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生きて還る

ZAC2101年8月 ニクス大陸イグラシル山脈

 諸君、時は来た。今こそゼネバスの名のもと戦う時だ。ヴァルハラに我らの旗を打ち立て、50年の長きに渡る屈辱の歴史に終止符を打て。そして、我らが祖国、中央大陸に還るのだ!
(ネオゼネバス帝国初代皇帝ギュンター・プロイツェン・ムーロアの演説より)

 しかし、レイ・グレックは生きていた。フューラーは仲間を回収すると、すぐに撤退していった。奴にも余力がなかったのだろう。
 
 壊滅的打撃を受け、共和国勢力圏内へと撤退する閃光師団。よろめくように進むホバーカーゴに揺られながら、レイはヴォルフ・ムーロアに想いを馳せていた。部下を救うためだけに命を賭けた、今は亡き国の皇帝継承者。悲しいあの目は、抗えない運命に生まれた者の、苛酷な人生ゆえなのだろうか。そう想っては、何度もそれを振り払った。戦場で感傷に意味はない。お互い生き延びた。ならば、また戦うだけだ。
 あの男とは、また会うことになる。その確信があった。ヴォルフだけではない。レイもまた、抗えない運命の中にいるのだ。多分、すべての人々が…。

▲バーサーク・フューラーは南へ往く。目指すはニフル湿原。ここで鉄竜騎兵団本隊と合流し、中央大陸に向け船を出す。

 バーサーク・フューラーは南へゆく。目指すはニフル湿原。ここで鉄竜騎兵団本隊と合流し、中央大陸に向け船を出す。

 ヘリック共和国軍の主力はこのニクスの地に集結し、ガイロス帝国軍との泥沼の戦いの中にいる。中央大陸に鉄竜騎兵団を止められるものはいないだろう。
 
 戦場を離れてから、ヴォルフは一言も喋らなかった。ただ、怒ったように口を真一文字に結んでいる。
 ズィグナーも黙ったままだった。何も言わなくても、ヴォルフには全部分かっている。真一文字の口は、悪いことをした後に見せる子供の頃からの癖だ。
 危うい皇帝継承者だと思う。だがズィグナーは、心の隅でこうも思っていた。
 
 この心優しい男が作るのは、どんな国であるのだろうかと――

その頃、共和国軍勢力圏で謎の巨大ゾイドが建造されていた。暗黒大陸戦争の結末がどうなるか、まだ誰も知らない。

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