top of page

塔の上の悪魔

マッドサンダー出陣

ZAC2048年10月

 中央山脈の国境線が燃えあがっていた。
 西から進撃する帝国軍増援部隊と、東から進む共和国駐屯の帝国軍占領部隊が国境で合流し、中央山脈に配置されていた12万人の共和国山岳軍部隊を包囲した。

「敵が北上を続けている。直ちに救援を求む!」
 敵の激しい攻撃に押されて後退を続ける山岳軍部隊から、火の出るような通信が連日届いた。山岳軍部隊が敗北し中央山脈が敵のものになれば、帝国の大軍が怒涛のように共和国になだれ込むのは明らかだった。共和国は大きな危機に襲われようとしていた。
 
 ヘリック大統領の参加のもとに、緊急作戦会議が開かれた。
「新型ゾイドを中央山脈に派遣して、帝国軍を国境の彼方に叩き出しましょう」
 山岳軍部隊の全滅を恐れる陸軍の将軍が反撃作戦を提案した。他の将軍たちも頷きながら、ヘリックの顔を見守った。
 その時、白いガウンを着た年配の男が立ち上がった。新型ゾイドの産みの親、チェスター教授であった。
「無理です。新型ゾイド、『マッドサンダー』は山岳戦用メカではありません。共和国首都でデスザウラーを叩き伏せるために作られた兵器です。中央山脈に派遣しても、十分な働きはできないでしょう」
 将軍たちは不満の声をあげたが、チェスター教授は一歩も譲らなかった。
 ついにヘリックが口を開いた。
 
「共和国内に駐屯する敵の主力は、中央山脈に移動している。共和国首都の敵もその数を減らしているだろう。首都を取り戻す絶好の機会だ。マッドサンダーを首都に向けて進撃させよ
「中央山脈で苦戦する山岳軍部隊は見殺しにするのですか?」
 ヘリックは強く首を振った。
「空軍は全力をあげて、中央山脈の敵を攻撃せよ。同時に、包囲された山岳軍部隊に、武器、弾薬、食料、燃料、心要な補給物資を空輸し続けるのだ」
 
 ヘリックは、厳しい顔で空軍司令に命令を下した。
「よいか、共和国中の飛行ゾイドを中央山脈に向かわせるのだ」
 
 共和国首都と中央山脈の二箇所に共和国軍の戦力を二つに分ける、危険な両面作戦が開始されようとしていた。どちらかの作戦が失敗すれば、共和国軍に明日は無いのであった。
 
 超巨大ゾイド、マッドサンダーが進撃を開始した。目指すは、懐かしい共和国首都。だが、首都の前には大きな難関が待ち構えていた。歴戦の強者、アイアンコングMK-Ⅱの守る帝国軍前線基地である。

 共和国首都北方の帝国軍前線基地。首都へ向かう道のそばに設けられたこの要塞は、帝国軍首都占領部隊の北の守りであった。

 

 首都奪回を目指す共和国軍は、何度もこの要塞に攻撃をかけた。しかし、その度に要塞を守るアイアンコングにミサイルを浴びせられ、散々な目に合わせられていた。共和国軍兵士は、コングを「塔の上の悪魔」と呼んで要塞に近づくことさえ恐れていた。

​ ZAC2048年10月、帝国軍、要塞守備隊のサーチライトが、ジャングルを踏み分けて近づく正体不明のゾイドを捉えた。

「これまで誰も突破できなかった密林を進むとは、恐るべき敵。直ちに迎え撃て」
 
 たちまち要塞の至る所で砲が火を噴き、分厚い装甲を撃ち破る徹甲弾が接近するゾイドに集中した。共和国軍を何度も血祭りにあげた、十字砲火である。
 だが謎のゾイドは、高性能火薬を詰めた砲弾を雨のように浴びながら、少しもスピードを落とすことなく、ぐんぐんと要塞に向かってくるのだった。

開かれた首都への道

 突然、要塞全体が震え始めた。建物が積木細工のように揺れ、兵士たちは立つことさえできず地面に突っ伏した。コンクリートを固めた分厚い城壁の一部が、風船玉のように内部に膨れてぶるぶると震えだした。
 
「あぶない。城壁が崩れるぞ!」
 その叫びが終わるよりも早く壁は粉微塵に砕け散り、大きく開いた穴から、巨大なふたつのドリルが突き出した。ドリルは耳を潰すような音を立てて回転を続け、ついには、城壁全体を突き崩した。
 立ち昇る土煙の中から現れたのは、チェスター教授が命をかけて完成させた怪物ゾイド、マッドサンダーの雄姿であった。
 マッドサンダーは、強烈なサーチライトと、ぞっとするようなサイレンの音を敵兵に浴びせかけた。帝国軍は、目と耳を潰され反撃することもできず、マッドサンダーの小山のような足に踏み潰された。
 逃げ惑う敵ゾイドの背中にビーム砲を撃ちこみながら、マッドサンダーはアイアンコングの立て篭もる塔に迫った。

「なんてやつだ。たった1台で要塞を破壊するとは」
 コングはミサイルを肩に担ぐと、マッドサンダーをぎりぎりまで引き寄せた。 
「発射!」
 何百台という共和国ゾイドを撃破した大型ミサイルが、続けざまにマッドサンダーに命中した。だが、至近距離からミサイルを浴びながら、マッドサンダーの巨体には傷ひとつ残っていなかった。

 塔の上で立ちすくむコング。その時、マッドサンダーの一際長く伸びた2本の角が轟音と共に回転し、みるみる塔の土台を崩し始めた。
 
「いかん!塔が崩れる!!」
 
 コングが悲鳴をあげた瞬間、塔は真っ二つに折れ、空中に投げだされたコングの体をマッドサンダーのビーム砲が刺し貫いた。史上最強のゾイド、マッドサンダーは、首都に向かう道を大きく開いたのであった。

bottom of page