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密林の黒いイナズマ

超高速ゾイド、グレートサーベル出現

ZAC2047年6月

 自由の身となったチェスター教授は、共和国国民の熱狂的な歓迎を受けた。各地でチェスター教授の解放を祝うパーティが開かれ、教授は何ヶ月間も国中の祝典に引っ張り出された。しかし、(賢い読者はすでにお気づきかと思うが)国民の前に現れていたのは、帝国軍を欺くための偽の教授であった。本物のチェスター教授は、救出された直後から極秘の研究所に篭ってデスザウラーを撃ち倒す強力な新型ゾイドの開発を開始していた。


「チェスター教授救出作戦」は、共和国司令部の予想を上回る大成功であった。何よりもの驚きは、改造ディバイソンと救出班のメガトプロスが、帝国軍の追撃を撃退して無事に生還したことであった。

「首都の敵は予想以上に弱い。新型ゾイドの完成を待たずとも、現在の兵力で総攻撃をかければ首都を取り戻せるのではないか」
「いや、デスザウラーと正面から戦っては、多くの兵士を犠牲にしてしまう。新型ゾイドの完成を待つべきだ」
 司令部の意見は真っ二つに割れ、ついに総司令官へリック大統領の決定を仰ぐことになった、双方の意見をじっくり聞いたヘリックは決断を下した。
 
「新型ゾイドの開発は予定通り進める。チェスター教授が必要とする物は、いかなる作戦よりも優先して提供せよ」
「首都攻撃の前に、中央山脈北部に残る帝国軍の補給線を分断せよ。この作戦が成功した時は、新型ゾイドの完成を待たずに首都を奪回する」

 中央山脈北部を横断する帝国軍補給ルートに、東西から共和国軍が襲いかかった。西から進撃したシールドライガー部隊は帝国軍守備隊を次々に撃ち破り、順調に共和国東部部隊との合流地点へと進んでいた。

​ だが、その頃、東から進撃するベアファイター部隊に突如黒い影が襲いかかった。影は恐るべきスピードで部隊の中を駆けまわり、ベアファイターに反撃の隙さえ与えず、瞬く間に部隊を全滅させた。

「ベアファイター部隊からの通信が途絶えた」
 
 シールド部隊は全力をあげて救援に向かった。しかし、彼らが山中で発見したのは、折り重なるベアの残骸であった。
「こんな見通しのいい岩山で、敵の接近に気づく間もなく全滅したというのか!?」

 シールド部隊の隊長は天を仰いだ。
 
 中央山脈北部を通る補給ルート、それは共和国に駐屯する数十万の帝国占領軍の命の綱であった。
「全力を上げて北部補給線を死守せよ」
 ゼネバス皇帝は、共和国の分断作戦が決定されるはるか以前に、厳しい命令を帝国軍司令部に与えていた。直ちに司令部は、補給線を守るための山岳戦用ゾイドの開発に着手した。密林の中を高速で移動し、長い補給線のどこを攻撃されても直ちに反撃できる機動力。そして何よりも、共和国軍の山岳戦用ゾイド、シールドライガーとベアファイターを上回る攻撃力。これらの条件を満たして完成したのが、「黒いイナズマ」グレートサーベルであった。
 今や、共和国軍の分断作戦はベアファイター部隊の全滅によって無残な失敗に終わろうとしていた。
 
「直ちにこの場から撤退する。負傷者を収容しろ」
 シールドのパイロットたちは、機体を降りて負傷者を探した。その時を狙っていたかのように、満月を背にしてグレートサーベルの黒い影が襲いかかった。8連ミサイルが嵐のように降り注ぎ、キャノン砲がシールドの装甲を貫いた。炎と煙がおさまった後、月光の下に広がっていたのはシールドライガーの青く光る残骸であった。

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