と立ち尽くすアロザウラーに、デスシャドーの鋭い爪が襲いかかった。

 共和国の精鋭を選りすぐった奇襲部隊は、マイケル少佐の開発したたった一台の改造ゾイドのために壊滅させられたのだった。

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