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ガイロス帝国の力

ZAC2101年1月 北エウロペ大陸 共和国軍ニクシー基地

 停戦勧告は無駄でした。我々には今、ふたつの道があります。ガイロス帝国に時間を与え、再び祖国が危機に見舞われる日をじっと待つか。それとも敵本土に乗りこみ、戦争の元凶たる帝国摂政ギュンター・プロイツェンを討つかです。
(ヘリック共和国大統領ルイーズ・エレナ・キャムフォードの演説より)

▲戦争継続か、平和の訪れか。運命を決めるその日、帝国から届けられたのは死のプレゼントだった。

 ニクシー基地の攻防から2か月が過ぎた。この間、共和国軍はエウロペに残った帝国軍各拠点の掃討をほぼ終了。西方大陸戦争は、名実ともに終結をみていた。これにともない共和国大統領ルイーズ・キャムフォードは、ただちに帝国軍に停戦を勧告したが、主力部隊の撤退に成功した帝国摂政ギュンター・プロイツェンは、この申し出を嘲笑うかのように黙殺したままだった。
 そしてこの勧告に対する期限の日、今や共和国軍のものとなったニクシー基地に鳴り響いたのは、終戦を告げる音楽ではなく、けたたましい空襲警報であった。基地の警戒レーダーが、地上3万メートルの高々度から飛来するホエールキングの大艦隊を発見したのだ。

 ただちに発進する共和国防空戦隊。だが、対大型艦用の迎撃ミサイルを搭載してこの高度まで昇るのは、ストームソーダーやレイノスをもってしても不可能なことだった。

 悠々と格納庫を開くホエールキング。そこから無数の悪魔が降下した。
 ザバット――。帝国軍が開発した新型急降下爆撃機だ。母艦からの無線操縦が可能なこの無人機は、どんな頑強なパイロットでも耐えられないスピードで垂直降下。対空砲火も地面に激突することも恐れず超低空まで侵入し、大型のホーミング爆弾を雨のように撒き散らしていく。

 共和国軍の被害は甚大だった。この第1波攻撃だけで、後に発動される暗黒大陸上陸作戦が予定より一月以上遅れたほどだ。
 旗艦ウルトラザウルスも手痛いダメージを受けた。陸戦仕様から海戦仕様に改装中のところを狙われた。3発の直撃弾を受け、中破。第2次攻撃を受けたら、この巨艦といえども持ちこたえられない。
 その第2波が来た。同じく上空3万メートルから、ニクシー上空にホエールキングが侵入しつつあったのだ。ニクシー基地司令官は決断した。サラマンダーを投入すると。

▲巨大な艦内にザバットをぎっしり積み込んだホエールキングが、ニクシー基地上空に飛来した。

▲高度3万メートルの超高空を飛ぶ改造ホエールキング。レイノスでは迎撃不可能だ。

▲共和国防空戦闘隊最後の切り札、サラマンダーにスクランブルがかかった。この共和国最強の飛行ゾイドは、ニクシー基地を守れるのか?

 サラマンダー。それは、大陸間戦争も視野に入れた共和国軍が密かに配備しつつあった巨大飛行ゾイド。ケタ違いの航続距離と上昇高度を誇る共和国史上最大の爆撃機であった。

 格納庫から姿を現した巨大な翼竜型ゾイドが、大型艦用の対空ミサイルを搭載して天空に舞い上がった。ニクシー基地の将兵が、祈るような目でそれを見送る。
 祈る気持ちは、サラマンダーに出撃を命じた司令部も同じだった。迎撃成功に確信があったわけではない。

▲マグネッサーシステムの翼を広げ、出力全開で雲を突き抜けるサラマンダー隊。3万メートルの超高空への挑戦が始まった。

▲刻々と迫るザバットの投下時間。サラマンダー隊の迎撃は、タイムリミットまでに間に合うのか?

 確かにサラマンダーの最高上昇高度は、3万メートルを超える。だが、それは計算上のデータだ。そして実戦がしばしば計算を裏切ることは、この1年半の戦いで身にしみている。テストも不十分な新鋭機が、しかも積載重量ぎりぎりの大型ミサイルを背負って高々度に届くのか?

「1万メートル…1万2000メートル…1万5000」
 サラマンダーの上昇高度を刻々と読み上げる観測員以外、司令部で言葉を発する者はいなかった。
 サラマンダーのパイロットたちは、高度2万メートルを超えたあたりから、愛機の加速が鈍り始めたのを感じていた。

 
「2万5000…2万6000…」
 高出力のマグネッサーシステムを搭載した翼も、この高度では心もとない。地表からの磁力の反発は、もうほとんど捉えられない。併用しているジェットエンジンも、空気の薄いこの超高空では息も絶え絶えだ。
「2万7000…8000…。がんばれ、サラマンダー!」

 モニター上に捉えた改造ホエールキング艦隊は、すでにザバットの投下態勢に入っている。サラマンダーのパイロットたちは、はやる気持ちを必死に飲み込み、愛機を励まし続けた。
「2万8500…9000…」
 ついに先頭のホエールキングが投下を開始した。
 
「9500…3万! よし、全機ミサイル発射!」

 一斉に放たれる対空ミサイル。1秒、2秒、3秒、4秒…。命中!

 無音の高空で爆発するホエールキング。続いて2番艦に、3番艦にも。合計5隻のホエールが轟沈し、残りは艦首を北に戻した。ニクシーは、きわどいところで救われたのだ。だが、基地の歓声は一瞬だった。誰もが、ガイロス帝国の底知れぬ力に戦慄していたからである。

▲迎撃成功に沸くニクシー基地。だが、帝国軍の新たなる作戦は、すでに進行しつつあったのだ。

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