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凶戦士VS究極野生体!!

ZAC2101年3月 北エウロペ大陸 共和国軍ニクシー基地

 決まりごとだから一応書くけどヴォルフ。私、死ぬつもりなんてこれっぽちもないわ。貴方が、皇帝の座につく姿を見るまではね。でも、そしたらもう、ヴォルフなんて呼べないね。
(帝国軍第13特殊工作師団第2特務隊アンナ・ターレス少尉の遺言状より抜粋)

▲帝国軍第2の反攻作戦は海からの奇襲。正面からウオディックの襲撃。基地の背後には輸送艦が上陸した。

 ヘリック共和国は、豊かな国である。40数年前の惑星Zi大異変以来、ひたすら復興に努めてきたのだ。その間、国家予算を軍事費に注ぎこみ続けたガイロス帝国に較べ、国力は5倍とも6倍ともいわれている。その巨大な資金力、工業力のすべてが今、この戦争にふり向けられようとしていた。開戦時、帝国軍の3分の1以下だった総戦力も、すでに大きく上回っている。共和国軍にとって、今が暗黒大陸上陸戦をしかけるチャンスだった。帝国の技術力は、共和国より5年は進んでいるといわれる。時間を与えれば、どんな新兵器を開発してくるか分からない。

 逆に帝国にとって、喉から手が出るほど欲しいのが時間だった。本土防衛体制を整え、その上で決戦ゾイドの完成を待つ。それが司令部が導き出した大戦略だ。すなわち、試作ゾイドによる奇襲。実戦テストとニクシー基地の破壊工作を、同時に行なう作戦である。先のザバット空爆に続く帝国軍第2の矢。それは海から近づきつつあった。

 

 ZAC2101年3月中旬の未明、共和国軍が無敵と信じた海戦ゾイド、ハンマーヘッドの防衛ラインが突破された。敵はウオディック。旧大戦で、水中では最強を誇ったゾイドである。大異変以来絶滅の危機にあったウオディックの大艦隊が、なぜ突如として、ニクシー沖に出現したのか? 帝国技術の成せるわざであった。OSで、ゾイド核の分裂・成長を強制的に促進させたのである。これは、野生ゾイドの無限増殖が可能であることを意味する。

▲最強の海戦ゾイド、ウオディックが復活。ビームとミサイル攻撃で、ニクシー軍港を破壊した。

 この技術がさらに進めば? 絶滅したゾイドの、仮死状態の核さえ、蘇らせることができるのかもしれないのだ。
 
 ウオディックから放たれたミサイルとビーム砲の雨が、ニクシーの軍港に降りそそぐ。停泊中のゾイドが、施設が、逃げ惑う人々が炎に包まれていく。共和国軍がようやく反撃に転じた時には、港は徹底的に破壊されていた。目前に迫っていた暗黒大陸侵攻作戦が、さらに遅れることは間違いない。

 対艦ミサイルを搭載したレイノス、プテラスが、怒りに燃えてウオディックに襲いかかる。急速潜行で脱出をはかるウオディック。


「逃がすな!」
 司令部の怒声が響く。だがこの襲撃は、帝国軍の反攻作戦の第1段階にすぎなかった。ウオディックが共和国軍の目を引きつけている間に、半島の裏側には、さらに恐ろしい帝国ゾイドが上陸していたのだ。

 ゾイドの名は、デススティンガー。獣王ブレードライガーと魔装竜ジェノブレイカーが、2機がかりでようやく倒した凶戦士。

▲ホエールキングから出撃しようとする機体。それは、この星そのものを滅ぼしかねない禁断のゾイド、凶戦士デススティンガーであった。

 他のゾイド核を養分に、無限に自己増殖してゆく超古代文明の遺物。惑星Ziそのものを滅ぼしかねない悪魔なのだ。
 それが、あわせて10体。ウオディック襲撃の混乱がまだおさまらないニクシー基地に突入した。

――制御する方法が見つからぬまま、帝国でも開発が凍結されているはずの凶戦士が、なぜここに?
 恐怖にかられる共和国兵士たち。基地は、パニックに陥った。

迷彩塗装を施されたデススティンガー部隊、コード名キラーフロムザダーク(KFD)が、ニクシー基地に侵入。共和国兵士を、恐怖のどん底に陥れた。

 閃光師団に出撃命令が下った。暗黒大陸上陸戦争のために編成された新師団。主力部隊から遠く離れ、高速機動戦を展開する特殊部隊だ。レイ・グレックは今、ここに配属されていた。 望むところだった。指揮系統から外れた特殊部隊なら、単独で敵地の奥まで潜入することも可能だろう。そこで、奴を探す。あのティラノ型実験機のパイロットと小ゾイドを。
 
 固執していることは、レイ自身にも分かっている。だが、死んだ部下やアーサー・ボーグマンへの想い、そして強迫観念めいた死の予感にケリをつけなければ、ゾイド乗りとして先に進めない。けたたましい非常警報に尻を蹴られるように、レイはライガーゼロのコクピットにすべりこんだ。

 ゼロの特性は、野生体の本能を活かした操縦システムだけではなかった。CAS。外装を後付けにすることで、任務に最適の武装を選択できる画期的なシステムだ。武装形態は4つ。帝国軍の残したデータから再現された基本形態。そして、共和国技術部が独自に開発した格闘形態シュナイダー、砲撃形態パンツァー、高速戦形態イエーガーの3つである。特別な指令がない限り、形態はパイロットの判断に任されている。

​レイフォース

 レイの好みは基本形態だ。貧弱な武装が他のパイロットには不評だが、特化されていない分扱いやすい。思い通りに動いてくれれば、武器は強靭な牙と爪で十分だ。
 
「レイ・グレック出撃する! 目標は?」
「凶戦士だ。帝国め、あの化物を蘇らせやがった!」
 アーサー・ボーグマンを殺した敵と戦うチャンスが、まったく不意にレイ・グレックの前に訪れていた。

閃光師団、出撃。レイと新獣王ライガーゼロの野生の力のコンビネーションは、凶戦士デススティンガーに通じるのだろうか?

 格納庫の外は混乱の極みだった。迎撃に出た共和国ゾイドの無数の屍が転がっている。地に潜っては現れるデススティンガーに、大軍で挑めば挑むほど小回りがきかず、犠牲が増えていく。
 
「退がれ!」
 レイが叫んだ。デススティンガーとの戦い方は分かっている。アーサーの機体から回収された記録をもとに作られたシミュレーションを、何度もこなしている。超重装甲の隙間、むき出しになった関節を狙うのだ。

 レイのゼロが跳びこんだ。デススティンガーの狂暴な爪が迎撃してくる。速い。恐るべき反応速度だ。並の高速ゾイドでは絶対に避けられない。だが、レイとゼロの本能の反射速度は、それさえも上回っていた。紙一重で反撃をかわし、確実に関節を食いちぎる。そして、動けなくなったデススティンガーの腹にとどめの爪を突き立てる。
 
 ゼロが危険を察知した。後ろから光の渦がくる。デススティンガー2番機が放った荷電粒子砲だ。大地を蹴って宙に逃げるゼロ。そこに砲弾の雨が降りそそいだ。パンツァー隊の一斉射撃だ。超重装甲もひしゃぐ威力と連撃。砲撃がやんだ瞬間、今度はシュナイダー隊とイエーガー隊が突撃してきた。驚異的なスピードと運動性能で撹乱するイエーガー。シュナイダーのレーザーブレードは、超重装甲を真っ向から貫いた。

▲デススティンガー唯一の弱点、それは超重装甲の隙間、むき出しの関節だった。

▲後方から支援するパンツァー。その一斉射撃が凶戦士を追い詰める。

▲ゼロの最高速形態イエーガー。驚異のスピードと運動性で、デススティンガーを翻弄する

シュナイダーは、5本のレーザーブレードと5基のEシールドを全開にして突撃。超重装甲を真っ向から突き破った。

 次々と炎上していくデススティンガー。ゼロのカは圧倒的だった。だが…。
 レイには疑問だった。これが、あのアーサー・ボーグマンが、死をかけて戦った敵なのだろうかと。

▲ニクシー沖の海底では、デススティンガーを輸送してきたホエールキングが、戦いの様子を静かに見つめていた。

「KFD、全機行動不能!」
 ニクシー基地近くの海底に潜むホエールキングのメインブリッジで、ヴォルフ・ムーロアは観測員の報告を聞いていた。
 
「思ったより、脆かったな」
「念のため、出力を70パーセントに抑えた機体です。このくらいのものかと」
 いつもの抑揚のないヴォルフの問いに、副官として付き添うズィグナーが答えた。

「KFD自爆装置、作動しました」
 
 再び、観測員の報告。予定通りだ。敵には、いや、同胞以外の味方にも、この軍事機密は渡せない。モニターの中、次々とKFDが爆発していく。ヴォルフは部下に指揮を任せブリッジを後にした。これ以上、無表情を保てない。少なくともズィグナーは騙せない。
 
 喜ばなくてはならない。皇帝の座を継ぐ者として。計画は、父プロイツェンの思惑通りに進んでいる。最終兵器は復活し、ゼネバス帝国は蘇るだろう。だが、アンナが死んだ。パイロットとしてKFDに乗り込んでいたのだ。己の運命を自覚する前の、幼き頃からの友。今でもヴォルフと呼んでくれるただ一人の友が。
 
 ヴォルフの脳裏には、アンナを殺した白いゼロの姿が、消えることなくいつまでも浮かんでいた。

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