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死竜の鼓動!!

ZAC2101年8月 ニクス大陸ウィグリド平原

 殿下、よき指導者におなりください。殿下のために散っていった多くの者のためにも。殿下のお優しさが、ご自身の仇となりませぬよう…。我らの屍を礎に、栄光の祖国の蘇らんことを!
(鉄竜騎兵団副司令ズィグナー・フォイアー大尉の通僧記録より)

 ゼロにカがみなぎってくる。レイはもう、計器を見ていなかった。操縦桿さえ握っていない。愛機との精神リンク。それだけで、バーサークフューラーに立ち向かう。そう決めていた。


 ゼロが跳んだ。起き上がろうとするフューラーに、レーザーファングで食らいつく。

――やれる!
 
 ゼロは、レイが倒すべき敵を理解している。これなら戦える。
 今度は、レーザークロー。フューラーの肩口の装甲板がひしゃげた。だがその直後、ドリルの反撃が来た。


「!」

 かわせた。だが、紙一重だ。冷たい汗がどっと吹き出す。装甲のない今のゼロがあれを食らったら、一発で終わりだ。もちろんそれは分かっている。分かっているが、引くつもりはない。ゼネバスの亡霊。ヴォルフ・ムーロアだけは、どうしてもここで叩かねばならない。中央大陸の同胞同士が殺し合った、悪夢の歴史を繰り返さないために。レイは旧ゼネバス領生まれだ。だから、なおさら強くそう思う。故郷にはまだゼネバスを慕う者が大勢いる。その中央大陸に、ヴォルフが帰還したら?


 また、泥沼の内乱が始まるだろう。
 
――倒す! この命にかけて!
 レイの想いに応えるように、、ゼロは本来の限界性能をはるかに超えて躍動した。

――やれる!
 
 ゼロは、レイが倒すべき敵を理解している。これなら戦える。
 今度は、レーザークロー。フューラーの肩口の装甲板がひしゃげた。だがその直後、ドリルの反撃が来た。


「!」

 かわせた。だが、紙一重だ。冷たい汗がどっと吹き出す。装甲のない今のゼロがあれを食らったら、一発で終わりだ。もちろんそれは分かっている。分かっているが、引くつもりはない。ゼネバスの亡霊。ヴォルフ・ムーロアだけは、どうしてもここで叩かねばならない。中央大陸の同胞同士が殺し合った、悪夢の歴史を繰り返さないために。レイは旧ゼネバス領生まれだ。だから、なおさら強くそう思う。故郷にはまだゼネバスを慕う者が大勢いる。その中央大陸に、ヴォルフが帰還したら?


 また、泥沼の内乱が始まるだろう。
 
――倒す! この命にかけて!
 レイの想いに応えるように、、ゼロは本来の限界性能をはるかに超えて躍動した。

▲閃光師団、反撃開始。レイを見習い、他のパイロットたちもゼロの武装を解除した。

 思ってもないゼロの反撃を受けて、ヴォルフは胸の内で自分の甘さを罵っていた。ゾイド乗りとしての腕には自信をもっていたが、ゼロのあまりの猛攻に攻勢に出る機がつかめない。機を掴むには、実戦経験が足りなすぎた。安全な戦いしかしてこなかったツケだ。司令官としてもゾイド乗りとしても、命を賭けたギリギリのところで、甘すぎたのだ。

 ふっ、とヴォルフの顔に笑みが浮かんだ。一度だけ、死をかけて戦ったことを思い出したのだ。ニクシー基地撤退の時だ。あの時も、相手はゼロだった。なぜか、パイロットもレイであったような気がする。

 崩れるようにフューラーが倒れた。ゼロの爪をかわしきれなかったのだ。追撃が来る。ヴォルフは死を意識した。これで楽になるのか? だが、その時だった。鉄竜騎兵団基地の一角が、激しく発光したのだ。

 発光の正体。それは、閃光師団にとって、悪魔の形をしていた。
 
「デ、デスザウラー…」
 誰かが呟いた。

――デスザウラー。旧中央大陸戦争で、ヘリック共和国を絶滅寸前に追い込んだ死を呼ぶ竜。ゼネバス帝国が造り上げた最強の巨大ゾイド。それが、突然現れたのだ。ゼロ軍団といえども、傷ついた状態で戦える相手ではない。それほど別次元の強さをもつ怪物であった。

 デスザウラー復活計画が完成したのか? いや、デスザウラーとはわずかに形状が違う。 
 
「ブラッディデーモン? 誰だ、乗っているのは?」

▲ヴォルフの危機を救うため、デスザウラー復活計画の実験機ブラッディデーモンが出撃した。

 ヴォルフが叫んだ。これは実験機なのだ。OSとインターフェイスの小ゾイドを積んだ実験機。この基地も、ブラッディデーモンのために造られたものだ。だが、機体の完成度は恐ろしく低い。とても実戦に耐えられるシロモノではない。
  
「お逃げください、殿下!」
 ブラッディデーモンが、レイとヴォルフの間に割って入った。
「ズィグナー?」
 ヴォルフに影のように付き従ってきた副官であった。子供の頃から、ずっと。
 
「今の戦力では、立て直せません。お逃げください!」
 そう、この時、鉄竜騎兵団の主力はニクスの別の場所にいた。ある重大な目的のために…。
 
「半分の力も出せぬこの実験機でも、殿下をお逃がしする時間くらいは稼げましょう」
「貴様をおいていけるか!!」
「我らの悲願をお忘れか?」
 悲願。ヴォルフにとって、その言葉は絶対だった。物心つく前から、呪詛のように繰り返されてきた言葉。
 
「……頼む」
 フューラーを反転させたヴォルフの通信は、今までで一番感情のない声だった。
 思い切りバーニアをふかすヴォルフ。その背後で、ブラッディデーモンの全門射撃の轟音が轟いた。

 戦場は炎の海だった。重砲撃ゾイド1個大隊分にも匹敵する、ブラッディデーモンの超絶的な火力。大口径荷電粒子砲が、レーザーバルカンが、ミサイルの雨が、閃光師団のゾイドをなぎ払うように消していく。
 
「レイ!奴を迫え!」
 師団司令官が叫んだ。ヴォルフを追えと言っている。ムーロアを名乗る男を逃すことがどんなに危険か、共和国兵士なら誰でも分かることだ。そしてフューラーを追えるのは、最も損傷の少ないレイのゼロしかない。
 だが、レイには迷いがある。ヴォルフを追うことは、壊滅の危機にある師団の仲間を見捨てるということだ。ニクシー基地で死んだ部下たちの顔が、頭をよぎる。
「レイ、行け!」
 
 怒声に蹴られるように、レイは愛機を翻した。だがそれは、フューラーが逃げた方向とは逆だった。
 目指す先には閃光師団の移動基地、ホバーカーゴがある。そこで、武装するのだ。素体のままでは、ブラッディデーモンの超重装甲は破れない。
 
――仲間を救う。
 
 それがレイの下した決断だった。どんな大義名分があろうと、またヴォルフと自分の間にどんな運命のからくりがあろうと、仲間だけは捨てられない。正しいかどうかなど、後で誰かが勝手に判断すればいい。
 駆け込んだホバーカーゴも酷い有様だった。炎上している。ゾイド部隊のすぐ後方にいたのだ。あの襲撃から無事で済むはずがない。
 
「武装をくれ。どの形態でもいい」
 レイの叫びに作業員も怒鳴り返す。
「この火が見えんか? まともな予備パーツなんぞが、どこにある?」
「なんでもいいからくっつけろ! 後は俺がなんとかする!」

ホバーカーゴにも、もはやまともな予備パーツはない。ありあわせのCASでブラッディデーモンに勝てるのか?

▲ブラッディデーモンは、戦闘に耐えられる機体ではなかった。たちまち内部回路が暁けつき、カを失っていく。

 ズィグナーは、まだ健在だった。ブラッディデーモンのダメージは深かったが、もはや閃光師団にも、まともに動けるゾイドはいない。

「あと一撃はいけるか?」
 ズィグナーは、荷電粒子砲のトリガーに手をかけた。これで残った敵を掃討する。
 正面から何か来る。なんという速さ。無傷のゼロが、まだいたのか? 異形だ。4つの武装形態を無秩序に纏っている。決めた。あれが最後の獲物だ。ズィグナーの指が動いた。

 レイの眼前に大口径荷電粒子砲の光の奔流が来る。


――イエーガーのブースター全開。よけた。いや、かすった。それだけで、右側の装甲が全部消えた。素体のままなら今ので終わっている。バランスが崩れた。これでは跳べない。奴は目の前なのに。どうする?
 パンツァーのミサイルだ。当たった。奴の頭が下がった。いいぞ。これで届く。そのまま動くな!
 左から爪が来る。大丈夫だ。俺のほうが、シュナイダーの刃のほうが速い。多分。行け! 行け、ゼロ!
 そしてゼロのレーザーブレードが、ブラッディデーモンの喉を貫いた。

▲ブラッディデーモン撃破。誰もが、レイのゼロの勝利でこの死闘が終わったと思ったが…。 

――終わった。
 
 そのまま、へたりこみたいような気分で、レイはあたりを見回した。閃光師団はほぼ壊滅だ。中破、大破した機体の山。だが、信じられないほどたくさんのパイロットが生き残っている。さすが、共和国軍最強を自負する精鋭だけのことはある。
 早く師団を立て直さなければならない。そして、ヴォルフを追うのだ。この仲間たちと。 


 ふとレイは、崩れ落ちたブラッディデーモンを振り返った。コクピットは無事だ。ならば、パイロットは生きているはずだ。
 聞きたいことが山ほどあった。鉄竜騎兵団のこと、ヴォルフのこと。
 そう思った時だった。背後で、ゾイドが咆哮した。ティラノ型ゾイド特有の、重々しい金属的な咆哮。バーサークフューラーが、そこにいた。戻ってきたのか? すでに敗れた戦場に、皇帝の座を継ぐ者が、ただひとりで? レイには、ヴォルフの真意が分からなかった。

 ブラッディデーモンのコクピットでは、苦しい息の中、ズィグナーがレイ以上に驚いていた。
「殿下……なぜ…?」
 
 答えは分かっていた。この自分を救いにきたのだ。なんという愚挙なのか。いや、皇帝継承者の立場云々を今考えている余裕はない。勝てないことが、問題なのだ。生き残ったゼロのパイロットは並みのゾイド乗りではない。傷ついたバーサークフューラーで、どうにかなる相手ではないのだ。
 不意にフューラーの装甲板が弾け飛んだ。攻撃を受けたのではない。自ら装甲を捨てたのだ。レイが、まともに勝てる相手ではないことはヴォルフ自身が一番分かっていた。だから捨てたのだ。レイがしてみせたように、自分もフューラーの野生の本能に賭ける。

自らの意志で、装甲を脱ぎ捨てるヴォルフのフューラー。それは、レイがヴォルフにしてみせた戦法そのままであった。

▲ニクシー基地から続く2機の宿命の戦いに、決着がつく時が来た。勝つのはゼロか?それともフューラーか?

 やれるはずだ。レイと同じくらい強い、勝利への意志があれば!!
 フューラーが跳んだ。巨大ドリル、バスタークローを回転させ、ゼロに向かって。
 レイのゼロも跳んだ。戸惑う心を、戦士の本能で押さえつけて。
 
 一瞬の交錯。2つの金属音が、戦場に響き渡った。
 着地したフューラーの喉元にゼロのレーザーブレードが食いこんでいる。だが、浅い。
 ゼロの肩口からフューラーのドリルが生えている。それは、装甲をやすやすと貫き、ゾイド核まで達している。ゼロのパワーが、みるみる落ちていく。
 いずれ再生できる傷かもしれない。だが、今はもう動けない。
 
――お前の勝ちだ。
 
 レイは呟いた。そしてフューラーが、再び機首をこちらに向けた。

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