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侵攻

ZAC2101年12月 デルポイ大陸 クック湾~マウントアーサ要塞

▲暗黒大陸ユミールを出航した鉄竜騎兵団は、密かにアンダー海を横断。中央大陸クック湾への上陸を果たした。

「諜報員から、ヴァルハラの閃光を確認したとの連絡を受けました」
 部下の報告を受けたヴォルフ・ムーロアは黙したまま頷き、ゆっくりとマイクを取った。
「全軍、出撃! 旧ゼネバス領の同士たちと連携しつつ、共和国残存部隊を撃滅せよ。最終目的地は、共和国首都…ヘリックシティだ!」
 
 鉄竜騎兵団輸送艦ドラグーンネストから、続々とゾイドが吐き出されていく。バーサークフューラー、ディロフォース、グランチャー…。

 閃光師団の精鋭をも追いつめた強力ゾイドたちの群れに、ダークスパイナー、シュトゥルムフューラー、キラードームなどの新型機まで混じっている。主力部隊のほとんどを暗黒大陸に派遣中の共和国軍に勝てる相手ではなかった。


 中でもダークスパイナーは、共和国兵士の恐怖の的になった。背ビレから放たれるジャミングウェーブの効果範囲に入ったが最後、ゾイドのコントロールは失われ、敵の思うがままに操られてしまうのだ。最も心強い味方であるはずのゴジュラスやライガーゼロが、突然敵に回る。これ以上恐ろしいことはなかった。加えて、旧ゼネバス領民衆の相次ぐ反乱と破壊活動。

 ほどなく共和国軍防衛線は全面崩壊。中央大陸クック湾上陸からわずかに3週間で、旧ゼネバス帝国首都を含む大陸西半分が鉄竜騎兵団の勢力圏となり、さらに2週間後、共和国首都へ至る道を守る最大の砦、マウントアーサ要塞も陥落した。

▲ゾイドを自由に操る、ダークスパイナーのジャミングウェーブ。味方からの襲撃に、共和国軍兵士たちはパニックに陥った。

あのバーサークフューラーに、高機動ブースターとフリーラウンドシールドを装備した改造機シュトゥルムフューラー。

共和国の新型ステルス機、メガレオン。対空戦で大活躍を見せたが、大局を変えるまでには至らなかった。

硬い装甲を誇る鉄竜騎兵団の陸海両用ゾイド・キラードーム。上陸戦や渡河戦で大きな戦果をあげた。

 ヴォルフの前に共和国首都が広がっている。上陸から7週間。すでに共和国に戦力はなく、彼らに残された選択は降伏か死のどちらかだった。
「キャムフォード大統領から通信は?」
 ヴォルフの問いに側近が首を振る。降伏勧告が黙殺されたということだ。小さく頷き返した後、ヴォルフは決然と命じた。
 
「これより敵首都へ突撃を開始する!」
 
 ヴォルフは知らなかった。最後まで彼に抵抗の意思を示す敵大統領が、彼の伯母であることを。もちろんこれは、プロイツェンさえ知らなかったことだ。
 大統領ルイーズ・エレナ・キャムフォードは、幼い日のプロイツェンが葬儀で見た、異母姉エレナだった。ゼネバスの死後、ガイロス帝国とヘリック共和国の休戦の証として中央大陸に送られた。当時の共和国大統領ヘリック・ムーロアⅡ世は、生涯の宿敵であり、また最愛の弟でもあったゼネバスの娘に愛情を注いだ。彼女もその愛情に応え、ヘリックの側近としてガイロスとの友好に尽力。共和国と旧ゼネバスの融和にも心を砕いてきた。結果、大統領まで登りつめた彼女が出自を明らかにしなかったのは、旧共和国民衆の感情を慮ってのことだった。
 
「父の無念を晴らす」ゼネバスの旗こそ翻らなかったにせよ、プロイツェンのその想いは、はるか以前に叶えられていたのである。
 かつてヘリックとゼネバスの兄弟は、愛し合いながらも戦わなければならなかった。そう。歴史の悲劇は再び繰り返されたのだ。

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