top of page

帝国3大ゾイド降臨

ZAC2100年07月 帝国軍ニクシー基地~ヘスペリデス湖

 赤い紋章のブレードライガー。あの日から、奴のことが頭から離れない。奴を倒したい。そのためなら、どんなゾイドでも乗りこなしてみせる。たとえ、この身がどうなろうと。
(帝国軍特殊戦術隊リッツ・ルンシュテッドの私的記録より)

▲第2次全面会戦に敗れた帝国軍は、必死の撤退を続けていた。

 帝国軍拠点ニクシー基地。今ここで、リッツのジェノザウラーが生まれ変わろうとしていた。ガリル遺跡でブレードから受けた傷は、とうに修復されている。だがリッツは、そのまま再出撃する気になれなかった。戦術班が分析した、ジェノザウラーとブレードライガーの戦力比較報告書を読んだからだ。

 要約すると、それは「兵器としての総合力ではジェノザウラーが上だが、直接対決ではブレードが優る」というものであった。ジェノザウラーは、ブレードには相性が悪いのだ。あらゆる状況に対応できるバランスの良さゆえに、格闘性能で突出したブレードに遅れをとるのだと。

――ならばジェノザウラーの格闘性能も強化する。たとえ、どんなに扱いにくい機体に変わろうが!
 リッツの要請が、帝国技術部を動かした。技術者たちは、求められるままに彼の愛機を強化した。魔装竜ジェノブレイカーという名の怪物へと……。

 戦場では、砂塵が舞っていた。敵味方、無数のゾイドたちが舞い上げる荒々しい砂塵が。
 第2次全面会戦から5日。総攻撃に失敗した帝国軍主力部隊は、必死に西を目指していた。共和国軍の追撃部隊を振り切り、味方の防衛線に逃げ込むためだ。そこで部隊を立て直し、再び戦闘態勢を整えなくてはならない。その撤退ルートはふたつ。ひとつはミューズ森林地帯の北を抜け、砂漠地帯へと出るルート。もうひとつは、アレキサンドル大地を横切りヘスペリデス湖を渡って砂漠に出る南ルートだ。

▲南北2つのルートから逃げる帝国残存部隊。だが、共和国軍の追撃が続く。

 

 南ルートの帝国部隊には、逃げ切るための作戦があった。湖にかかる一本橋だ。味方が橋を渡った後、爆破してしまえば共和国軍はもう追ってはこれない。だが、敗戦で疲れきった足取りは重い。橋を目前に、ついに共和国軍に追いつかれてしまったのである。最後尾を守る殿部隊が突撃するが、一発の砲弾さえない。たちまち敵の砲撃に蹴散らされる。絶体絶命。帝国兵士の誰もが、死を覚悟した。

▲シェノブレイカーに出撃命令が出た。
「共和国追撃部隊を倒し、撤退する味方を救出せよ」と。

 だが、その時だ。橋の向こう側から1機のゾイドが現れたのだ。ジェノザウラー? 違う。その機体は血のように紅い。巨大な盾とブースターがあまりに武骨だ。
 敵味方が戸惑う中、紅い怪物は、ゆっくりと共和国部隊に挑みかかった。

▲ジェノブレイカーは、味方部隊を守るように共和国部隊の前に立ち塞がった。

 紅い怪物。それはリッツのジェノブレイカーだった。帝国軍は主力部隊壊滅の危機を、全予備兵力を投入して食い止めようとしていた。テストすら満足にしていないジェノブレイカーを派遣したのもそのためだ。だが、なんという出現の素早さだろう。帝国主力部隊が総退却に移って2日。はるか後方のニクシー基地が、混乱する情報をまとめ、増援を出撃させるにしても準備だけで丸1日以上かかるはずだ。

▲次々に倒されていく共和国ゾイド。恐るべき帝国の新型機に、ブレードライガーが勝負を挑んだ。

 基地からヘスペリデス湖までは直線で約3000キロ。ジェノブレイカーはわずか半日で、その距離を走破したことになる。砂漠をだ。常識では不可能なこと。それを魔装竜はやってのけた。リッツを、十分満足させる機動力だった。

――次は、おまえの戦闘力を見せてみろ。
 
 リッツは、共和国追撃部隊の先鋒に突撃した。エクスブレイカーを振るう。紙よりも楽にゾイドが切れた。フリーラウンドシールドで砲撃を受けとめる。衝撃は感じる。だが、それだけだ。荷電粒子砲を発射する。10数機の敵が消滅し、ものの数秒で再チャージが完了する。

 強い。無敵のカを得たのだと実感できる。

▲ブレードがロケットブースターを全開にしても、ジェノブレイカーの動きは捉えきれない

 不意に、視界に蒼いゾイドが飛びこんできた。ブレードライガーだ。ナーバスな機体の操縦で疲労した体に、一瞬でカが甦る。思いきり機体を横滑りさせて攻撃をかわし、粒子砲を叩き込む。1発。2発。3発。それで、ブレードのEシールドは使いものにならなくなった。一気に、とどめを刺す。

▲連射が可能な荷電粒子砲。強靭なEシールドといえども、耐えることは不可能だった。

――違う。遺跡で戦った奴じゃない。
 紋章を確認するまでもなかった。あのパイロットなら、こんな無様な戦いはしない。多分、OSの出力を調整した量産機なのだろう。帝国軍も、そのやり方でジェノザウラーの量産に着手したと聞く。

――奴は、あのブレードはいないのか?

 共和国ゾイドの群れから、必死に標的を見つけ出そうとするリッツ。「アイスマン」と呼ばれた頃の冷静さは、今はない。さらに敵部隊の中へと分け入ろうとした彼を、司令部からの通信が遮った。

 

「友軍の撤退は完了した。橋を破壊せよ」

▲何体かの共和国機が魔装竜を振り切り帝国軍を追ったが、この数では戦果を上げることはできず返り討ちにあってしまった。

 リッツの奥歯がギリと鳴った。目指す敵に会えなかった悔しさがこみあげてくる。だがすぐに「いや」と思い直す。奴とは、必ずまた会える。最もふさわしい時に、ふさわしい場所で。ジェノブレイカーの本能が、そう告げている。
 ふっ、と大きく息を吸いこみ、リッツは橋に向かって荷電粒子砲を発射した。

橋を破壊するジェノブレイカー。敗走する味方を、共和国軍から守り切った。

▲EZ-035 ライトニングサイクス

南ルートの帝国軍は退却に成功した。そして北ルートにも、帝国の新鋭機が投入されようとしていた。

▲EZ-036 デススティンガー

​そのうちの一機、デススティンガーは、ガリル遺跡の核をもとに生まれた「真オーガノイド」だった。

bottom of page