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激戦

ZAC2101年10月 ニクス大陸全域

▲各地で膠着していた戦線が、帝国軍の総攻撃を機に血みどろの戦場と化していった。

 ZAC2101年10月初旬 トリム高地北部戦線

 トリム高地北部は、ムスペル山脈とイグトラシル山脈がぶつかる暗黒大陸の屋根である。標高6000~7000メートル級の高山が連なり、その北は不毛の砂漠地帯だ。共和国司令部は、大規模な敵襲はないと読んでいた。小型ゾイドと歩兵5個師団で編成された、その貧弱な共和国防衛隊を、アイアンコングとセイバータイガー、ヘルキャットからなる山岳部隊7個師団が急襲。戦力差は歴然であったが、ここを突破されると主力部隊の背後を突かれかねない共和国司令部は、防衛隊に死守を命令。2日後、主力部隊の一部が援軍として到着した時には、防衛隊の85パーセントが壊滅していた。

ZAC2101年10月初旬 ビフロスト平原北部戦線
 暗黒大陸の一大軍事拠点チェピンから出撃してくる帝国軍の精鋭20個師団に対して、共和国軍はそれを上回る25個師団を進路上に配備。激烈な砲撃、爆撃を加えた。だが、帝国軍の戦意は凄まじく、20パーセントを超える損耗率を出しながらも前進。共和国軍が5層に張り巡らした防衛陣を3層まで切り裂いた。この段階で、双方の損耗率は帝国軍が40パーセント、共和国軍が30パーセントを突破。さらに前進しようとした帝国軍だが、エントランス湾より駆けつけた共和国増援部隊がこれを阻止。戦闘開始から11日後、再び膠着状態に入った。

ZAC2101年10月初旬 ウルド湖戦線
 ビフロスト平原北部戦線の帝国軍を援護するため、帝国海兵隊10個大隊が夜と霧を突いてウルド湖対岸に上陸。共和国陣に猛烈な砲撃を加えた。夜明け前に撒退していくこの奇襲に、十分な水上戦力をもたない共和国軍は手痛い被害をこうむった。
 だが、最初の奇襲から10日後、共和国航空師団の夜間爆撃隊がウルド湖沿岸に大量の機雷を投下。上陸してきた敵の退路を断った。この日、北部戦線の帝国軍も進撃を停止。湖南岸に孤立した海兵隊は、全ゾイドの60パーセントが破壊されるまで抵抗を続けたが、同日未明、すべての弾薬を撃ち尽くした末、投降した。

ZAC2101年10月中旬 ビフロスト平原南部戦線
 暗黒大陸最南端のメイズマーシ、カオスケイブ方面から出撃した帝国軍は、海軍と連携しつつ海岸線を進軍。ビフロスト平原の南に進出し、直接エントランス湾の共和国橋頭堡の攻撃に出た。帝国軍の兵力は陸軍15個師団、海軍5個戦隊。対する共和国軍は、陸軍10個師団と海軍7個戦隊。この時、同平原北部戦線に援軍を送ったばかりで、一時的に予備兵力が尽きていた共和国軍は、総司令部に5キロの地点まで敵の接近を許した。ウルトラザウルスの艦砲射撃で辛うじて総司令部を守りきった共和国軍だが、橋頭堡の1/3を失った。双方30パーセント以上損耗し戦闘継続中。

ZAC2101年10月中旬 ウィグリド平原戦線
 ウィグリド平原は、帝都ヴァルハラへ至る交通の要所である。帝国軍は、ここに精鋭装甲15個師団を含む60個あまりの師団を配備。共和国軍主力部隊の進撃を待った。だが、共和国主力部隊は、イグトラシル山脈からヴァーヌ平野に抜ける南ルートからの進攻を狙っていた。この意図を隠すため、共和国司令部はウィグリド平原に、偽装で新型機に見せかけた旧式ゾイド部隊40個師団を派遣。防御陣地を築き、敵主力を釘付けにする作戦に出た。
 だがプロイツェンの総攻撃命令を受けた帝国軍が、予期せぬ進撃を開始。3日間で、共和国軍は戦力の30パーセントを失った。帝国軍は損耗率5パーセントで、なお戦闘継続中。
 
ZAC2101年10月中旬 ヴァーヌ平野戦線
 ヴァーヌ平野に出た共和国軍主力部隊の精鋭50個師団は、逆方向から進攻してきた帝国軍15個師団と、双方が予想外の遭遇戦に突入。だが共和国主力は、歩兵部隊を中心とした軽装備の帝国軍をやすやすと撃破。その後、3日間で400キロという驚異的な進撃に移った。一方、緒戦でこの方面戦力の大半を失った。帝国軍は、残存兵を結集してヴァーヌを流れる大河の対岸に防衛陣地を構築。5日間に渡って、共和国軍のさらなる進撃を食い止めた。
 結局、帝国守備隊は全滅。だが、ウィグリド方面の帝国主力部隊が転進するまでの貴重な時間を稼ぎだした。

ZAC2101年10月下旬 ヴァーヌ平野~セスリムニル
 共和国司令部は、大きな選択を迫られていた。ヴァーヌ平野に進出した主力部隊を停止させるか、それとも一気に帝都ヴァルハラに進攻するか。
 10月もすでに下旬に入っていた。いかに大陸の四方にまたがる火山脈の地熱の恩恵があるとはいえ、ここは極北の大地、暗黒大陸だ。温暖な中央大陸に育った共和国兵にとって、想像を絶する厳冬期がすぐそこにきている。寒冷仕様を施さなければゾイドさえも凍りつく氷の世界だ。

 上陸当初の予定では、10月いっぱいで進撃を停止。占領地の守りを固めて冬を越し、春を待ってヴァルハラを目指すはずだった。だが、今やヴァーヌ平野に敵影はなく、帝都まではわずかに1000キロ。残り少ない待ち時間を考えあわせても、届かない距離ではなかった。また、守りに入ることが、必ずしも安全策でもなかった。帝国軍は各方面で苛烈な反撃に転じている。エントランス湾の橋頭堡を守り切る保障など、どこにもなかった。
 
 さまざまな方向から検討を重ねた末、ついに共和国司令部は決断した。主力部隊は、帝都ヴァルハラに進攻せよと。
 数万機のゾイドが、雄叫びをあげ東へと進む。無人の野。3日後には、道のりの半分を走破した。だがその翌日、事態は一変することになる。ウィグリド平原に展開していた帝国主力部隊のうち40個師団が転進し、共和国主力の前に布陣したのだ。帝国軍ヴァーヌ守備隊の命懸けの時間稼ぎがあったにせよ、奇跡的な速さの転進である。帝国もまた必死なのだ。
 
 決戦が始まった。全面会戦。旧大戦から続く、50年に渡る恩讐に決着をつける戦い。航空部隊の空爆と砲撃部隊の砲火の中、両軍合わせて10万機を超えるゾイド、200万人を超える兵士が激突した。
 戦線の長さが100キロにも及ぶこの空前の戦いで、最も熾烈を極めたのがセスリムニルの市街戦であった。

 セスリムニルの北半分を帝国軍が、南半分を共和国軍が押さえ、そこから先は1メートル進むのに数百人単位で兵士たちが倒れていく市街戦。凄惨なほどにリアルな戦場に突然、非現実的な閃光が煌めいた。エネルギー波だ。それも、想像を絶する熱エネルギー。大口径荷電粒子砲の煌き。デスザウラーであった。
 
 2機のゴジュラスが、左右からデスザウラーに体当たりをかけた。勇敢だが、無謀な攻撃。かつてデスザウラーは、ただ1機で10機以上のゴジュラスを葬っている。デスザウラーが、爪で右のゴジュラスを、尾で左のゴジュラスを払った。その無造作な一撃で200トンを超えるゴジュラスの巨体が宙を舞った。重金属の塊のような装甲が、完全にひしゃげている。何か、悪い冗談のような光景だ。

▲デスザウラー出現。ゴジュラスが、ライガーゼロが果敢に戦い挑んだが、集中投入された死竜の前には、あらゆる反撃が無意味であった。

 今度は、ライガーゼロが前に出た。パンツァーの砲撃の支援を受けて、シュナイダーが突撃する。一閃するレーザーブレード。切れた。デスザウラーの誇る超重装甲が、ぱっくりと割れている。さらに畳み掛けようとするシュナイダー。だが、レーザーブレードの二撃目が繰り出されることはなかった。背後からの閃光に飲み込まれ、機体ごと蒸発したのだ。さっきと同じ、荷電粒子砲の閃光。振り返る共和国兵士たち。またデスザウラーだ。2機、3機。もっといる。帝国軍は、この戦場に計30機のデスザウラーを集中投入していたのだ。

 必死で恐怖に耐えていた共和国兵士の間に、ついにパニックが走った。だが、戦線が崩れようとした瞬間、今度は共和国兵士の背後で別の巨獣の咆哮が轟いた。マッドサンダーだった。共和国もまた、この決戦に切り札を間に合わせていたのだ。
 
 ゆったりとした足取りで、デスザウラーとの距離をつめていくマッド。その2本の巨大な角が、甲高い唸りをあげて高速回転を始めた。

▲共和国軍の前線が崩れようとしたまさにその時、雷神マッドサンダーが戦場に到着した。

▲旧大戦で、デスザウラーを圧倒したマッドサンダー。伝説の超兵器マグネイザーが、デスザウラーの超重装甲を引き裂いた。

 不意に、マッドサンダーが突進した。速い。瞬発的なダッシュ力は、巨体からは想像もできないほどだ。さらに回転速度を増した角で、デスザウラーの喉元を狙う。腕を振って迎撃するデスザウラー。ゴジュラスを一撃でひしゃぐ悪魔の爪だ。それが、角に触れた瞬間消失した。悲鳴をあげ、のけぞるデスザウラー。

 マッドサンダーは、かつての中央大陸戦争後期、対デスザウラー用に特化、開発されたゾイドだ。

 いかなる打撃にも揺るがない装甲と、大口径荷電粒子砲の連続照射に耐えるシールドを持ち、主武器である2本の角、マグネイザーは、超重装甲を薄紙のように貫く。旧ゼネバス帝国を滅亡に導いたゾイドなのだ。
 幾多の巨大ゾイド同様、惑星Zi大異変で絶滅寸前に追い込まれたこの巨獣は、50年の時を経て今、戦場に蘇った。そして、ヴァーヌに投入された20機がそれぞれ、あの遠い日の戦いと同じように、デスザウラーを追い詰めていく。
 
 デスザウラーの1機が、凄まじい咆哮をあげた。怒りのようであり、宿敵と再び巡り会えた歓喜のようでもある咆哮。
 デスザウラーの背中のファンが、猛烈な勢いで回転。吸収した荷電粒子を、マグネイザーをかざして追撃してくるマッドサンダーに浴びせかけた。渾身の一撃。それを、マッドサンダーのシールドが受け止める。だが、デスザウラーはかまわず照射し続ける。

▲共和国開発陣の予測を上回るデスザウラーの荷電粒子砲の威力に、マッドサンダーのシールドがダウン。マグネイザーの一方が溶け落ちた。

 5秒…。10秒…。15秒を超えた。デスザウラーといえど、限界であるはずだった。背中の吸入ファンが焼け付き始めている。
 20秒。先に、マッドサンダーが悲鳴をあげた。連続照射される高熱に耐えかねて、シールドがダウンしたのだ。たちまち、マグネーザーの一方が根本から溶け落ちた。
 
 共和国開発陣の計算違いだった。マッドサンダーの復活は、わずかに残ったゾイド核の幼体を培養、増殖することで実現した。50年前の機体より、わずかではあるが弱体化していたのである。

 逆に、オーガノイドシステムの応用から復活を遂げたデスザウラーは、操縦性等の問題点はあるにせよ、出力は見違えるほど向上している。両者の間には、かつてのような圧倒的な戦闘力の差は無くなっていたのだ。

▲ケーニッヒウルフの決死の突撃が、マッドサンダーに逆転のチャンスを与えた。

 オーバーヒート寸前のデスザウラーも、もはや荷電粒子砲を射つ余力はない。肉弾戦。風を巻いて、マッドサンダーに襲いかかる。残った右腕を、溶けかけたシールド周辺に叩きこむ。
 一撃。もう一撃。今度は、マッドサンダーがのけぞる番だった。さらに追い打ちをかけようとするデスザウラー。その時、両者の間にケーニッヒウルフが割って入った。ほとんどの兵士が、凍りついたように2匹の怪物の戦いを見つめる中、名もない1人の勇敢なパイロットが、スモークチャージャー全開でデスザウラーの鼻先を突っ切ったのだ。

 立ち込める煙。ほんの一瞬の闇。その一瞬が勝負を分けた。デスザウラーはケーニッヒに意識を奪われ、マッドサンダーは残った1基のマグネイザーを緊急始動。煙の向こう側へと突き入れた。
 手応え。首だ。火花が飛ぶ。最も硬い前面装甲の抵抗。さらに押しこむ。そして装甲が屈した。深々と首を貫かれたデスザウラーは、断末魔の咆哮をあげながら、ゆっくりと崩れ落ちたのだった。

 ヴァーヌ平野に轟く砲撃音は、それから5日の間、片時も止むことなく続いた。セスリムニル市街地で起きた2大巨獣の死闘も、広大な戦場全体から見れば小さなエピソードにすぎない。一握りの巨大ゾイドが戦局を左右するような規模の戦いではなかったのだ(実際、投入された計50機のデスザウラー、マッドサンダーは、3日目にはすべて中破・大破し、戦闘不能となった)。
 もし6日目の朝、北西よりの使者が来なければ、両軍は地上から消滅していたに違いない。

▲帝国輸送艦ホエールカイザーと共和国輸送艦タートルシップが、北西より飛来。

 北西よりの使者、それは、トリム高地前線基地でライガーゼロイクスの襲撃を受けたシュバルツとハーマンであった。
 本来、シュバルツはまだ動ける状態ではない。だがハーマンと2人揃わなければ、即時、両軍の兵を引かせることは不可能だった。
 
「この不毛な戦争を終わらせる」
 その一念が、無線封鎖されたこの最前線まで彼を動かしたのだ。

 戸惑うように、少しずつ砲声を減らしていく戦場。振り返れば、廃墟と屍の山であった。わずか5日間の戦闘で、両軍合わせて12万の死者を出していた。負傷者は、その5倍以上。戦闘ゾイドは4万以上が鉄屑に変わった。空恐ろしい損害であった。これが、いや、この2年余りの戦いで失われた無数の命が、ただひとりの男の野望によるものであるとは…。

破壊されたセイバータイガーに代わる、もう1機の愛機・アイアンコングで駆けつけたシュバルツは、戦場の損害の大きさに言葉を失った。

 ガイロスとヘリックの戦いは、この日をもって終結するだろう。ともに手を取りプロイツェンを討ち、この星に真の平和を打ち建てるのだ。
 だが直後に入った通信が、彼を愕然とさせた。ヴァルハラに送った腹心からだった。プロイツェンの支配する帝都から皇帝ルドルフを脱出させるための特殊部隊。彼らの悲痛な声が、こう告げた。
 
「摂政プロイツェンが、帝都で反乱を起こしました」

▲またしても先手を打ったプロイツェンは、PK師団をもって帝都ヴァルハラを襲撃した。

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