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年若い読者諸君へ

R・S・トーマス

 私が「ゾイドバトルストーリー」を書き続ける理由のひとつは、ゾイド星に住む子供たちと、これから生まれてくる子供たちに、この戦いの記録を語り継ぐためである。平和な時代においても、大人は次の時代に生きる若い人々に何かを伝えたいと思うものである。まして、戦いの中でいつ倒れるかも知れぬ我々にとつて、その思いはひとしおと言える。
 ZAC2047年11月、共和国の人々にうれしいニュースが伝えられた。ヘリック大統領とローザ夫人に初めての男の子が誕生したのだ。戦いの合間を盗むようにしてささやかな祝いの宴が張られ、名誉なことに私も招待を受けた。
 その祝宴に驚くべき客が姿を見せた。
 着飾って並ぶ招待客を押し割けるようにして大統領親衛隊の隊員たちが隊列を組んで現れ、その中心に、帝国の軍服を着たひとりの将校が立っていたのだ。
 息を呑む人々の中、帝国軍将校は大統領の前に進み出て、手に持っていた小箱をうやうやしく差し出した。
「弟君、ゼネバス皇帝陛下よりのお祝いでございます」
 小箱から出て来たのは、純金で作られた、やや古めかしい腕輪であった。
 静まりかえる会場の中心で、太統領はじっとその腕輪をご覧になっていた。やがて立ち上がると、不思議そうに見守る招待客のひとりひとりに語りかけるように、口を開いた。
 
「この腕輪は、我が父、ヘリック一世が自らの結婚の日に、我が母に贈ったもの。その後、私の誕生の日に、母は生まれたばかりの私の腕にこれを通し、腕輪は私のものとなった」
 大統領は、会場にいる全員の顔を見渡した。
 
「10才の時、私は弟ゼネバスの止めるのも聞かず、無断で父のゾイドを操縦して遠乗りに出かけた。幼い私は操縦を誤り、ゾイドもろとも崖の下へ落ちてしまった。心配して後を追って来た弟ゼネバスは、私を助け出したばかりか、操縦をしていたのは自分だと言って 私を庇ってくれた。その夜、病室に見舞ってくれたゼネバスに、私はこの腕輪を贈った なぜなら……」
 大統領は、腕輪を手の平にのせて皆の方へ差し出した。
 
「なぜなら、腕輪にはこのような言葉が彫られていたからだ。『最も愛する者にこれを贈る』と」

 

 


 ゼネバス皇帝が、生まれたばかりの甥に腕輪に託して何かを伝えようとしたように、これから始めるこの物語の主人公たちも、大切な何かを自分の愛する人に伝えたいと願っている。 
「ゾイドバトルストーリー④」は、二人の科学者の物語である。ひとりは、ウルトラザウルスを開発した共和国最高の科学者、チェスター教授。もうひとりは、大科学者を父に持つ帝国軍人、マイケル・ホバート技術少佐。二人の間で、どのような願いが伝えられようとするのか、それは、この物語の最後で明らかになるであろう。


――ZAC2049年、共和国首都にて

▲帝国軍技術少佐

 マイケル=ホバート

▲共和国科学者

 ハーバート=リー=チェスター教授

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