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出港

ZAC2102年1月 ニクス大陸 エントランス湾

 再編成を終えた共和国部隊が、未明の暗黒大陸エントランス湾から出港していく。ネオゼネバスから、故郷を取り戻すための出港であった。
 楽な戦いではないだろう。この半年で全派遣軍の40パーセントを失い、もう40パーセントが、なお再編中の状態だった。
 
「うわぁ、あれがウルトラザウルス?」
 ロイヤルボックスから見送るルドルフが、共和国が誇る巨大ゾイドの威容に子供らしい矯声を上げた。
「ハーマン中佐の乗機です。くれぐれも陛下にお礼を、と申しておりました。おかげで命を救われたと」
 
 傍らのシュバルツが答えた。2人は生きていた。シュバルツの機転で飛び込んだ格納庫下のシェルターに救われた。
 連合軍も、全滅を免れた。ルドルフの引きちぎったパイプが、わずかとはいえ貴重な戦力を救ったのだ。
 
「戦いは、いつ終わるのでしょうか?」
 ルドルフの声が、不意に低く変わった。
 
「この戦いで、新たな憎しみが無数に生まれました。簡単には終わりますまい」
「憎しみ…」
「陛下は、プロイツェンをお憎みでは?」
「あまりに多くの者が死にすぎました。憎んでないと言えば嘘になります」
 
 振り返れば荒野。殺伐とした戦いの爪痕が、どこまでも広がっている。
「でもそれを忘れることが、戦いを止める唯一の道なら、私は…」
 
 それきり黙り込んだルドルフを、シュバルツは優しくいつまでも見つめ続けた。

朝日の中、ウルトラザウルスは進む。さらなる戦いの待つ故郷、中央大陸を目指して…。

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