top of page

第二次全面会戦

ZAC2100年07月 北エウロペ大陸 共和国軍ロブ基地

 別に共和国びいきってわけじゃない。他所の国ででかい顔してるのは帝国も共和国も一緒さ。こっちについたのは、まあ性分だな。つい、負けそうな方に肩入れしちまうのさ。
(共和国軍第24傭兵大隊アーバインの入隊挨拶より)

▲帝国軍の総攻撃開始。共和国軍に、開戦以来最大の危機が迫っていた。

 最強軍団の増援を受けた共和国軍ロブ基地は、ハチの巣をつついたような騒ぎだった。部隊の再編成と機体の整備で、将軍から一兵卒に至るまで、もう3日も寝ずの作業が続いている。
 
「おやおや、少佐殿まで駆り出されたんですか。そりゃ、猫の手でも借りたいとは言いましたがね」
 慣れない手つきで、格納庫に機体を誘導するアーサーを整備兵がからかった。

▲OS実験機、ジ・オーガ。誰にも扱えないこの怪物を、一人の男が見つめていた。

「うるさいよ。それより、さっきからゴジュラスを眺めてる、あの男は誰だ?」
「ああ、確かアーバインとかいう傭兵ですよ。オーガにご執心みたいですがね」
 
――オーガ。実験的にOSを組みこまれたゴジュラス。無敵の力を得ながら、あまりの凶暴さに自動操縦でしか操れず、本来のパワーを封印された最強機獣。

「ゾイド乗りがゾイドに一目惚れすることは、まあ、よくあることだがな…」
 機体とパイロットの相性がいい証拠だ。だが、オーガだけは話が違う。シールドをベースにしたブレードライガーでさえ、あれほど扱いにくいのだ。OSを積んだゴジュラスなど、人に操れるはずがない。
「気の毒だが、あきらめるこった」
 
 風変わりな傭兵のことは、すぐにアーサーの頭から消えた。雑務が山のようにあったのだ。他に、気がかりなこともあった。ロブ基地に近づいてきている低気圧のことだ。今夜半には、嵐に変わる。なぜか、妙な胸騒ぎがしていた。

▲陸からは装甲師団が、海からは海兵部隊が接近。共和国軍は、袋のねずみ同然だった。

 アーサーの予感は当っていた。帝国軍の総攻撃が迫っていたのだ。共和国最強部隊のエウロペ上陸は、帝国司令部に危機感を植えつけた。そして、共和国軍が再編成を終える前に、戦いの決着をつける決心を固めさせたのだった。


 だが、補給不足に苦しむ帝国軍に長期戦は許されない。できるだけ短い時間で、決定的な勝利をおさめなければならない。そして、司令部が選んだ作戦は奇襲であった。それも、圧倒的戦力で挑む奇襲。

 ストームソーダーの出撃できない嵐の夜を待って、地上部隊50個師団(兵員約100万人、戦闘ゾイド約5万機)と、シンカー、ブラキオス、ヘルディガンナーからなる混成海兵部隊(戦闘ゾイド約1万機)が、陸海同時攻撃をかけるのだ。これに対し、再編成中の共和国軍が、この夜動かせる戦闘ゾイドは2万機足らず。3対1の戦力差で挑む万全の作戦だった。
 
 悪天候を覚悟で出撃したレドラー決死隊が、まず共和国前線に穴をあけた。その穴から装甲師団が雪崩れ込む。完全に不意をつかれた形の共和国軍は、次々と防衛線を突破されていったのである。

 帝国軍装甲師団は、すでにミューズ森林地帯を越え、その先鋒は共和国軍最後の砦、ロブ基地に迫っていた。一方、混乱する共和国軍は、まだ組織的な反撃に移れない。戦闘開始から4時間。共和国軍は、いつ全面崩壊してもおかしくない情況に追いこまれていた。

 だが、この危機を救った勇敢な部隊があった。正規軍ではない。それは金で雇われた戦闘のプロ、傭兵部隊である。彼らの多くはエウロペ出身であり、侵略戦争を起こした帝国軍を、激しく憎んでいた。彼らが、鬼神のように戦ったのだ。
 傭兵部隊の装備は、正規軍よりはるかに劣る。ほとんどが小型ゾイドか、アタックゾイドと呼ばれる歩兵用の超小型機だ。だが、落とし穴やぬかるみなど、さまざまな罠に誘いこみ、命知らずの肉弾戦で次々に敵機を葬っていったのである。

 彼らの活躍が、共和国軍に立ち直る時間を与えてくれた。不利な形勢に変わりはないが、それでも各部隊は、少しずつ落ち着きを取り戻しつつあった。
 
――このまま戦いを長引かせられれば、敵の弾薬は切れ、再編成中の味方も出撃できる。共和国司令部に希望の光が見えてきたその時だった。ロブ基地に非常警報が鳴り響いた。1機のアイアンコングの侵入を許してしまったのだ。重武装を施された紅い改造コング。帝国摂政プロイツェンが、前線の士気を高めるために送りこんだPK師団所属のコングであった。

 ノーマルコングとは比較にならない機動力と火力。慌てて迎撃に出た基地守備隊は、なすすべもなく蹴散らされていく。そしてついにPKコングは、まだ発進できないゾイド数千機が待機した、格納庫の扉を探し当てたのだった。

 格納庫は、最前線より酷い有様だった。詰めこむだけ詰めこんだゾイドを、1機でも多く出撃させようと大混乱が起きていた。アーサーも、このパニックの中にいた。四方を味方機に塞がれ、ブレードは身動きひとつできない。そこに、PKコングが躍りこんできたのだ。

プロイツェンナイツ

▲不敵にも、ただ1機で共和国基地に侵入したPKコング。傭兵アーバインが、この非常事態に気づいたが…。

▲思うままに暴れ回るPKコング。身動きのとれない共和国ゾイドを次々に破壊していく。

 コングにとっては、演習よりも楽な戦いだったろう。撃てば必ず敵に当たる。誘爆が誘爆を呼び、一撃で5~6機のゾイドが破壊できた。

「火を消せ!」
「通路を塞いでいる、そのゾイドをどけろ!」

 怒声が飛び交い、作業員が逃げ惑う。コングを狙った弾が、味方機に命中する。

「こいつは、マジでやばいぜ」
 誰よりも陽気で、楽観的なアーサーでさえ覚悟した。たった1機の敵のために、数個師団分の戦力が失われる。奇跡でも起きない限り、そうなるはずだった。

▲格納庫に侵入したPKコング。ここにはオーガをはじめ、数千機のゾイドが無防備に並んでいる。共和国軍、危うし!

 だが、起きたのだ。その奇跡が。
 
 突然、コングの開けた穴から、もう1機のゾイドが飛びこんできた。ブラックカラーのコマンドウルフ。傭兵アーバインの機体だ。オーガに狙いを定めたコングに果敢に立ち向かう。

 だが、機体性能があまりにも違いすぎた。歯が立たない。床に、壁に、何度も叩きつけられる。それでも必死に立ち上がるコマンド。

「あのパイロット。オーガを守っているのか?」

▲傭兵アーバインとコマンドウルフは、自らを盾にしてPKコングからオーガを守りきった。

 アーサーには、そう見えた。実際コマンドは、オーガの盾になるようにコングの砲撃を受け、砕け散ったのである。

 そして、奇跡が始まった。パイロットもなく、自動操縦装置も切られたままのオーガが動き出したのである。

▲パイロットも乗せず、本能の命じるまま動き始めたオーガ。そのパワーは、PKコングすら一瞬で引き裂いた。

 コングのパイロットは、よほどの精鋭なのだろう。突然、始動したオーガに、冷静にビーム砲を打ち込んだ。

▲まるでアーバインの心に応えるように覚醒するオーガ。最強の獣鬼が、ついに始動した。

​ 至近距離。重装甲のゴジュラスでも貫かれる。だが、内蔵されたOSが、瞬時に金属細胞を修復していく。オーガが、コングに掴みかかった。超絶的なパワー。もがくコングの巨体をアメのように捩じ切っていく。

 やがて、生命力を失って崩れ落ちるコング。その体を無造作に投げ出したオーガは、コマンドウルフから這い出したアーバインに、ゆっくりとコクピットを開いていくのだった。

▲オーガの奇跡が起きていた頃、海では帝国海兵隊の上陸が迫っていた。だが、海底から謎の機体が現れて…?

 戦況が、変わろうとしていた。依然、帝国軍は優勢ではあったが、共和国軍の粘り強い抵抗に弾薬が尽きかけていたのである。それでも帝国軍は、前進をやめなかった。
 
――もう少しで、海兵部隊が上陸するはずだ。
――今、海からの増援があれば、共和国軍を全滅に追い込める。予定より上陸が遅れているのは、予想以上に海が荒れているからだろう。

 その思いが、彼らを前へ前へと駆り立てた。だがこの判断が、やがて帝国軍を全面敗走に追い込むことになる。

▲海戦を制したハンマーヘッド。その活躍が共和国軍に勝利をもたらした。

 海からの援軍は、最後まで現れなかった。海には、共和国軍の最新鋭機ハンマーヘッドが密かに配備されていたのだ。武装も装甲も索敵能力も、シンカーをはるかに上回るこの空海両用機の防衛網を、帝国海兵部隊はついに突破できなかったのである。

 嵐が去り、夜が明けるける頃には、共和国軍の有利は誰の目にも明らかになっていた。開戦以来初めて、共和国軍の前進が始まったのだ。この進軍に、格納庫からやっと出ることができたアーバインのオーガ、アーサーのブレードも加わっていた。

 味方の士気は高い。当然だ。目の前に、弾を撃ち尽くした敵が何万といるのだ。この追撃戦次第では、エウロペの勢力地図を一気に塗り替えることができる。だがアーサーは、仲間たちとはまったく別のことを考えていた。パイロットとゾイドの関係についてである。

 OSを搭載したゴジュラスが、人に心を開く。アーサーは、その奇跡を見た。
 
――自分とブレードは、今のオーガに勝てるか?
 勝てない。そう思う。多分、あの"R"のジェノザウラーのパイロットに、次に会った時にも。

bottom of page