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新型ゾイド開発計画

ZAC2100年01月 北エウロペ大陸 帝国軍ニクシー基地

 こいつを量産するだと?馬鹿な!今のテストを見てたはずだ。ああ、そうさ。確かにこいつは強力だ。だがな、こいつは誰にも操れない。賭けてもいいぜ。こいつは敵より先に、自分のパイロットを壊すだろう。
(帝国軍テストパイロット、リッツ・ルンシュテッド中尉の発言記録より)

▲エウロペ大陸最大の帝国軍基地ニクシーで、恐るべきテストが始まる。

 ZAC2100年、初頭。極寒の本国からたっぷり5時間、揺られ続けたレドラーの狭いコクピットからニクシー基地へと降り立った帝国軍中尉リッツ・ルンシュテッドを最初に出迎えたのは、赤道直下の熱風だった。
 風は基地を囲む焼けた砂の大地の形を変え、猛烈な勢いで飛び去っていく。刻々と変わりゆく景色。それは、見る者を飽きさせもしない代わりに、どこか不安な気持ちにもさせる。そんな想いが、顔に出たのだろうか。整備兵のひとりが歩み寄り、リッツの肩をポンとたたいた。

「私もね、このクソったれな砂と暑さにゃ、最初は滅入ったもんですよ、中尉殿」
 人のよさそうな、シワだらけの笑顔。
「でもね。慣れますよ、すぐに。いや、慣れる前に、この戦争も終いでさね」
 また、肩をたたいた。どうやら、自分の息子ぐらいの年ごろのヒヨコ士官を励ましてくれているらしい。
 
「だといいね」
 リッツも笑顔で会釈を返した。老整備兵は知らなかったのだ。このヒヨコのように歳若い士官が、帝国軍きってのテストパイロット「アイスマン」と呼ばれる男であることを。

▲レッドホーンGC(ガトリングカスタム)テスト機のひとつ。武装、装甲、内部機関を強化したレッドホーン。

 ガイロス帝国軍司令部は、すでに西方大陸戦争の先を見ていた。中央大陸、ヘリック共和国本土への侵攻作戦である。
 40数年前の異変からの再建に力を注いできた共和国は、経済力、工業力とも帝国をはるかに上回る。この力が戦争に向けられる前に、共和国の中枢を叩くことが、帝国の大戦略だ。そのためには、敵本土においても戦いを一気に終結させうる新型ゾイドの開発が必要だったのだ。 

▲セイバータイガーAT(アサルトタイプ)武装と機動力を大幅に強化した改造セイバーもテスト機に選ばれた。

 だが、帝国開発班の意見はふたつに分かれていた。ひとつは、今の主力ゾイドを強化改造するという意見。これなら開発費が安く、確実な成果が期待できる。
 もうひとつは、デスザウラー復活計画に利用した古代文明の超技術「オーガノイドシステム」を搭載した新型機を開発するべきだという意見だった。システムの解析は未だ不完全ではあったが、計算ではゾイドの戦闘力を飛躍的に伸ばせるという。両者は譲り合わず、ついに司令部は「お互いが開発した機体同士を戦わせ、その結果で新型決戦ゾイドを決定する」との意向を発表した。
 この戦いのために召集されたテストパイロットのひとり、それがリッツだった。

 ジェノザウラーのコクピットに座った瞬間から、リッツはこれまで感じたことのない違和感を覚えていた。鼓動が速い。通信機ごしの管制官にさえ、乱れた呼扱を聞き取られそうだ。理由のない破壊的な衝動が、腹の底から突き上げてくる。

▲リッツは、オーガノイドシステム搭載ゾイド「ジェノザウラー」に乗り込んだ。

 ――落ち着け。落ち着くんだ。こいつは仕事だ。機体の性能を100パーセント引き出して、お偉いさんに見せてやればいい。いつもと同じように。クールに。

「どうした、アイスマン?いつになく入れ込んでるじゃねえか?」

「今日はいただきかな、中尉殿」

▲至近距離からのビームガトリングを、軽々とかわしていくジェノザウラー。異様とも言える機動力と反射速度だ。

▲セイバーの首を、一撃で粉砕するパワー。この格闘能力に加え、ジェノザウラーには荷電粒子砲まで装備されていた。

 レッドホーンGCを駆るジョルドット中尉と、セイバータイガーATのスパンツ軍曹。顔見知りのテストパイロットだ。リッツはジェノザウラー1機で、この2機と戦うことになっている。当然だ。双方の開発費には、5倍以上の開きがある。それはいい。問題は、同僚に対する覚えのないこの憎しみだ。
 ――まさか、このゾイドの感情が、俺に流れこんでいるのか?

 ゾイドに感情や闘争本能、パイロットとの相性があることは、もちろん知っている。だがそれが、パイロット自身の感情を左右するなんて聞いたことがない。
 
 ――テストの中止を!
 リッツが、そう叫ぼうとした時、2機が左右から突っこんできた。戦いの始まり。いや、正確にいえば、それは虐殺の始まりだった。

 強化改造ゾイドのカは、帝国司令部の期待以上だったはずだ。セイバーATは250キロ以上のスピードで、正確にミサイルを撃ちこみ、レッドホーンGCのビームガトリング砲は、巨大な岩山を一瞬で消滅させた。だが、ジェノザウラーのカは、これまでの戦いの常識を打ち破るほどの凄まじさだったのだ。暴風のようなセイバーをさらに上回る機動力。重装甲のレッドホーンを一撃で粉砕する超パワー。そしてなにより、いかなるゾイドも及ばない恐るべき凶暴性…。

 ボロ屑のように引き裂かれた2機の強化ゾイドから、重傷を負ったテストパイロットが引き出されるのを見つめながら、司令官は呆然とつぶやいた。

「直ちにジェノザウラーを量産せよ」と。

◀ ジェノザウラーの量産が決まった頃、遥か東の共和国軍ロブ基地でも、新世代ゾイドの開発が進められていた。

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