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栄光なき勝利

「私の知り得る限り"最高のゾイド乗り"ここに眠る。その勇気、その決断力、その魂は、帝国・共和国の壁を超え、すべてのゾイド乗りの指針となるべきものである」
(戦場の、名のない墓標に刻まれた言葉より)

 東の空が明けていく。まるで、戦いの終わりを待っていたかのように。その朝焼けよりも、さらに眩い光が西の空を赤く染め上げた。続いて爆発音。ウルトラザウルスが、ニクシー基地の砲撃に成功したのだ。
 2発。3発…。爆発が起きる度に、振動が大気まで揺らしていく。リッツは知った。帝国軍が、西方大陸戦争に敗れたのだと。やるせない想いが胸にある。彼は、味方を救えなかった。いや、その任務さえ放棄したのだ。たとえ、この戦いが惑星Ziを救うための英雄的行為であったとしても、決して許されることではない。
 4発。5発…。リッツは、ブレードを振り返った。機体は完全に砕けている。パイロットの遺体を探すのも難しいだろう。名も顔も知らないまま、半年あまりも頭から離れなかった敵。今なら分かる。最初に出会った時、自分はこのパイロットに魅せられたのだ。それを認めたくなくて、OSに心を委ねて対抗しようとした。
 どんな戦士だったのか? 自分もいつか、こんなゾイド乗りになれるだろうか?分からなかった。分からないなら、せめて自分にできることから始めよう。そう、リッツは思っていた。共に戦ってくれた、愛機の願いに応えるのだ。この戦いのさなかに理解した、ジェノブレイカーの悲しい心。OSへの憎しみから解放してやるのだ。
――OS計画を止める。
 軍に戻る気はない。そんな資格は自分にはない。それで、どこまでできるかは分からない。だが、ブレードのパイロットも、自分がそうすることを望んでいる気がした。
 
「行こう、ブレイカー!」
 
 そしてリッツは、ジェノブレイカーを力強く始動した。遠くでウルトラの砲撃音が、なおも鳴り響いていた。

リッツ・ルンシュテッドは、凶戦士の巣を破壊した後どこへともなく姿を消した。帝国軍の記録には、ただ「生死不明」とだけある。

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