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オーガノイド争奪戦

ZAC2100年03月 南エウロペ大陸 エルガイル海岸

 OS(オーガノイドシステム)の完成は、我が帝国大戦略の根幹である。現状でそれが不完全というのなら、エウロペのすべての大地を掘り返してでも、欠けたピースを探し出すのだ。
(帝国摂政ギュンター・プロイツェンの命令書より)

▲ガリル遺跡を目指す帝国軍の上陸地点は、エルガイル海岸であった。

 テスト戦闘から2ヶ月。ジェノザウラーの量産は、未だ進んでいなかった。乗りこなせる者がいなかったのだ。OSの精神的ダメージに耐えられる者は、エースパイロットですら10人に1人。量産兵器として致命的な欠陥だ。当然、決戦ゾイド開発計画は見直されるべきだった。

 だが3月、帝国司令部が新たに発動した作戦は、あまりに意外なものであった。「南エウロペ大陸への派兵」である。

 まだ見ぬ古代遺跡が数多く残るこの地を制圧し、より完全なOSデータを手に入れようというのだ。司令部は、不必要な戦線拡大というリスクを冒してまでも、OSの完成を目指したのだ。
 一方、帝国の南方進出を察知した共和国軍は、直ちにゴジュラス1機を含む1個大隊を派遣。予想上陸地点、エルガイル海岸に防衛陣を築き上げた。だが…。

▲共和国軍は帝国軍より先に、南エウロペに防衛陣を敷くことに成功した。

 戦闘開始後、わずか1時間で防衛隊は壊滅してしまう。帝国派遣部隊にジェノザウラーが配備されていたからだ。
 ジェノザウラーは、共和国軍の放つ雨のような砲撃をかわし、弾き、防衛線を突破。密集陣形をひく共和国ゾイド部隊に、集束荷電粒子砲を発射したのである。

 閃光。そして爆発。唯一生き残ったゴジュラスも、後続のレブラブタ一隊の餌食となった。限定的とはいえ、OSを組みこまれたこの新型機獣の闘争本能は凄まじく、巨象を襲うアリの群れのように、ゴジュラスを打ち倒したのである。

 静寂が訪れた戦場を、冷徹な目で見下ろすジェノザウラーのパイロット。それは、まぎれもなく、あのリッツ・ルンシュテッドだった。
 誰も殺さず、自らの命だけをかけてきた誇り高きテストパイロットは、OSの影響を受けてわずかに2か月で、殺戮マシンへと変貌しようとしていた。

◀ ガリル遺跡に向かって進撃を開始する帝国派遣部隊。もはや、共和国軍に止める方法はないのだろうか?

▲自らの死を恐れないレブラプターの突撃は、共和国最強ゾイド、ゴジュラスさえも打ち倒した。

 月明かりに照らされた南エウロペ大陸の荒野を、一陣の疾風が駆け抜けていく。ゾイドだ。蒼きライオン型ゾイド。だが、シールドライガーではない。機体速度は、時速300キロを超えている。こんなスピードをもつゾイドは、共和国はおろか、帝国にもいないはずだ。
 機体頭部に紋章が見える。獅子と盾をかたどった紋章。共和国軍高速戦闘隊の選ばれし7人の騎士「レオマスター」にだけ許された紋章だ。
 パイロットの名は、アーサー・ボーグマン。仲間うちでは「クレイジー・アーサー」で通っている。その輝かしいキャリアと年齢からすれば、とうに将軍になっていてもおかしくない。だが、昇進話が持ち上がるたびにわざと問題をひき起こすのだ。それで、未だに少佐。
 
――死ぬまで俺は、ゾイド乗りさ。
 それが口癖だ。だから、まわりは愛情を込めて「クレイジー」と呼ぶ。
 
 この夜、クレイジー・アーサーは、新しいオモチャを手に入れた子供のように上機嫌だった。彼の新たな愛機の反応が、楽しくて仕方ないのだ。
 恐ろしく気分屋のゾイドだった。ただ、まっすぐ走らせることさえ容易じゃない。性格は狂暴。その闘争本能に、操縦しているこっちまで引きずられそうになる。
 
――とんでもないゾイドを造りやがった。
 
 ブレードライガーと名づけられたこの機体には、デスザウラー復活計画を阻止した高速戦闘隊の生き残りが持ち帰ったデータが組みこまれているのだという。
――OSとかいったか。誰にでも乗りこなせる代物じゃないが…、おもしろい。

▲めざすはガリル遺跡。だが、先行するジェノザウラーはどこに?

 アーサーに与えられた使命は、ブレードライガーの実戦テスト。そして、2週間前に南エウロペに侵入したジェノザウラーより先に、古代遺跡のデータを持ち帰ることだ。重要な任務であるにもかかわらず、満足に機体を操ることもできない自分がおかしかった。
 
 ――まあ、なるようになるさ。

▲共和国軍新型主力ゾイド、ブレードライガー誕生。南エウロペを突き進むジェノザウラーを止められるのか?

 思い通りに操れないなら、ゾイドのしたいようにさせるのが一番だ。そんなわけで、もう一晩中も駆け続けている。それでもブレードライガーは、正確にガリル遺跡を目指していた。まるで、そこにある「何か」に引き寄せられているかのようだ。

 不意に、ブレードが緊張した。レーダー反応なし。熱源探知機にも反応なし。だが、アーサーは瞬時に判断していた。ブレードの本能を信じると。
 宙に向かって跳躍する。不思議なほど素直に、ブレードは反応した。

 閃光。さっきまでブレードのいた大地が燃え上がった。奇襲だ。息をひそめて地に潜っていたレブラプターの群れが、牙をむいたのだ。だが奇襲攻撃は、一度見抜いてしまえば脆いものだ。機動力ではるかに上回るブレードがレブラプター部隊を各個に撃破していく。


 さらに上空から飛行ゾイドが急降下し、2機の小型ゾイドを投下した。ストームソーダーとガンスナイパー。ブレードの護衛機として南エウロペに投入された共和国の新型機。これらのゾイドにも、限定的にOSが組みこまれている。
 逆に奇襲を受け浮き足立ったレブラプター部隊に、もはや勝機はなかった。

▲低速で音もなく飛ぶストームソーダーが、2機のガンスナイパーを搭載し、上空からブレードライガーを護衛していた。

▲戦力的には互角の2機。だが、浮き足立ったレブラプターは、次々に撃破されていった。

 OSは、ゾイドの戦闘力を飛躍的に高める画期的な技術だ。だが人が操るには、まだ致命的な「何か」が欠けている。それを補う方法を、アーサーは考えていた。
 問題は、激しすぎる闘争本能。ゾイドと一体となって操縦するパイロットの精神がもたないのだ。ならぱ、それを受け流す。精神的な繋がりを断ち、パワーだけを的確に引き出す操縦をするのだ。

 口でいうほど簡単ではない。優れたパイロットほど、ゾイドとの精神的な繋がりは強いものだ。だが、やれる。「クレイジー・アーサー」なら。レブラプターとの戦いが、自信になっていた。
 
 欠けた「何か」が埋まっているはずのガリル遺跡は、もう目前だった。

▲ガンスナイパーが、ガリル遺跡への侵入口を発見。ブレードとともに内部に侵入した。

▲迷路のような遺跡を進むブレード。一方ジェノザウラーも、OSデータを求めて遺跡をさまよっていた。

 地下に広がる朽ち果てた巨大都市。それが、ガリル遺跡だった。リッツ・ルンシュテッドがここに降りて、もう2日が過ぎた。迷路のように複雑な通路を、ジェノザウラーの本能だけを頼りに進んでいく。感覚が、研ぎ澄まされている。多分、長時間コクピットに座り続けているからだ。奇妙な一体感。だんだん、自分がリッツなのか、ジェノザウラーなのかわからなくなってくる。そして、それが心地よい。

 どこからか、モーターの音が聞こえてくる。遺跡のシステムが、まだ生きている証拠だ。
――近い。
 目指すものが、すぐそばにあるという感覚。さらに気配をうかがう。
 
――!?
 何かがいる。目指すものとは別の何か。
 
――敵?

 強敵。倒すべき存在。
 リッツ=ジェノザウラーが駆けた。通路を隔てる壁を破壊し、一直線に目標に。そして、出会った。見たこともない蒼いライオン型ゾイドに。本能でわかる。共和国の新鋭機だ。ヤツにもOSが搭載されている。
 背後には、培養カプセル。あれがOSの欠陥を埋める「何か」に違いない。リッツ=ジェノザウラーが吼えた。蒼き機獣を倒し、あのカプセルを持ち帰ると。
 蒼き機獣・ブレードライガーも吼えた。コクピットのアーサーにはその咆哮が、強敵に出会えたブレードの、歓喜の歌のように思えた。

 リッツは、荷電粒子砲を撃ちたい衝動に必死に耐えていた。威力がありすぎて、自分や培養カプセルまで傷つけてしまうかもしれないからだ。だが、能力が制限されるのは相手も同じだろう。この狭い通路では、運動性能は十分に発揮できない。高速戦闘を得意とするライオン型ゾイドにとって、これは致命的なはずだ。
 ならば、通常兵器でいける。たとえシールドライガー級のEシールドを持っていたとしても、この至近距離なら貫ける。

「いけっ!」
 リッツの指が、トリガーにかかる。ジェノザウラーの砲塔が一斉に火を吹いた。同時にブレードが跳んだ。ロケットブースター全開で壁に駆け上がり、砲撃をかわしながらレーザーブレードを展開。一気にジェノザウラーに切りこんだのだ。

▲ジェノザウラーの一斉射撃を、鮮やかにかすむブレードライガー。その反応速度と運動性能は、驚異的であった。

 衝撃。ジェノザウラーの砲塔と左腕が宙を舞った。同時に、自分の腕をたたき落とされたような痛みがリッツを襲う。ジェノザウラーの怒りと屈辱が、自分のことのように感じられた。 
――荷電粒子砲で!
 
 闘争本能が、一瞬リッツに任務を忘れさせた。だが、怒りで曇りかけた視界に、培養カプセルが飛びこんできた。偶然にもジェノザウラーは、カプセルのある方向に倒れこんだのだ。
 カプセルの中で、妖しく輝くゾイド核。怒りを飲み込み、リッツはカプセルから核を引きずり出した。

▲ジェノザウラーの重装甲さえ簡単に切り裂くレーザーブレード。

▲ブレード優勢。だが、OS完成のカギを握る未知のゾイド核は、ジェノザウラーの手におちた。

▲荷電粒子砲で遺跡の天井を破壊したジェノザウラーは、恐るべき跳躍力で地上へと脱出した。

「それを渡すわけにはいかない!」
 アーサーのブレードが、再び突繋をかける。だがリッツはすでに次の行動に移っていた。荷璽粒子砲を発射したのだ。それも、遺跡の天井に向かって。


 轟音をたてて崩れ始めるガリル遺跡。
「ちぃ!」
 舞い落ちるガレキを必死でさけるブレードを、燃えるような瞳で睨みつけるジェノザウラー。
「その額の赤い紋章。覚えておく!」
 
 今日は、負けだ。だが、この決着は必ずつける。そう誓いながら、リッツは思いきりブースターをふかした。
 大穴の開いた天井から脱出七ていくジェノザウラーに刻まれた"R"のマークを見つめながら、アーサーもまた自分が負けたと感じていた。OSを感情ごとねじ伏せるようなあの操縦は、自分にはできない。そしてまた、こうも感じていた。
 
――あのパイロットとは、いつか必ずまた出会う。そう。どこかの戦場で、必ず。

◀ 遺跡上空ではストームソーダーが警戒飛行を続けていたが、突然、大地を割って現れたジェノザウラーの荷電粒子砲をかわしきれず翼を損傷。ジェノザウラーを取り逃がしてしまった。

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