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目標・帝国の首都

共和国大進撃

ZAC2038年

 国境の橋は無数の車両であふれかえっていた。混乱の原因は、一台のカノントータスであった。交通整理の兵士が、車両の間をすりぬけるようにすっ飛んできた。カノントータスのコックピットから、若い士官が照れくさそうに降り立った。
 大尉に昇進したトーマスである。


「こいつが敵の土地に入るのをいやがってね」
 トーマス大尉は、故障した愛機を軽くたたきながらおどけてみせた。
 
 半年前、帝国軍精鋭の渡ったこのバーナム川を、共和国の大軍が東から西へ移動していた。 彼らに勝利を運んできてくれた東風が、今も軍服のすそをはためかしていた。


「修理班を手配しました。ここでしばらく休息してください。なに、敵は逃げはしません」
 兵士の言葉使いの中にも、どことなく余裕が感じられ、うっかりすると、まだ戦争中であることを忘れそうであった。
 トーマスは前方の空を見ながら、手に持った金属の棒を指でそっと確かめた。

 修理はほどなく終わり、兵士が敬礼しながらカノントータスのキャノピーを開いた。
「大尉殿、操縦桿もはずれたのですか。それにしても見慣れない形ですな」
 
 トーマス大尉は、それに答えず愛機に乗り込んだ。彼が手にしていたのは、氷原に散ったかつてのライバル、コマンド"エコー"が最後の瞬間まで握りしめていたであろう、あのアイアンコングMK-Ⅱの操縦桿の破片であった。
 
 カノントータスはゆっくりと前進を始めた。
 西へ。逃げのびた皇帝ゼネバスのたてこもる帝国の首都へ――

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