top of page

高度3万mの悪魔

共和国研究所空爆作戦

ZAC2048年1月

 チェスター教授の姿が、ゾイド星の「地上」から煙のように消え去っていた。情報部の懸命の捜索にもかかわらず、帝国軍はチェスター教授の「足跡」すら発見することができなかった。

 だが、共和国内に潜入している情報部員から気がかりな情報が送られてきた。中央山脈南部の山中に巨大な発電所と基地が建設されたというのである。

「ただの基地がこれ程の電力を必要とするはずはない」
 有能な指揮官、ゼネバス皇帝は、たちどころに敵の目論見を見破っていた。基地はおそらく秘密の研究所であり、そこで新型ゾイドが開発されているに違いなかった。
 マイケル少佐に、初めての開発司令が下された。山中の共和国研究所を爆撃することのできる強力な飛行ゾイドの開発である。

「地上部隊を派遣したのでは、敵に気づかれてしまう。空からの一撃で、敵の研究所を瓦礫の山に変えるのだ」
ゼネバスは、あらゆる方法を使って、チェスター教授の新型ゾイド開発をストップさせる決意であった。

 マイケル少佐の死に物狂いの研究が開始された。研究所に閉じこもり、昼も夜もなく設計図とコンピュータに立ち向かった。彼が開発しようとしているのは、チェスター教授が作り上げた重爆撃機、サラマンダーを遥かに超える巨人機であった。
「これを完成させれば、僕は、チェスター教授を超えた、真の科学者になることができるのだ」

 だが、彼の意気込みとは裏腹に、開発に許された時間はあまりに短かった。
 やむなく、マイケルは新型ゾイドの開発を諦め、父、ドン・ホバート博士の傑作メカ、デスザウラーを飛行ゾイドに改造したのだった。

 ZAC2048年1月、超巨大爆撃機、「デスバード」が帝国空軍基地に姿を現した。二つのエンジンから発する轟音が大地を震わせ、長く伸びた翼が滑走路を黒々と覆っていた。
「素晴らしいぞ、マイケル少佐。さすが、ドン・ホバート博士の息子だ」
 帝国空軍の将校たちは口をそろえて褒めちぎった。だが、祝福の握手を受けながら、マイケルの表情は硬かった。
 
<これは僕のゾイドではない。父の作ったデスザウラーだ>
 マイケルは人知れず唇を噛み締めていた。
 そんなマイケルの思いも知らぬかのように、デスバードの巨大な翼が赤く燃える夕暮れの大空に舞い上がった。目指すは、新型ゾイドが誕生しようとしている共和国秘密研究所である。

 帝国空軍基地を飛び立ったデスバードは、国境近くに差し掛かると高度を90mに落とし始めた。共和国のレーダーに発見されぬように、地上すれすれを低空飛行するのだ。デスバードには、マイケル少佐の開発した「自動飛行コンピュータ」が装備されていた。この素晴らしい飛行装置にはあらかじめ目的地までの地形がインプットされており、中央山脈の高い山々の間を縫うようにして安全に飛行できるのだった。
 目標の手前70km付近で、デスバードは敵の対空砲火を避けるため、高度4千mに急上昇した。

「全速飛行、マッハ2」 
 デスバードは一直線に目標の上空を目指した。突然機内に警戒ブザーが鳴り響いた。共和国のレーダーに発見されたのだ。
「妨害電波、スイッチ・オン」
 デスバードから強力な電波が発射され、敵のレーダーからデスバードの巨体を隠した。
 
「熱感知ミサイル発射!」 
 熱を感じ取る高性能センサーを備えたこのミサイルは、研究所の様々な機械が発する熱を目標に、吸い込まれるように地上へ突進した。
 共和国秘密研究所の人々は、突然、夜空に響き渡る無数のミサイルの落下音に眠りを破られた。

「帝国軍の空襲だ。直ちに避難しろ」
 次の瞬間、爆発音と共に大地が大揺れに揺れ、あちこちで火の手が上がった。不意を突かれた研究所は為す術もなく燃え上がり、あっという間に巨大な炎に飲み尽くされていった。

謎の巨人機を追え

「土砂降り。繰り返す。土砂降り」
 作戦成功を告げる暗号通信が、帝国空軍基地に届き、司令室に歓声が湧き起こった。


「おめでとう、マイケル少佐。君の開発したデスバードのおかげだ」
 ゼネバス皇帝がマイケル少佐の肩を抱いた。
「少佐、次は陸軍のために、強力な改造デスザウラーを開発してくれたまえ」
 握手を求める陸軍の将校に対して、マイケル少佐はきっぱりと返事をした。
「いいえ、僕は時間をかけて、ウルトラザウルスやデスザウラーを超える新型ゾイドを開発したいのです」
 
 マイケル少佐の強い口調のために、辺りはしんと静まり返り、気まずい空気が流れた。ゼネバス皇帝が、とりなすように口を開いた。
「マイケル少佐、我々には時間がないのだ。共和国に駐屯する帝国軍は、敵の攻撃の前に苦戦を強いられている。明日にでも、強力な改造ゾイドが必要なのだ」
 
 尊敬する皇帝の命令とあれば、マイケル少佐も反対することはできなかった。だが、彼が頷きながら小声で言った言葉は、その場の人々を驚かせるのに十分だった。
 
「できています。陸戦タイプの改造デスザウラーなら、もう完成しています」

「帝国の飛行ゾイドを逃がすな。戦闘機部隊、発進!」

 デスバードを追って、プテラス部隊が次々に夜空に飛び立った。高度1万m…2万m…3万m…。 
「これ以上は無理だ。機体が凍りつき始めた!」
プテラスのパイロットが悲鳴を上げた。その時!

 デスバードは、3万mを越える上空で悠々とプテラスを待ち構えていた。寒さと薄い空気のために、プテラスの運動性能が低下する高々度で一気に勝負をつけようという作戦であった。

 


「こんな巨大な飛行ゾイドは見たことがないぞ!」

 共和国パイロットが大声を上げた瞬間、デスバードの全身に装備されたビーム砲が火を噴いた。寒さのためにミサイルが凍りついたプテラスは、反撃する間もなく撃ち落されていった。 

 

「作戦成功、帝国へ帰るぞ」
 デスバードは機首を西へ向けた。だがその時、デスバードのはるか後方に黒い小型ゾイドが姿を現した。プテラスを改造した最新鋭の偵察機、ステラスである。
 最高高度4万m、マッハ4の高速を誇るステラスは、特殊な機体のため、レーダーに発見されることもなかった。
 
「このまま追跡して、あの怪物の隠れ家を見つけ出してやる」
 ステラスのパイロットは、息を殺してデスバードの後を追うのだった

bottom of page