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ゴーレムの奇跡

ウルトラ撃破作戦

ZAC2048年8月

 真新しい帝国ゾイドが、国境近くの平原を埋め尽くしていた。コング、サーベル、イグアンなど、出撃準備を整えた何千台ものゾイドの砲列が、夏の陽を浴びてキラキラと輝いていた。その最前列に、まっ白い小型ゾイドの一群が一際輝いて整列していた。

「あれが、新開発の歩兵メカか?」
 ゼネバス皇帝は、傍らに控えるマイケル少佐の方を振り返った。
 
「はい、『ゴーレム』と名付けました」
「実験では、恐るべき能力を発揮したと聞いたが、どの程度強いのだ?」
「大したことはありません。まず…」
 マイケルは、いたずらっぽくこう答えた
「負けない程度かと」

 ゼネバス皇帝は、笑いながら満足気に目の前に並ぶ帝国軍団を見渡した。この軍団すべてが、マイケル少佐の努力によって産み出されたものだった。
 マイケルは新兵器研究所所長に任命されると同時に、帝国中の兵器工場の指揮を執った。そして、ひとつのゾイドをひとつの工場で最初から最後まで作り上げるというこれまでのやり方を改め、コックピットだけを作る工場、ビーム砲だけを作る工場というように、ゾイドの各部品を工場ごとに大量生産させた。そして、それらの部品を戦場近くの工場まで運ばせて、「書類を閉じるように」猛スピードで組み立てさせた。この結果、ゼネバス帝国で生産されるゾイドの数は一気にこれまでの2倍に増えた。
 マイケル少佐の天才的な指導で新たな軍団が続々と誕生するのを見たゼネバス皇帝は、共和国軍への大反撃を決意した。中央山脈の上に、南から北へ細く突き出した共和国占領地の付け根を東西から挟み撃ちにして、中央山脈に駐屯する共和国軍の大部隊を袋のネズミにしようという大作戦であった。
 国境地帯に集結した全帝国ゾイドが、エンジン音を高鳴らせて、進撃を始めた。マイケル少佐率いるゴーレム部隊が、その先陣を切った。

「マイケル、無事に戻って来るんだぞ」

 ゼネバス皇帝の目は、マイケル少佐の乗るゴーレムを、いつまでも追い続けるのであった。

 中央山脈に、雷鳴のような轟音が轟いた。帝国軍全ゾイドの砲が火を噴いたのだ。何万発もの砲弾を叩きこまれて、共和国軍の前線基地はたちまち土煙の中に消えていった。


 大型キャノン砲を装備したグレートサーベルが、砲撃を続けながら共和国占領地になだれ込んだ。

​ 猛スピードで敵陣を突破するグレートサーベル。だが、共和国軍も時間とともに体勢を立て直し、反撃を開始した。ゴジュラスMK-Ⅱが進軍する帝国軍に砲弾を浴びせ、ディバイソンが突撃を繰り返した。とりわけ帝国軍を悩ませたのは、1台のウルトラザウルスであった。ウルトラキャノン砲が火を噴く度に、グレートサーベルが大地に倒れた。
 
「ウルトラは俺が倒す!」

 マイケル少佐の乗るゴーレムが、レドラーの助けを借りて、ウルトラの傍に飛び降りた。

 マイケル少佐は、グレートサーベルの残骸に隠れてウルトラザウルスの様子を窺った。ウルトラはただ1台で丘の上に陣取っており、丘の斜面には、既に10台以上のグレートサーベルが血祭りにあげられて無残な姿を晒していた。帝国軍は遠巻きにして砲弾を浴びせていた。
 
「もっと近づいて撃たなければ、ウルトラには効かんぞ」
 マイケルの声が届いたかのように、1台のグレートサーベルが突撃をかけた。
 しかし、ウルトラの乗組員はよほど優秀な砲手らしく、キャノン砲の水平射撃一発で、サーベルをバラバラに吹き飛ばした。サーベルの背中から外れたキャノン砲がゴーレムの前に転がり落ちた。
「よし、一か八かだ」
 ゴーレムはキャノン砲に駆け寄ると、自分より数倍も重い砲身を、驚くべきパワーで肩に担ぎあげた。

「目標、ウルトラキャノン砲、砲座」
 轟音が丘を揺るがした。続いて第二弾、発射!
 砲弾は見事に砲座に命中して、ウルトラキャノン砲を沈黙させた。

竜に挑むアリ

 最新歩兵メカ、ゴーレム。総重量わずか12トン、全長4mに満たぬこのミニゾイドこそ、マイケル少佐が持てる力を全て注ぎ込んで開発した新兵器だった。
 ゴーレムには、マイケル少佐の二つの挑戦が込められていた。一つは共和国ゾイドの性能を超えようとする挑戦。もう一つは、偉大な父、ドン・ホバート博士を超えようという、科学者としての挑戦であった。
「敵ゾイドを倒すのに、その機体を完全に破壊する必要はない。敵のパイロットを倒すか、コックピットを使用不能にすれば、勝利を得ることができる」
 パイロットとコックピットを攻撃するだけなら、重い武器を多数装備した巨大メカを開発する必要はなかった。


「父もチェスター教授も開発しなかった、超小型の万能メカを完成させてみせる」
 敵の動きを探知する高性能センサー。敵の攻撃をかわす恐るべき運動性能。ビームガンやハンドミサイルなど、あらゆる武器を操る精密なパワーハンド。分厚い装甲板でパイロットの命を守る頑丈なコックピット。
 これら、新開発の技術を搭載して完成したのが、万能歩兵ゾイド「ゴーレム」であった。同クラスの敵ゾイド、メガトプロスは無論のこと、中型ゾイドとも互角に戦える性能を持つと、帝国司令部は太鼓判を押した。しかし、マイケル少佐の目標はさらに高かった。
 優秀なパイロットが操縦すれば敵の巨大ゾイドさえ倒すことができる。マイケル少佐は、そのことを自らの手で証明してみせようとしていた。

 至近距離からキャノン砲の砲座を直撃されたウルトラは、大慌てで周囲を見渡した。そして、攻撃をかけた犯人が豆粒ほどの小型ゾイドであることを知ると、混乱が怒りに変わった。 
 
「おのれ、踏み潰してやる」

 ウルトラの巨大な足がゴーレムの上に振り上げられた。それを待っていたかのように、ゴーレムの手から電磁ロープが投げられ、ウルトラの腹部に張り付いた。次の瞬間、落下するウルトラの足を掻い潜って、ゴーレムはウルトラの機体に飛びのった。

 ウルトラのハッチを爆破して、ゴーレムがウルトラの機内に突入した。と同時にゴーレムの40ミリガトリング砲が火を噴いた。床といわず壁といわず、焼けた弾丸がはじけ飛び、機内に搭載されていたミニゾイドが次々に火を噴き上げた。ゴーレムは爆破装置をセットすると、目にも留まらぬ速さでウルトラの機内から脱出した。

 ウルトラザウルスの長い首の真下を駆け抜けながら、ゴーレムに乗るマイケル少佐は、爆破装置の無線スイッチを押した。背後で爆発音が響き、爆風が小さなゴーレムの機体をふわりと浮き上がらせた。次の瞬間、ウルトラの弾薬庫に火が移って、大地を揺らす大爆発となった。 

「やったぞ、ついにチェスター教授のウルトラザウルスを倒したぞ」
 燃え続けるウルトラを睨みながら、マイケルは何度も雄叫びを上げた。

 マイケル少佐の活躍は、帝国軍の勝利の知らせとともにゼネバス皇帝にいち早く伝えられた。通信員が興奮した口調で報告する、マイケル少佐とゴーレムの戦いを聞きながら、ゼネバスの心の中は、なぜか穏やかではなかった。

<なぜそんな危険を冒すんだ、マイケル。科学者として研究を続けてくれるだけで十分なのに。君だけが、戦場と研究所とのふたつの場所で、命をすり減らす必要はないのだ>

 ゼネバスには、マイケルの人並み外れた能力と闘志が、いつか大きな不幸を呼び起こしそうに思えるのだった。

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