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暴走の凶戦士

ZAC2100年07月 北エウロペ大陸 レッドラスト(赤の砂漠)東部

 結論からいえば、あれは我々が追い求めた「欠けたピース」ではありません。おかしな言い方ですが「ピースの欠けた完全体」なのです。あの悪魔はコントロールできません…。閣下、OS計画の凍結を。さもなくば、世界は必す滅びるでしょう。
(帝国軍技術部総督ドクトルFの報告書より)

▲帝国特殊部隊は、砂漠の手前の狭い山間部で共和国の大部隊を迎え撃つ作戦に出た。

▲魔装竜同様、帝国の新鋭機はテストする余裕もないまま戦場へ派遣されたのだった。

 魔装竜ジェノブレイカーの援護によって、南ルートの帝国主力部隊の撤退は成功した。だが、北ルートを逃げる部隊の苦闘は、なおも続いていた。
 殿をつとめた部隊は、ことごとく全滅するまで戦った。それでも共和国追撃部隊を振りきれない。北ルートには南ルートの一本橋のような脱出ポイントがなかった上に、追撃部隊の先鋒には、「共和国最強軍団」が数多く加わっていたからである。

 この北ルート部隊を救うために、帝国司令部は特殊部隊に出撃を命じた。その部隊編成は、最新鋭機ライトニングサイクス、同デススティンガー、改造型ジェノザウラーなどを中心とした超強力1個中隊(戦闘ゾイド約30機)。

​ だが、いかに彼らが精鋭だろうと、何干機もの追撃部隊とは、まともには戦えない。そこで彼らは、一度に多くのゾイドが入ってこれない山間部を戦場に選んだ。ここで共和国軍を小部隊ごとに撃破し、北ルート部隊が逃げる時間と、さらなる援軍が到着するまでの時間を稼ぐ作戦だ。

▲運命の一弾。それはシールドライガーDCSが、デススティンガーに放った砲撃だった。

 デススティンガーが地中から飛び出したのを合図に、四方から一斉に、特殊部隊が追撃部隊に襲いかかった。たちまち炎に包まれる共和国ゾイドたち。だが、追撃部隊もまた、シールドライガーDCSをはじめとする精鋭ぞろいだ。すぐに態勢を立て直し反撃に移る。
 
 激戦が始まった。荷電粒子砲が唸り、ビームキャノンが火を吹く。どちらも狙いは正確だった。次第に、数に優る追撃部隊が押し始める。そしてついに、運命の一弾が放たれたのである。

▲攻撃を受けたデススティンガーに異変が起きた。装甲の奥の目が、怪しく輝いて…?

「ぎゃあああああああああ!!」
 
 帝国特殊部隊のパイロットたちは、通信機越しに絶叫を聞いた。この世のものとは思えない、ぞっとするような叫び声。デススティンガーのコクピットからの発信だ。
「どうした? デススティンガー応答せよ!」
 ライトニングサイクスに乗る特殊部隊の司令官が叫び返すが応答はない。シールドライガーDCSの攻撃を受けてから、デススティンガーはぴくりとも動かない。機能停止?だが、外からはダメージがうかがえない。
 
「何が起きた? 返事をしろ!」
 また叫ぶが、パイロットからの応答はなし。
「くそっ!」
 乱戦の中、ライトニングサイクスがデススティンガーに近づいた。だが、どういうわけだ。そのサイクスに、味方であるはずのデススティンガーが砲塔を向けたのだ。
――!?

▲デススティンガーは、本来のスペックを遥かに超える戦闘力で、両軍ゾイドに襲いかかった。

▲Eシールドを装備するデススティンガーは、荷電粒子砲すら受けつけない。この暴走凶戦士を倒す方法はあるのだろうか?

 閃光と共に轟く砲撃音。強烈な衝撃波が、機体をかすめていく。サイクスがこの砲撃をかわせたのは、驚異的な運動性能と奇跡的な幸運のおかげだ。だが、幸運を得たのはサイクスだけ。デススティンガーは、そのまま周囲のゾイドに襲いかかっていったのだ。敵も味方もない。手当たり次第の攻撃だ。

――暴走?
 帝国特殊部隊の司令官が、呆然とつぶやいた。
 OS搭載ゾイドの本能の強さは、彼も十分知っている。しかも、あれは「真オーガノイド」なのだ。もし、DCSの攻撃が自己防衛本能を呼び覚ます引き金となり、自らの意志で動き出したのだとしたら…。
 
 改造ジェノザウラー「プロトブレイカー」が、デススティンガーに荷電粒子砲を叩きつけた。が、通じない。Eシールドに、すべて弾かれる。同じく「ジェノトルーパー」が、背後から4連装のレーザー砲を発射する。が、超重装甲には傷ひとつつけられない。逆に捕まり、切断され、撃ち抜かれた。

 為す術など何もない。数十分後、デススティンガーが自ら地中に消えるまで、両軍の精鋭ゾイドはオモチャのように引き裂かれ続けたのである。
 結果的に、この戦いによって北ルートの帝国部隊は脱出に成功した。だが、報告を受けた帝国司令部に歓声はなく、自らが造り出した脅威にただ凍りつくだけだった。

▼帝国特殊部隊で生き残ったのは、サイクスただ1機。大損害を受けた共和国軍も、追撃を断念する以外になかった。

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